第百五十六話 天才の行方
小屋の中には、少し妙な沈黙が落ちていた。
さっきまでオルフィアが感知魔法について楽しそうに話していたはずなのだが、俺の頭の中にはもう別のものが居座っている。
目の前にいる女。
オルフィア・ルディア。
こいつは間違いなく天才だ。
変態ではあるが。
そこだけはもう疑いようがない。むしろ変態だからこそ普通とは違うのかもしれない。いや、変態と天才を一緒にするのは世の天才たちに失礼か。
俺は椅子に座ったまま、向かいにいるオルフィアを見る。
こいつはルディア家を守るために父親へ逆らい、自分の意思で帝国へ亡命しようとしている。
最初に聞いた時は、ずいぶん思い切ったことをする奴だと思った。
オルフィアの父親が考えていたのは、娘であるオルフィアを俺へ嫁がせ、それを足掛かりにルディア家そのものを王国から帝国へ移すことだった。
だがオルフィアは、それを嫌った。
娘を差し出して他人の力へ縋り、その庇護の下で生き延びる。
そんな形になれば、ルディア家は弱く情けない家として残ってしまう。
だから自分が父親へ逆らい、自分自身の意思で帝国へ亡命する。
そうすれば、少なくともルディア家が娘を差し出して生き延びようとした形にはならない。
賢い選択なのかと聞かれれば、俺にも分からない。
家族から離れ、護衛の騎士一人だけを連れて国を出るなんて、どう考えても簡単な道じゃない。それでも、それを選んだ覚悟は理解できる。
つまり、こいつにとっては自分の意思で帝国へ行くことそのものが大事なのだ。
それは分かる。
分かるんだが……。
俺は小さく息を吐いた。
こいつの才能、手放していいのか?
オルフィアが帝国へ亡命すること自体はいい。
今のマバール家も帝国貴族だ。王国貴族だったルディア家の娘が帝国へ来るというなら、むしろ歓迎してもいいくらいだろう。
問題は、その後だ。
アル兄さんは、オルフィアが帝国へ亡命した後、おそらく適当な帝国貴族と結婚させられて、帝国側に新しいルディア家のようなものを作ることになるだろうと予測していた。
俺も聞いた時は、そんなものかと思っていた。
だが。
今は少し違う。
目の前でこいつの魔法に対する考え方を聞いてしまった。
魔力は魔力だけでは何の力もない。
そんなことを当たり前のように言う奴だ。
感知魔法から、感知魔法らしさをできるだけ消していく。
そんな妙なことを本気で考え、それを実際に形にしようとしている。
普通じゃない。
魔法が上手いとか、魔法に詳しいとか、そういう話ではないのだ。
魔法そのものを、他の奴とは違う角度から見ている。
この世界では、魔法はある種の兵器でもある。
前世で言えば最新鋭の戦闘機やミサイルに近いかもしれない。
そう考えれば、オルフィアは新しい兵器を作る天才開発者みたいなものだ。
……いや。
こいつの場合、マッドサイエンティストの方が近いな。
変態だし。
俺はオルフィアの顔を眺めながら考える。
こんな奴を、適当な帝国貴族へ嫁がせていいのか?
そいつがオルフィアの才能を理解できるだろうか。
いや、理解するだけならできるかもしれない。
問題は、その先だ。
理解したうえで、この異常な考え方を受け入れ、好きにやらせることができるのか。
魔力は魔力だけでは何の力もない、なんて平然と言う女だぞ。
魔力を力の中心として生きてきた貴族からすれば、何を言っているんだと思われても不思議じゃない。
変なことを考えず、普通の魔法を使っていろ。
そんなふうに扱われる可能性だってある。
それは惜しい。
ものすごく惜しい。
俺には、オルフィアのような才能はない。
これは別に自分を卑下しているわけじゃない。
俺は魔法を使うのが得意だ。
強く使うこともできる。
細かく使うこともできる。
同じ魔法でも用途に合わせて使い方を変えることもできるし、魔力容量にもかなり余裕があるから、失敗しながら何度も試すこともできる。
俺は、使う側ではかなり恵まれている。
おそらく、このままいけば世界最強にはなれる。
だが、世界最高にはなれないのだろう。
少なくとも、オルフィアを見ているとそんな気がする。
俺には新しい魔法を生み出した経験がない。
既にあるものを強く、上手く、便利に使うことはできる。
オルフィアは違う。
こいつは、そもそも誰も考えなかったものを考える。
優劣ではない。
適性が違うのだ。
俺には使う才能がある。
オルフィアには作る才能がある。
そういう事だ。
なら、その才能を手放していいのか?
うーむ。
最も簡単な方法ならある。
俺とオルフィアが結婚すればいい。
それならオルフィアはマバール家に残る。俺なら少なくとも、こいつが妙な魔法を考えていても止めない。
面白そうなら一緒に試す。
小屋が必要なら作る。
失敗しても、城を吹き飛ばさない程度なら好きにすればいい。
……かなり簡単じゃないか?
だが、すぐに首を捻った。
いや。
駄目かもしれん。
それはオルフィアの意思に反する可能性がある。
何より、こいつが守ろうとしているルディア家の誇りに反するかもしれない。
そもそもオルフィアの父親がやろうとしていたのが、オルフィアを俺へ嫁がせることだった。
そこへ俺が後から、
やっぱり俺が貰います。
なんて言ったら、結局同じところへ戻っているようにも見える。
もちろん、オルフィア自身が考えたうえで俺へ嫁ぐと言うなら話は違う気もする。
父親に差し出されるのと、自分で選ぶのは同じじゃない。
だが、それ以前の問題がある。
帝国へ亡命してきたばかりの王国貴族の娘。
護衛の騎士だって一人しかいない。
そんなオルフィアに、好きな相手と自由に結婚していいぞ、なんてことになるのか?
かなり難しい気がする。
オルフィアの才能を知らない者から見れば、こいつの価値は新しい血統と、王国貴族の亡命を受け入れたという実績あたりになるだろう。
それをどう扱うかは、オルフィア一人で決められる話ではないはずだ。
しかも俺はマバール家の三男だ。
自分で言うのもなんだが、かなり好条件だと思う。
跡取りではない。
だからといって立場が弱いわけでもない。
そんな俺を、亡命してきたばかりのオルフィアが結婚相手として選べるのか。
仮にある程度の自由が与えられたとしても、簡単にはいかないだろう。
なら、俺からオルフィアを望んだらどうなる?
……これもややこしいな。
元王国貴族同士の結婚。
しかも条件の悪くない俺の方から希望する。
何か裏があると思われそうだ。
さらに面倒なのは、オルフィアをマバール城まで連れてきたのが俺だということだった。
本当に偶然なんだ。
たまたま出会って、事情を知って、成り行きでここまで連れてきただけだ。
だが、俺が他人からそんな説明を聞いたらどう思う?
偶然?
本当に?
たぶん疑う。
まして、その後になって俺がオルフィアと結婚したいなんて言い出したら、最初から二人で示し合わせていたように見えかねない。
いや、それならまだいい。
もっと酷い誤解もある。
俺がオルフィアを攫ってきたとか。
……貴族の娘を攫ってこれるのか?
俺は少し考えた。
残念ながら、俺ならできそうなんだよなぁ。
しかもセバスチャンもいた。
俺とあのクソじじいの二人なら、そこら辺の王国貴族の娘くらいなら、本当に攫ってこれそうなのが困る。
違う。
攫ってない。
断じて攫ってない。
だが、否定しようにも実行できる力がある。
これでは説得力がない。
もし妙な誤解をされ、それが面白おかしく誇張されて後世まで残ったらどうなる。
全裸で空中を歩き回っていた貴族の娘を無理矢理攫ってきた変態貴族、ギルバート・マバール。
そんな名前で歴史に刻まれるかもしれない。
嫌すぎる。
女好きの貴族として名を残すなら別に構わない。
事実だ。
この世界では、それだけで悪評になるわけでもない。
むしろ女を好み、きちんと子を残そうとする男らしい貴族だった、とでも言われるかもしれない。
それならいい。
だが変態貴族は勘弁してほしい。
変態なのはオルフィアだけなのだから。
「ねえ! 聞いてる!」
突然飛んできた声に、俺は顔を上げた。
向かい側で、オルフィアがこちらを睨んでいた。
「聞いてない」
正直に答えると、オルフィアの眉がぴくりと動いた。
だが仕方ないだろう。俺は遊んでいたわけじゃない。こいつの才能をどうするべきか、かなり真面目に考えていたのだ。
全く、この変態は。
俺がなんで悩んでいると思っているんだ。お前の才能をきちんと評価しているから、こんな面倒なことまで考えているんだぞ。
まったく。
「おい、オルフィア。他にはどんな魔法を考えている? お前なら他にもいろいろ考えているだろう」
せっかくなら聞いておこう。
感知されにくい感知魔法だけでも十分おかしい。飛行魔法だって、俺が思いつかなかった使い方をしていた。なら、まだ頭の中に何かあるはずだ。
俺がそう尋ねると、オルフィアの頬が見る間に赤くなった。目まで少し吊り上がり、握っていた手が膝の上でぎゅっと固まる。
「だから! いま! それを! 説明してたんでしょ!」
ああ。
そうだったのか。
それは悪いことをした。
「よし、もう一度説明しろ」
「なんでそんな偉そうなのよ!」
声が小屋の壁へぶつかり、すぐ近くで座っていたレティシアがわずかに肩を揺らした。
まあいい。
今度はちゃんと聞こう。
それで考える。
これで次に出てくるのが、全裸で水中を歩き回る魔法だとか、全裸で地中を歩き回る魔法だとかだったら、残念だが見捨てるしかない。
いくらなんでも、そこまでの変態は庇えない。
五大魔法に続く新たな系統として全裸魔法なんてものが生まれたら哀しすぎる。俺はそんな歴史の始まりには立ち会いたくない。
「もう……ちゃんと聞いてよ」
オルフィアはまだ頬を赤くしたまま、こちらをじろりと見た。それから一度息を吐き、指を一本立てる。
「魔力を持たない平民でも感知出来る魔法とか」
俺は黙って頷いた。
今度は聞いている。
「肉体強化魔法と治癒魔法を組み合わせて、作物の成長を促す魔法とか」
二本目の指が立つ。
「それから、防御魔法を集団で組み合わせる魔法とか。いろいろ考えてるわよ!」
三本目まで立てたところで、オルフィアは少し胸を張った。
なるほど。
どれも全裸とは関係なさそうだ。
俺は背もたれに預けていた身体を少し起こした。
さっきまでの全裸云々はともかくとして、三つとも妙な方向を向いている。
魔法を持つ相手をより遠くから探すとか、肉体強化魔法をさらに強くするとか、防御魔法をもっと頑丈にするとか、そういう話ではない。
今できることを強くするのではなく、今できないことをできるようにしようとしている。
しかも一つの方向だけじゃない。
感知する相手を変える。
使う対象を変える。
一人で使うものを、複数人で組み合わせる。
よくこんなに違う方向へ頭が動くものだ。
俺なら魔法を見れば、まずどう戦いで使うかを考える。敵を倒すならどうする。守るならどうする。もっと速く、もっと強く、もっと正確にできないか。
それはそれで間違ってはいない。
実際、俺はそのやり方でかなり強くなった。
だがオルフィアの考え方は、強い弱いというところから最初から外れている。
作物を育てるために魔法を使うなんて、俺なら言われるまで考えもしなかった。
実現できるかは知らない。
理屈が成立するかも分からない。
それでも、まずそこへ疑問を向けること自体が俺とは違う。
「それは全裸にはならないんだな」
念のため確認しておく。
「当たり前でしょ!」
即答だった。
よかった。
こいつにもまだ戻ってこられる場所は残っていたらしい。
しかし、今の三つはどれも気になる。
魔力を持たない平民を感知する。
今の感知魔法は魔力へ反応する。なら、魔力を持たない相手を感知しようという発想は、そもそも今ある感知魔法の使い方を変えるだけでは届かない気がする。
作物の成長を促す魔法もそうだ。
肉体強化魔法と治癒魔法。
人の身体へ使うものとして考えていた二つを、作物へ向けようとしている。
そして集団で組み合わせる防御魔法。
俺ならまず、自分の防御魔法をどこまで強くできるか、どこまで広く展開出来るか、どの程度なら動きながら維持できるかを考える。
オルフィアは違う。
一人で駄目なら、複数人で一つのものを作れないかと考える。
同じ魔法を見ているはずなのに、出てくる発想の向きが違う。
「それらの魔法は完成しているのか?」
そこまで考えているなら、もう何か形になっているものがあるのかもしれない。
俺が尋ねると、さっきまで勢いよく立っていた三本の指がゆっくり下がった。
オルフィアは俺から視線を外し、小屋の床へ目を落とす。
「完成してるわけないじゃない」
声もさっきまでよりずっと小さい。
「まだ、どうやったらいいか考えてるだけなんだから」
その答えを聞いた瞬間、俺の中で何かが綺麗につながった。
やっぱりこいつ、間違いなく天才だ。
それも、大天才と言っていい。
完成していないから違う、ではない。
むしろ逆だ。
まだやり方すら分からない段階で、そこへ手を伸ばそうとしている。
前世にも、そんな人間はいた。
誰もできると思っていなかったことを考え、誰も見ていなかったところへ手を伸ばし、結果として技術を何世代も先へ進めたような奴らだ。
もちろん、オルフィアが本当に同じところまで行けるかは分からない。
今挙げた魔法だって、一つも完成しないかもしれない。
だが、考える場所がもう普通じゃない。
他の奴が今ある魔法をどう上手く使うか考えている時に、こいつは今ある魔法で何ができていないのかを見て、その向こう側を考えている。
完全に異常だ。
普通じゃない。
そして、その異常さこそがこいつの才能なのだろう。
さすが変態だ。
俺のようなごく普通の常識人には、とても考えられん。
「よし。まずは、さっきの感知されにくい感知魔法を教えてくれ」
俺がそう言うと、オルフィアが目を瞬いた。
「俺とレティシアにもだ」
今度はレティシアまで、少し驚いたように俺を見る。
「若様、わたくしは先程、感知されたことも分かりませんでした」
その言葉に、俺は頷いた。
分かっている。
さっきオルフィアが試した時、俺は首の後ろへ細い糸でも触れたような、ほんのわずかな感覚を拾った。だが、それだって最初から感知魔法を使われると知っていて、しかも小さく、細かく使うという話まで聞いた後だ。
何も知らない時に同じことをされていたら、気づけたかどうかは怪しい。
レティシアもオルフィアの魔力が動いたこと自体は感じていた。それでも、自分が感知されたとは分からなかった。
だからこそ試してもらいたい。
「うーん、あれってかなり難しいし疲れるよ」
オルフィアは少し首を傾けた。
俺は首を振る。
「ダメだ。普通の魔力持ちが使えない魔法では意味がない」
「意味がないって……」
「少なくとも、どれだけ難しいのかは分からないと駄目だ」
俺とオルフィアだけで試して終わるわけにはいかない。
俺自身、自分の魔力が普通から外れていることくらい分かっている。魔力強度も、魔力容量も、魔力操作も高い。これまでだって、失敗したらやり直し、少し変えてまた試すということを何度も繰り返してきた。
俺が使えたからといって、それだけで他の魔力持ちにも使えるとは言えない。
そしてオルフィアは、もっと別の意味で普通じゃない。
何しろ、魔法に対する考え方そのものがおかしい。
変態だし。
だったら、俺たち二人だけでは分からない。
レティシアは、俺ほど極端でもなければ、オルフィアのように魔法そのものを別の角度から見ているわけでもない。もちろん魔力を扱える以上、平民とは違う。それでも、俺たち二人だけで試すよりは、ずっと普通の魔力持ちに近い。
だから、レティシアがどこで躓くのかも知りたかった。最初の魔力の細かさなのか、感知魔法らしさを削っていくところなのか、それとも最後まで形にできないのか。成功だけが結果じゃない。失敗した場所にも意味はある。
「レティシア」
「はい」
「難しいかもしれんが、頑張ってくれ。出来なくても構わない」
レティシアがわずかに目を見開く。
「よろしいのですか?」
「ああ。どれだけ難しいか分かるだけでも充分だ」
何度か試せば感覚を掴めそうなのか。
そもそも、何をすればいいのかすら分からないのか。
オルフィアから教わっても再現できないほど特殊なのか。
それが分かるだけでも意味はある。
俺がオルフィアの才能を本当に大きなものだと思うなら、俺一人が面白がって終わりでは駄目だ。
こいつが考えたものを他の奴も使えるのか。
他人へ教えられるのか。
それとも、オルフィアだからこそできるのか。
そこまで見て、初めてこの感知魔法の価値も分かる。
「承知いたしました」
レティシアは少し間を置いてから、しっかりと頷いた。
その横で、オルフィアが俺とレティシアを交互に見ている。
「そっかぁ……それなら、飛行魔法も教えようか?」
俺の思考が止まった。
飛行魔法。
オルフィアが考えた、空中を歩く魔法。
あれは単純に身体を上へ押し上げて飛ぶようなものではない。全身で細かく魔力を扱いながら、空中で身体の均衡を取り続け、地面もない場所を歩く。
そして現在、その使い方では服を着ることができない。
オルフィア自身もどうにか服を着たまま使えるようにしようと色々考えているらしいが、まだ解決していない。
つまり。
俺はゆっくりとレティシアへ視線を向けた。
服をきちんと身につけ、いつものように俺のそばへ座っている。
そのレティシアが飛行魔法を覚える。
実際に使う。
全裸で。
空中を歩く。
…………。
素晴らしい。
青い空の中を、何も身につけていないレティシアが歩いている。
いや、待て。
落ち着け、俺。
これは魔法の練習だ。
別に俺が脱がせるわけじゃない。
飛行魔法を使うためには必要なことなのだ。今のところ服を着たままでは使えないのだから、仕方がない。
仕方がない。
これは重要だ。
本人が真面目に魔法を学んでいるのに、俺が邪な目で見るのは失礼ではないだろうか。
だったら、ちゃんと見ればいい。
魔力の動きを確認するために。
飛び方を見るために。
空中でどう身体の均衡を取るのか確かめるために。
決して胸とか尻を見るためではない。
そうだ。
俺は魔法を見ているだけだ。
もちろん慣れていなければバランスを崩す事もあるだろう。
それであられもない格好になる事もあるだろう。
…………。
ものすごく見たい。
いや、駄目だ。
俺は何を必死に正当化しているんだ。
さっきまでオルフィアの才能をどうするか真剣に考えていたはずなのに、いつの間にか全裸のレティシアを空へ歩かせる理由を考えている。
俺はもう一度レティシアを見る。
レティシアは何も知らず、静かに俺の返事を待っていた。
駄目だ。
今ここで頷けば、俺は感知魔法の検証より全裸のレティシアを優先した男になる。
それはいかん。
少なくとも今はいかん。
俺はゆっくり息を吐いた。
惜しい。
あまりにも惜しい。
だが、ここは耐える。
「いや、それはいい。とりあえず、さっきの感知魔法だけだ」
「飛行魔法も面白いよ?」
オルフィアが不思議そうに首を傾げる。
「一つずつでいい」
俺はきっぱりと言った。
言えた。
目の前に差し出された素晴らしい光景を、自分の意思で断った。
誰にも分からないだろう。
レティシアはもちろん、オルフィアだって、今の俺がどれほど大きな誘惑を振り切ったのか知らない。
だが、それでいい。
本当に立派な行いは、誰かに褒めてもらうためにするものではない。
俺自身が分かっていれば充分だ。
俺、偉いなぁ。




