第百七十八話 勧誘させろ
それから、俺とセバスチャンはしばらくこいつらと付き合うことにした。
付き合ってみると、これがなかなか面白い。
あの宿場町を中心に動いているらしく、小屋にずっと籠もっているわけではなかった。人が出て行き、しばらくすると戻ってくる。逆に、それまで見たことのない顔が連れて来られることもある。
最初は魔力持ちを集めているだけなのかと思っていた。
俺たちに声をかけてきた時もそうだったし、腕試しまでさせられたくらいだ。話し合うための力が必要だと言っていたのだから、集めるなら戦える奴を優先するのも当然だと思っていた。
だが、違った。
こいつら、平民まで勧誘している。
魔力持ちへ声をかける時は、宿場町を通る旅人が多い。俺たちが引っかかったのもそれだ。
ところが平民については、もっと広く動いていた。
宿場町だけではない。
周囲の村々まで出向いて、人を集めようとしている。
俺とセバスチャンも、その護衛としてついて行くことが多かった。
村へ続く土の道を歩きながら、俺は少し前を進む男たちの背を見る。
道の両側には畑が広がり、その向こうに低い家々が固まっていた。仕事の途中なのか、こちらを見る平民の姿もある。
俺たちは少し離れた場所で止まり、勧誘する奴らが村の人間と話すのを眺める。
何を言っても簡単に人が集まるわけじゃないらしい。
首を横に振られることもあれば、しばらく話を聞いている奴もいる。家の方を気にしながら何度も振り返る者もいた。
それでも、こいつらは何度も村を回っていた。
面倒じゃないのかね。
少なくとも、あのおっさんがさっきの話を適当に言っただけではないことは分かってきた。
こいつ、本気であの理想を信じてるっぽい。
俺は横で腕を組みながら、話している男たちを眺めた。
こうして見ているだけというのも悪くないが、何度もやっているのを見ると少し自分でも試してみたくなる。
人を勧誘するなんて前世でもやったことはない。
でも、面白そうだ。
笑わせてやる自信くらいはある。
話を聞き終えた男が戻ってきたところで、俺は何度目か分からない頼みを口にした。
「なぁ、俺にも勧誘やらせろ。大丈夫だ、笑わせられる。任せろ」
男は一瞬だけ足を止めた。
少し離れたところにいたおっさんがこちらを見る。
「いや、まだ護衛だけで充分だ。大人しく見ていてくれ」
「なんでだよ」
「護衛をしていてくれればいい」
またそれか。
別の日にも言ってみたが、返事は似たようなものだった。
うーむ。
何か足りないんだろうか。
やはり定番のツカミか。
一発ギャグくらい必要なんだろうか?
いや、でも誰もやってないんだよな。
勧誘している奴らを眺めても、急に変な動きをしたり笑わせたりする奴はいない。みんな妙に真面目な顔で話している。
だったら俺だって出来そうなんだが。
まあいい。
今すぐ絶対にやりたいわけでもない。
そのうち機会があればやらせてもらおう。
もう一つ、少し気になっていたこともあった。
あの女だ。
何度か護衛には出たが、あの女と一緒になったことは一度もない。
小屋では顔を合わせる。
だから話す機会がないわけじゃない。
なのに、ほとんど話したことがなかった。
少し離れた場所にいる女を見つけ、俺はそちらへ足を向けた。
ちょうど暇だったし、少しくらい話してもいいだろう。
だが、俺が近づくと女はこちらに気づき、すっと距離を取った。
「おい」
声をかけようとすると、間に別の男が入ってくる。
なんだ?
別の時にも似たようなことがあった。
俺が近づこうとすると女が離れる。
周囲の奴らも、なぜか俺を止める。
なぜだ?
分からん。
別に何もしてないんだが。
仕方がないので、暇な時には少し離れたところからじっと見て観察することにした。
見れば見るほど、どこかで見たような気がする。
やっぱり、あの関所にいた女だったんだろうか。
いや、違うか?
そもそも関所の女の顔をろくに覚えていない。
あの時は、女騎士がいるな、くらいにしか思っていなかった。
それなのに今は目の前の女を何度も見ているせいで、頭に浮かぶ顔がこっちばかりになってきた。
なんだか観察しすぎて、関所の女の顔は完全に忘れたような気もする。
まあ、問題ないだろ。
もう一度会うとも限らんし。
そんなことより、ここでの生活は思っていたより悪くなかった。
特に飯だ。
最初の頃より、明らかに美味くなっている。
ある時、出された飯を食べながら俺はふざけて言った。
「飯が不味かったら暴れるぞ」
もちろん冗談だ。
その時は周囲の何人かが妙な顔をしていたが、別に本気で暴れるつもりなんてない。
ところが、それから飯がなんかえらく美味くなった。
肉の焼き方も前よりいいし、付け合わせもちゃんとしている。温かいものはきちんと温かいまま出てくる。
ただの冗談だったんだが?
まあ、美味くなるなら文句はない。
セバスチャンの方も似たようなものだった。
食事の途中、空になった杯を眺めていたセバスチャンが声を上げる。
「おい、もっと酒はねえのか?」
すぐに酒が出てきた。
次の食事でも出た。
その次には最初から用意されていた。
セバスチャンは見るからにご機嫌だった。
うん。
きちんと要望を真面目に聞こうとする姿勢は、なかなか高得点だぞ。
一度での投稿が少し難しくなってきたため、今後は分割での投稿に変更させていただきます。
一日あたりの内容は、できるだけこれまでと同じくらいのボリュームで進める予定です。
次回の更新は20時となります。




