第百八十五話 散歩の途中
どういう関係か。
そう聞かれると、少しだけ答えに困る。
オルフィアはマバール家の人間ではないし、俺の部下でもない。かといって、ただ顔を知っている程度でもない。
魔法の話ならいくらでも出来るし、あいつが妙なことを思いつけば試すこともある。
「まぁ、魔法友達で遊び相手だな」
俺がそう答えると、シルフィアは目を瞬かせた。
「そうなのですか……」
意外だったのか、少しだけ考え込むように視線を下げる。
「ご当主様は、ルディア家のような普通の貴族家が生き残るには魔法が大事なのだとお考えで、オルフィア様も……」
そこで言葉が途切れた。
シルフィアは何かを思い出しているようだったが、俺にはそこまでは分からない。
ただ、話を聞いていると、ルディア家はルディア家で色々あるらしい。
俺はこれまで、国境で帝国と睨み合っていたマバール家に比べれば、王国の内側に領地を持つ貴族なんてずいぶん安全で気楽なんじゃないかと思っていた。
だが、安全だから何も困らないというわけでもないらしい。
家を残す。
魔力を残す。
後を継ぐ者を決める。
国境で敵と殺し合うのとは違うが、これはこれで面倒そうだ。
「でも、よくオルフィア様と話が合いましたね」
シルフィアがこちらを見る。
「オルフィア様はかなり魔法に関して、その……えっと……熱心なのに」
「そうだな。かなりの変態だな、オルフィアは」
「いえ、別に変態なわけでは……」
シルフィアが小声でごにょごにょ言い始めた。
否定するなら、もっと堂々と否定すればいいのに。
まぁ、幼い頃から仕えているシルフィアですら言葉に詰まるんだから、やっぱりオルフィアは変態で間違いないんだろう。
俺は少しだけ空を見上げた。
陽はまだ高い。
ここであいつらの小屋へ戻る気もないし、かといって急いでマバール領へ帰る理由もない。
それなら――。
「ふーむ、とりあえずルディア領には行ってみるか。なんか暇になったし」
「えっ?」
シルフィアが目を見開いた。
「あの、ご領地に戻らなくていいんですか? 確かマバール家は今、帝国貴族なはずですよね」
「かまわん。暇だし散歩に行くだけだ」
「散歩……?」
そんな妙な顔をすることでもないだろう。
王国の中を少し見て回って、気になるところがあれば寄ってみる。
それだけだ。
すると、さっきから黙っていたセバスチャンが、隣で小さく息を吐いた。
「諦めた方がいいですぜ。どうせ止まりませんから」
「えっ、えっ」
シルフィアが俺とセバスチャンを交互に見る。
何をそんなに戸惑っているんだ。
俺はシルフィアの横へ馬を寄せた。
「お前もそろそろ乗れ。トロトロするのは性に合わん」
「え?」
返事を待つ必要もない。
立ち止まっていたシルフィアの首根っこを掴み、そのまま引き上げて前へ乗せる。
「あっ! また!」
さっきより早く抗議された。
だが、歩かせるよりこっちの方が早い。
「行くぞ」
手綱を引き、馬を走らせる。
「いえ、あの、まずは宿場町に!」
前から叫び声が飛んできた。
そういえば、仲間がいると言っていたな。
「よし、まずは宿場町だな」
行き先さえ分かれば問題ない。
俺が速度を上げると、隣でセバスチャンも馬を走らせる。
風が強くなり、シルフィアの髪が後ろへ流れた。
「どうだ、俺は優しいだろう」
「どこがですかー!」
ずいぶん大きな声だった。
「うむ、何も聞こえん」
「もう! やだ! この人!」
「うむ、何も聞こえんな!」
隣を見ると、セバスチャンが馬を走らせながら笑っていた。
「諦めなせえ」
「それも聞こえんぞ!」
俺が言い返すと、前に乗せたシルフィアが一際大きな声を上げた。
「ああ! もう!」
何か言っているような気がしたが、きっと風の音だろう。
俺たちはそのまま、宿場町へ向かって馬を走らせた。
次回更新は明日5時となります。




