第百四十六話 寛大な男
レティシアに案内され、俺は厩舎の横に建てられたというレアの小屋へ向かっていた。
もちろん、厩舎の場所なら知っている。
マバール城で育った俺が、今さら使用人に先導されなければ厩舎へ辿り着けないはずもない。新しく建てられた小屋についても、厩舎の横まで行けば見つけられるだろう。
つまり、案内など必要ない。
それでもレティシアに先を歩かせているのは、後ろ姿を眺めたかったからだ。
うーむ。
レティシアは後ろから見ても美しいな。
歩くたびに使用人服の裾が静かに揺れ、その上では細く締まった腰が一定の間隔で左右へ動く。だが、目を引くのは体つきだけではなかった。
背筋が真っすぐ伸びている。
顎を僅かに引き、肩には余計な力が入っていない。足音もほとんど響かず、急いでいるようには見えないのに、歩みには一切の淀みがなかった。
こうして改めて眺めると、姿勢そのものが美しいのだ。
前から見れば、顔も胸も素晴らしい。
横から見ても素晴らしい。
そして後ろからなら、いつまでも眺めていられる。
うん。
これだけでも、部屋を出た意味はあったな。
満足しながら城内の廊下を進んでいると、向こうから盆を抱えた使用人が歩いてきた。
男だ。
彼は俺たちに気づくと廊下の端へ寄り、足を止めて頭を下げた。その直前、当然のようにレティシアへ視線を向けている。
うーむ。
けしからんな。
いくら城で働く使用人とはいえ、ほかの男が俺のレティシアを見るのはよくない。
いや、男が何を見ていたのかは分からない。
こちらから人が歩いてくれば、ぶつからないよう顔を上げて確かめるのは普通のことだ。盆まで持っているのだから、相手を全く見ずに歩けという方が無理がある。
だが、レティシアを見たことだけは間違いない。
それが問題だ。
向かい合った相手の顔を見続けるのは失礼だから、胸元辺りへ視線を置くとよい――そんな話を、どこかで聞いたような気もする。
却下だな。
俺以外の男がレティシアの胸元を見ることは、絶対に許可できない。
顔を見るのも駄目。
胸元を見るのはもっと駄目。
ならば下を見て歩かせるべきかとも思ったが、それでは仕事にならないだろう。廊下で人や荷物へぶつかれば、城内の安全にも関わる。
彼らにも役目がある。
レティシアを一度も見ずに働けというのは、少し厳しすぎるかもしれない。
さて、どうすればいい。
俺はレティシアの後ろを歩きながら、真剣に考えた。
一度レティシアを見たら、右目をくり抜く。
二度目を見たら、左目もくり抜く。
そうすれば、二度まではレティシアを見ることができる。
二度も見られれば、その両目は役割を十分に果たしたと言えるのではないだろうか。本人も、人生の最後に素晴らしいものを二度見られたのだから、きっと満足するはずだ。
そもそも目が二つあるのは、そのためとも考えられる。
一つ目で一度。
二つ目でもう一度。
うん。
検討の余地があるな。
だが、男だけを対象にすると不満が出るかもしれない。
そもそも女の使用人なら安全かというと、そうとも限らないだろう。
世の中には女を好む女もいるはずだ。
そのような女がレティシアを見れば、当然欲情する。
何せレティシアだからな。
好みが女である以上、レティシアへ欲情しないということは考えにくい。むしろ確実と言ってもよいだろう。
しかし、ただ目を向けただけで、仕事のために見たのか、欲情して見たのかを判別するのは難しい。
男であれば全員同じ扱いにすればよいが、女まで含めるとなると、もう少し細かな決まりが必要になる。
うーん。
難題だな。
あとでアル兄さんに相談してみるか。
アル兄さんなら、何かよい知恵をお持ちかもしれない。
「若様?」
声を掛けられて顔を上げると、レティシアが少し先で足を止めていた。
こちらを振り返り、不思議そうに首を傾げている。
どうやら考え込むあまり、歩みが遅くなっていたらしい。
「うん。少し、城の安全対策について考えていただけだ」
「そうなのですか」
レティシアは柔らかく微笑むと、再び前を向いて歩き始めた。
うん。
喜んでいるようだな。
俺が城内の安全を真剣に考えていると知り、頼もしく思ったのだろう。
だが、アル兄さんへ相談するなら、アル兄さん自身の扱いも決めておく必要がある。
いくら何でも、レティシアを二度見ただけでアル兄さんの目までくり抜くのは、少し厳しい気がする。
うむ。
アル兄さんは三度見たら両目をくり抜くことにしよう。
父上は四度だ。
これなら、二人とも納得してくれるはずだ。
一般の使用人より多く見られるのだから、俺の寛大さに感動するかもしれない。
いやぁ。
照れるなぁ。
そんなことを考えながら、レティシアの後ろ姿を眺めていると、厩舎の横まではあっという間だった。
城内から外へ出た途端、石壁に囲まれていた空気が少しだけ軽くなる。乾いた藁と土、それに馬の匂いが風に混じり、厩舎の方から蹄が床を叩く音も聞こえてきた。
その脇に、見覚えのない小屋が建っている。
小屋と言うには、けっこう大きい。
壁も屋根もきちんと造られており、急ごしらえには見えなかった。入口に至っては普通の厩舎より高いくらいで、扉を閉めれば、それなりに立派な建物として通りそうだ。
しかも、小屋の周囲には囲いまで設けられている。
不用意に近づく者が出ないようにしたのだろうか。
うーむ。
あんな鳥には、少しもったいないんじゃなかろうか。
俺の記憶にあるレアは、部屋の中を歩き回り、机へ飛び乗り、近づけば俺の指をつついてくる程度の大きさだった。多少育ったとしても、鳥一羽のためにここまで立派なものを用意する必要があったとは思えない。
レティシアは囲いの手前で足を止めると、小屋の入口へ顔を向けた。
「レア」
優しく呼びかける声が、厩舎の脇へ静かに響く。
少し遅れて、小屋の奥から音が返ってきた。
どす、どす、と、何かが地面を踏む音だ。
足音だとは思う。
だが、俺が知っているレアの足音とは、あまりにも違う。小さな爪が床を叩く軽い音ではなく、重いものが一歩ずつこちらへ近づいてくるような響きだった。
なかなか重量感があるな。
小屋の暗がりを見つめていると、入口の上の方から白いものがにゅっと突き出た。
頭だ。
大きな頭だった。
俺よりも、隣に立つレティシアよりも、ずっと高い位置にある。
まず目に入ったのは、前へ突き出した大きな嘴だった。その後ろに丸みのある頭が続き、白い羽毛が光を受けて柔らかく浮かび上がる。
うん。
確かに、以前、心ならずも退治した鳥みたいな魔物に似ている。
色は全く違うが、大きな嘴と頭の形はかなり近いように思えた。
「レア」
レティシアがもう一度呼ぶ。
白い頭が僅かに傾き、それから小屋の外へ動き出した。
最初に長い首が現れ、続いて大きな胴体が入口を抜ける。最後に、太く発達した二本の脚が、重い足音とともに地面へ下りた。
デカいな。
胴体の下端が、ほとんどレティシアの肩ほどの高さにある。
鱗状の皮膚に覆われた脚は太くてごつく、一番太いところなど俺の胴ほどもありそうだった。その先には硬そうな指が広がり、先端には地面を掴む大きな爪まで伸びている。
これなら、レティシアを乗せて走れるという話にも納得できる。
いや、実際に目の前へ出てこられると、人を乗せるどころか、もう一人くらい追加しても平気そうに見える。
白い鳥は小屋を出ると、喉の奥で低く音を鳴らしながら、ゆっくりレティシアへ近づいてきた。
たぶん、喜んでいるのだろう。
俺には、そう見えた。
「うーん。これが、あのレアか?」
尋ねると、レティシアは近づいてきた鳥へ手を伸ばした。
鳥は素直に頭を下げる。
高い位置にあった嘴がレティシアの手元まで下り、彼女はその付け根辺りをゆっくり撫でた。
「はい」
レティシアが答えると、レアらしき鳥はさらに頭を寄せた。
大きな身体に似合わず、随分と甘えるような仕草だ。
「なんというか、ずいぶんとデカくなったな」
「大きくはなりましたが、中身は以前のレアのままでございます。甘えん坊のままです」
レティシアはそう言って微笑み、白い羽毛の間へ指を埋めるようにして撫で続けた。
レアも嫌がる様子はなく、喉を鳴らしながら頭を擦り寄せている。
うーむ。
俺はつつかれてばかりで、甘えられた覚えなどないような気がする。
だが、レティシアが言うのなら、きっとそうなのだろう。
少なくとも、レティシアに対しては、確かに以前と変わらないらしい。
「若様も、レアに乗ってみますか?」
レティシアに尋ねられ、俺は改めて白い巨体を見上げた。
大きな嘴。俺の胴ほどもありそうな脚。地面を掴むごつい爪。
馬とは全く違うが、乗れるのなら乗ってみたい。
何より、面白そうだ。
「うむ。乗ってみよう」
「では、準備いたしますので、少しお待ちください」
レティシアは一礼すると、小屋の中へ入っていった。
残された俺は、レアと向かい合う。
レアも俺を見ていた。
黒く丸い目が、じっとこちらへ向けられている。昔は手のひらに収まりそうな身体で俺の指をつついていたのに、今では嘴だけでも十分に凶器になりそうだ。
「大きくなったからといって、調子に乗るなよ」
声を掛けても、レアは首を僅かに傾けただけだった。
分かっているのか、いないのか。
いや、この鳥の場合、分かったうえで無視している可能性が高い。
やがて小屋から戻ってきたレティシアは、両腕に鞍らしきものを抱えていた。そのほかにも、革を組み合わせた手綱のような道具が重ねられている。
レティシアがそれらを見せると、レアは何の指示も受けていないのに脚を折り、その場へゆっくり座り込んだ。
大きな胴体が沈み、羽毛の下で肉が僅かに揺れる。地面へ座ってもなお背は高いが、先ほどまでよりはずっと手が届きやすい。
「随分と慣れているな」
「はい。何度か乗っておりますので」
レティシアは鞍をレアの背へ載せ、位置を確かめながら手早く固定していく。
迷いのない動きだった。
レアも嫌がる様子を見せず、首を伸ばしたまま大人しく待っている。
次にレティシアが手綱らしきものを持ち上げると、レアは自分から嘴を開いた。嘴の間へ革の部分を咥え、そのまま装着されるのを待っている。
なるほど。
確かに、これは一度や二度の動きではない。
準備が終わると、レティシアは手綱を引いてレアを俺の前まで連れてきた。
「どうぞ」
「うむ」
差し出された手綱を受け取る。
レアは立ち上がっていたため、このままでは背へ乗りにくい。先ほどレティシアが準備を始めた時のように座らせようと、俺は手綱を軽く引いた。
その瞬間、レアの片目がこちらを向いた。
ちらりと俺を見た次の瞬間、大きな頭が空気を裂くように左右へ振られる。
バサッ、と羽毛が遅れて揺れ、手綱が一気に張り詰めた。俺の腕がそのまま持っていかれそうになるほどの勢いだ。
「おい」
何も言っていない。
だが、なぜだろうな。
今、確かに「ふん」と聞こえたような気がする。
俺は手綱を握ったまま、レアを睨んだ。
レアも首を戻し、真正面から俺を見下ろしている。
間違いない。
この生意気さ。
こいつは、あのレアだ。
「若様?」
俺とレアが睨み合っていることに気づいたのか、レティシアが慌てて間へ入った。
手綱へ手を添え、軽く下へ引く。
「レア、座りなさい。若様ですよ」
レアはレティシアへ顔を向けたが、座ろうとはしなかった。
レティシア。
こいつは俺だと分かっている。
分かっているから従わないのだ。
以前からそうだった。拾ってきたのも、連れて帰ったのも俺なのに、レティシアには甘え、俺には嘴を向ける。
身体がどれだけ大きくなっても、中身は本当に変わっていないらしい。
俺はしばらくレアを睨んでいたが、無理に座らせるのも面倒になり、レティシアへ手綱を返した。
「レティシア。お前が乗っているところを見たい。見せてくれ」
「はい」
レティシアが手綱を受け取り、レアの傍らへ寄る。
すると、先ほどまで頑として立っていたレアが、何の合図もないうちに大人しく座り込んだ。
巨体が滑るように低くなる。その動きは重さを感じさせないほど滑らかで、訓練された獣のそれだった。
こいつ。
俺の時とは明らかに態度が違う。
文句を言ってやろうと口を開きかけた時、レティシアが鞍へ足を掛けた。
身体を持ち上げた拍子に、使用人服の裾が僅かに乱れる。
白い脚が一瞬だけ覗いた。
ほんの僅かだ。
すぐに布の陰へ隠れてしまったが、確かに見えた。
うーむ。
今日は自分が乗るつもりではなかったのだろう。
急に頼んだせいで、レティシアへ悪いことをしてしまったな。
ちなみに今の生足を一瞬でも見た者は、男でも女でも問答無用で両目をくり抜く。
レティシアは鞍の上へ収まると、乱れた裾を軽く整えた。それから手綱を持ち直し、僅かに身体を前へ傾ける。
その瞬間だった。
レアの全身が、弓を引き絞ったように沈み込む。
次の刹那、地面が爆ぜた。
太い二本の脚が交互に叩きつけられ、土が後方へ弾け飛ぶ。白い巨体が一気に前へ“滑り出す”のではなく、“跳ね飛ぶ”ように加速した。
ドン、ドン、と重い衝撃が連続し、そのたびに空気が押し潰されるように揺れる。羽毛が風圧で一斉に後方へなびき、まるで白い旗が引きちぎられるようだった。
「ほう」
速いな。
見た限りでは、軍馬とほとんど変わらない。
だが次の瞬間、レアはさらに速度を上げた。
地面を蹴るたびに脚が沈み込み、その反動で巨体が前方へ“跳ぶ”。走るというより、巨大な石が連続して投げ出されているような推進力だ。
レアはレティシアを乗せたまま真っすぐ駆け抜け、城壁の手前で一気に身体をひねった。
その旋回は馬のそれとは違う。
前脚――いや、二本の脚が地面を細かく刻み、ほとんど減速せずに円を描く。巨体が滑るように向きを変え、砂埃だけが遅れて弧を描いた。
こちらへ戻る途中、レティシアが僅かに手綱を動かした。
次の瞬間、レアの脚がさらに深く沈む。
そして――跳んだ。
柵を“越える”のではない。
踏み切りの一撃で地面ごと叩き割るように跳躍し、白い巨体が宙へ放り上げられる。影が一瞬だけ地面から剥がれ、レティシアの髪と衣が風に大きく持ち上がった。
着地。
ドンッ、と地面が鳴り、土が波のように広がる。
だが速度は死なない。
むしろ着地の衝撃をそのまま次の加速へ変え、レアは再び地面を蹴り飛ばした。
レティシアは鞍の上で微動だにせず、ただ最小限の手綱操作だけで進路を制御している。
レアはそれに応じるように、加速・旋回・跳躍を一切の淀みなく繋げていく。
人馬一体――いや。
人鳥一体、か。
何とも言いにくいが、少なくともレティシアがかなり乗り慣れていることだけは確かだった。
ふむ。
これは、思っていたより使えるかもしれないな。
レアは白い巨体を揺らしながら、こちらへ向かって駆けてくる。短い距離を走っただけなので、どこまで速さを維持できるかは分からない。それでも、レティシアを背に乗せたまま軍馬に劣らない速さを出し、狭い場所で向きを変え、囲いまで難なく飛び越えた。
レティシアの指示にも、よく従っているように見える。
この鳥を増やし、人を乗せられる程度まで育てて手懐けることができれば、かなりの戦力になるのではないだろうか。
量産――というのは少し違うか。
繁殖だな。
だが、実際に騎士を乗せるとなれば、確かめることは多い。
どれほどの距離を走れるのか。
一日にどれほどの餌を必要とするのか。
レティシア以外の人間にも従うのか。
そもそも、レア以外にも人へ懐く個体がいるのかさえ分からない。
今ここにいるのは、レア一羽だけだ。
この一羽がどれほど優れていたところで、増やせなければ騎士たちへ行き渡らせることはできない。
うーん。
レアの卵を拾った、あの温泉近くの山へ行って、ほかの卵がないか探してみるか。
あれから時間も経っているし、同じ場所に卵が残っているとは限らない。だが、あの黒い鳥のような魔物がまた現れる可能性はある。
それとも、先にアル兄さんへ聞くべきだろうか。
アル兄さんは領内の迷宮を管理している。
レアと似た鳥型の魔物について、何か知っているかもしれない。全く同じ種類でなくとも、近い種類であれば繁殖できる可能性もある。
まあ、本当にできるかどうかは分からないが、何もせず最初からレア一羽だけで諦める必要もないだろう。
うーむ。
どうしたものかな。
考えている間に、レアは速度を落として俺の前へ戻ってきた。
太い脚が地面を踏み締めるたびに土が沈み、最後に二、三歩ほど細かく足を運ぶと、白い巨体がぴたりと止まる。
レティシアは手綱を押さえたまま身体を起こし、鞍から静かに降り始めた。
俺は少し期待して、その姿を見守る。
だが、今度のレティシアは裾へ手を添え、布が乱れないよう注意しながら足を下ろした。
生足は見えなかった。
惜しい。
先ほど見ていたことに気づかれたのだろうか。
いや、レティシアが俺を疑うはずはない。たまたま今度は気をつけただけだろう。
地面へ降りたレティシアは、レアの首筋を軽く撫でてから、手綱を外し始めた。
嘴に咥えさせていた革を抜くと、レアは小さく首を振る。レティシアはそれを避けるように一歩横へ動き、続いて背へ載せた鞍を外した。
大きな鞍を抱えながら、レティシアがこちらを見る。
「あの、若様」
「うん?」
「いかがでしょうか。レアを、このまま飼っていても問題ないでしょうか?」
レティシアの視線が、俺とレアの間を静かに行き来した。
飼ってよいかどうか。
小屋まで建てておいて今さらとも思うが、拾って連れ帰ったのは俺だ。身体もここまで大きくなったのだから、改めて俺の許可を得ておきたいのかもしれない。
走る姿を見た限り、危険だから今すぐ追い出す必要もなさそうだ。レティシアの言うことには従っているし、うまくいけば戦力として役に立つ可能性すらある。
まあ、別にいいんじゃないか。
俺がそう答えようと口を開いた時だった。
鞍も手綱も外されたレアが、レティシアへ一歩近づいた。
大きな頭がゆっくりと下がる。
そのまま、甘えるようにレティシアへ擦り寄った。
レティシアの豊かな胸へ。
俺専用であるはずの、あの胸へ。
白い羽毛に覆われた頭が、柔らかな膨らみを押すように何度も動く。
レティシアは驚く様子もなく、困ったように微笑みながら嘴の付け根を撫でている。
うむ。
あれは断じて偶然ではない。
レアは狙った。
あの位置を正確に見定め、レティシアの胸へ頭を擦りつけたのだ。
俺には乗ることすら許さず、レティシアには好き放題に甘える。
それだけでも許し難いというのに、よりにもよって俺の目の前で、俺専用の胸へ顔を埋めるとは。
「ふう」
俺は一度だけ息を吐いた。
それから、白い巨体を真っすぐ指差す。
「レア、貴様! いい度胸だ! そこになおれ! 今すぐ焼き鳥にしてくれる!」




