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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第百七十七話 金と飯次第


 小屋の中であてがわれた部屋は、ずいぶんと狭かった。


 壁際に粗末な寝台が二つ並び、その間には人が一人通れるくらいの隙間しかない。窓も小さく、外から差し込む光はもうほとんど残っていなかった。寝台に使われている布は城のものとは比べるまでもなく硬く、身体を預けるたびに下の板が小さく軋む。


 まあ、寝られないほどじゃない。


 俺は仰向けになったまま天井を眺めていた。


 隣の寝台では、セバスチャンも横になっている。小屋の外からは時々誰かの足音が聞こえ、壁の向こうでも小さく話す声がしていた。何を言っているかまでは分からない。


 しばらく黙っていたが、さっき聞いた話が頭から離れなかった。


「なぁ、さっきのどう思う?」


 天井を見たまま聞いてみる。


 少し間があってから、隣から声が返ってきた。


「まあまあ笑える戯言だな」


 俺は少しだけ目を動かした。


 いつものセバスチャンなら、俺に向かってこんな話し方はしない。


 たぶん、聞かれることを警戒してるんだろう。


 この薄そうな壁だ。外に誰か立っていたとしても分からない。傭兵だという話でここまで来ている以上、普段通りに話す必要もない。


「そうだな。俺もそう思う」


 小さく息を吐き、また天井を見る。


 話し合うための力、か。


 前世では民主主義がそれなりに世界へ広まっていた。


 別に俺だって、あれを何より優れた絶対に正しい仕組みだと思っていたわけじゃない。それでも、ある程度は優れた仕組みだったとは思う。


 ただ、あれはあの世界だったからこそ成り立っていたんじゃないだろうか。


 王だろうが平民だろうが、金持ちだろうが貧乏人だろうが、一皮剥けば同じ人間だった。


 王が平民になることだってある。平民が王になることもある。金持ちが何もかも失うこともあれば、何も持っていなかった人間が金持ちになることもある。


 立っている場所が変われば、強い側と弱い側がひっくり返る。


 だからこそ、互いに話し合って決めるという仕組みに意味があったのかもしれない。


 だが、この世界は違う。


 貴族と騎士と平民。


 同じ人間だと言われても、時々本当にそうなのかと思うくらい力が違う。


 魔力を持たないから平民だ。


 騎士には魔力がある。


 そして貴族ともなれば、その差はさらに大きくなる。


 もちろん貴族の中にだって強い奴と弱い奴はいる。俺と同じくらいの奴なんてそう簡単にはいないし、逆に騎士とそこまで変わらないような奴もいるだろう。


 それでも、平民との差が消えるわけじゃない。


 貴族と平民が、本当に同じ位置に立って話し合うなんて出来るんだろうか。


 獅子と蟻が向かい合って話をしたところで、どれほど意味があるのか。


 さっきのおっさんは、話し合うためには力が必要だと言った。


 それ自体は分かる。


 武力のない交渉なんて、相手が聞く気をなくせばそれまでだ。


 でも、それなら結局、話し合えるのは力を持った者同士なんじゃないか。


 強者同士が、いきなり殴り合う前に言葉で争う。


 それだけのような気がする。


 しかも、この世界の強者は話し合ったからって弱者にはならない。


 俺がどれだけ誰かに説得されたところで、明日の朝から平民になることはない。


 魔力を持たない人間になれと言われても無理だ。


 いくら話し合っても、俺の中にある魔力が消えるわけじゃない。


 だったら結局、今まで武力だけで争っていたところに、話し合いという別の争い方が増えるだけなんじゃないだろうか。


 まあ、弱い貴族家なんかには意味があるかもしれない。


 力では勝てない相手にも、別の形で何かを認めさせられるなら、それはそれで使い道はある。


「うーん……」


 寝台の上で身体を少し動かすと、板がぎしりと鳴った。


 やっぱり、あまり明るい未来は想像出来んなぁ。


 あのおっさんたちの考えが全部間違っている、とまで言うつもりはない。


 ただ、上手くいった先に平和な世界が待っているとは、とても思えなかった。


 さて、どうするかなぁ。


 出て行こうと思えば簡単だ。


 ここにいる連中に俺とセバスチャンは止められない。


 もちろん話し合っても無理だ。


 俺が帰ると決めて、そのまま歩いて出て行けばいい。それだけだ。


 でもなぁ。


 こんな変なことを真面目に考えた奴には、ちょっと興味がある。


 正しいとは思わんけど。


 絶対に知りたいわけでもないし、捕まえて問い詰めたいわけでもない。ただ、もう少し見てみるくらいなら面白そうだ。


「なぁ、どうする?」


 寝転んだまま、今度はセバスチャンの方へ顔を向ける。


 セバスチャンは枕代わりに丸めた布へ頭を乗せたまま、こちらを見ることもなく答えた。


「まぁ、金と飯次第だな」


 そう言って、口元だけで笑う。


 一瞬考えて、俺も笑った。


「それもそうだな。そうするか」


 結局、そこは大事だ。


 変な思想を聞くために腹を減らす気はないし、金も出ないならわざわざ働く理由も薄い。


 それに、あの女にもちょっと興味あるしな。


 関所で見た女だったような気もする。


 違ったような気もする。


 そもそも、あの時の顔をほとんど覚えていない。


 まあ、今すぐ決める必要もないだろう。


 ルディア領へ行くのが少し遅くなるが、オルフィアには暇ならと言っている。


 少しくらい寄り道しても問題ない。


 たぶん。


 俺はもう一度天井へ顔を戻した。


 粗末な寝台が、身体の下でまた小さく軋んだ。

一度での投稿が少し難しくなってきたため、今後は分割での投稿に変更させていただきます。


一日あたりの内容は、できるだけこれまでと同じくらいのボリュームで進める予定です。


次回の更新は12時となります。

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― 新着の感想 ―
忙しいとは思いますけれど頑張ってください。 期待しています。 月並みなことしか言えずすみません。
キラキラした思想に染まった騎士となると攘夷志士みたい
ただ話し合いだけで解決すると思っている純粋な人はいるとは思いますが、そう言う人を焚きつけて教祖に祭り上げた人の中にいる利己的な人が1番危険な歴史がありますね。 宗教の始まりとポルトガルの植民地支配の…
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