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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第百四十五話 成長するレティシア


 朝食を終えて自室へ戻ると、レティシアがいつものように茶の支度を始めた。


 茶葉を量り、温めた器へ湯を注ぐ。細い指先には迷いがなく、白い湯気の向こうで横顔が静かに微笑んでいるように見える。


 俺は椅子へ腰を下ろし、その姿を眺めながら考えた。


 うーん。


 城内だけと限定されると、案外行くところがないな。


 もちろん、場所だけならいくらでもある。中庭へ出てもいいし、騎士たちの訓練を眺めてもいい。城内のどこかで時間を潰すことくらい、それほど難しくはないだろう。


 だが、それで何をするのかと聞かれると困る。


 父上から命じられた謹慎中なので、勝手に仕事を始めるのもよくない。城下へ出ることも、書状で外へ働きかけることもアル兄さんに止められた。


 ならば、大人しく自室へ籠もっていればいい。


 それが最も正しい謹慎の過ごし方なのだろう。


 しかし、それではレティシアが少し危険だ。


 俺は茶器を整えるレティシアへ、改めて視線を向けた。


 きっちりと着込まれた使用人服。その上からでも分かる豊かな胸と、そこから細く締まっていく腰。伏せられた睫毛も、湯気の向こうで僅かに色づいて見える唇も美しい。


 これを一日中、同じ部屋で眺め続けるのか。


 危険だな。あまりにも危なすぎる。


 もちろん、俺はもう大人だ。


 きちんとムードを作るし、雰囲気も大切にする。何の前触れもなく襲いかかるようなことはしない。


 少なくとも、最近はそうしようと努力している。


 だが、一日中レティシアと二人きりで過ごし、夜になっても同じ部屋にいるとなれば、結局は寝室へ行くことになるだろう。


 それ自体は悪くない。


 むしろ素晴らしい。


 問題は、毎晩それを続ければ、さすがのレティシアも身体が持たないかもしれないことだ。


 昨日はリエリエールの部屋に泊まったので、レティシアも多少は休めたはずだ。だが、今夜から毎晩となれば話は違う。


 壊れてしまうかもしれん。


 そうなる前に、何か対策を考える必要がある。


 では、適度にリエリエールの部屋へ行けばいいのかというと、それも違う。


 リエリエールと会えば、おそらく必ずそうなる。


 いや、こちらも最初からそのつもりで会いに行くわけではない。普通に茶を飲み、話をしているだけでも、気づけばあの柔らかさに包まれているのだ。


 あれへ抗える自信はない。


 俺には無理だ。


 そして、リエリエールまで毎晩のように相手をさせれば、こちらもやりすぎて壊してしまうかもしれない。


 ダリアには頼めない。


 妊娠している以上、あまり長く近くにいるだけでも不安なのだ。ましてや、俺の相手など絶対にさせられない。


 腹が少し膨らんだ姿を思い出しただけで、立たせておくことすら怖くなる。


 となると、今の俺の相手をできるのはレティシアとリエリエールの二人だけということになる。


 二人が交互に相手をしてくれれば、大丈夫なようにも思える。


 一晩ずつ休めるのだから、単純に考えれば負担は半分だ。


 だが、それでも大丈夫ではなかった時が怖い。


 旅から戻ったばかりの俺は、少しばかり元気が余っている。久しぶりに会った二人があまりにも素晴らしかったせいで、普段より抑えが利かない気もする。


 それに、毎回きちんと一晩で終わるとも限らない。


 朝になっても離れたくなくなれば、昨日のレティシアのように昼過ぎまで寝台から出られなくなる。


 リエリエールの時も、今朝は危うく服を脱ぎ直すところだった。


 うーむ。


 二人では、少し少ないのかもしれないな。


 俺は目の前へ置かれた茶へ手を伸ばしながら、真剣に考えた。


 もう一人くらいいた方が、レティシアとリエリエールの安全を守れるのではないだろうか。


 別に俺が新しい女を欲しがっているわけではない。


 二人へ無理をさせないためだ。


 負担を分け、十分に身体を休ませてもらうための、極めて理性的な判断である。


 俺が我慢すれば、それだけで解決する話ではある。


 だが、正直に言えば、レティシアとリエリエールを相手に我慢できるとは思えない。


 無理なものを無理に続ければ、いずれ破綻する。


 ならば最初から、破綻しない仕組みを作る方がよい。


 うむ。


 やはり、もう一人くらいいた方が安全なのかもしれない。


 しかし、俺の行動は城内に限定されている。


 新しい相手を探すにしても、城の中から選ばなければならないということだ。


 いや、見つけるだけなら難しくはないのかもしれない。


 マバール城には美人が多い。


 先日、レティシアの寝顔を眺めながら考えたばかりだが、シルディア城と比べても明らかに水準が高い。廊下を歩けば容姿の整った使用人と何人もすれ違うし、その中には魔力を持つ女もいる。


 魔力持ちの女性使用人は、皆、マバール家へ仕える騎士の家系だったはずだ。


 この世界では、魔力を持つ人間はそれだけで貴重だ。


 貴族の血にも価値がある。


 俺の立場と魔力を考えれば、城内の使用人へ手を出したところで、マバール家から怒られる可能性は低いだろう。相手の家によっては、むしろ喜ぶかもしれない。


 父上たちから褒められる可能性すらある。


 ギルバートもようやく女性を増やす気になったか、と。


 うーむ。


 だがなぁ。


 俺は茶を口へ運びながら、レティシアの姿を目で追った。


 ただ欲望を処理するためだけの相手というのも、何か違う気がする。


 一夜限りなら、それでも構わない。


 旅先で出会い、その場限りの関係で別れるのであれば、後のことまで深く考える必要はないだろう。


 だが、城内の女を相手にすれば、その後も毎日のように顔を合わせる。


 俺の部屋へ来ることになるかもしれないし、場合によってはレティシアやリエリエールとも関わることになる。相手の家との関係も残るだろう。


 身体だけを求め、用が済んだ後は知らないというわけにはいかない。


 それ以前に、俺は基本的にイチャイチャしたいのだ。


 別に種馬のような生活が嫌なわけではない。


 魔力持ちの女と子を作れと言われれば、それはそれで立派な仕事だと思う。相手が美人なら、喜んで励むだろう。


 しかし、できることなら一緒に茶を飲み、くだらない話をし、笑った顔を眺めたい。


 触れた時には抱き返してほしいし、寝台の上だけではなく、普段から近くにいてほしい。


 レティシアやリエリエールのような関係が理想だ。


 誰でもいいわけではない。


 だからといって、城内の女たちを一人ずつ呼び出し、俺とイチャイチャできるか確かめるわけにもいかない。


 それでは、さすがに評判が悪くなる気がする。


 うーむ。


 結局、行く場所がないという最初の問題へ戻ってきたな。


 俺は杯を置き、部屋の中へ視線を巡らせた。


 机。


 椅子。


 壁際の棚。


 いつもと変わらない自室だ。


 ただ、何かが足りないような気がする。


 しばらく眺めているうちに、ようやく気づいた。


 レアがいない。


 あの、俺が拾ってきてやったのに、なぜか俺の指ばかりをつつく生意気な鳥だ。


 普段なら、たいてい俺の部屋にいる。


 机の端に立っていたり、床の上を歩き回っていたり、俺が手を伸ばせば当然のように嘴を向けてきたりする。


 それが、帰ってきてから一度も姿を見ていない。


 昨日訪ねたダリアの部屋にはいなかった。


 リエリエールの部屋にもいなかった。


 ならば、レティシアの私室にでもいるのだろうか。


 それとも、もしかすると――。


「焼いたか?」


 考えていたことが、そのまま口から出た。


 茶器を片づけていたレティシアが手を止め、わずかに首を傾げる。


 うん。


 かわいいぞ。


 いや、そうではない。


「ああ、レアはどうした? 戻ってから姿を見ていないようだが」


「ああ、レアでしたら――」


 レティシアの口元へ、柔らかな笑みが浮かんだ。


 うーむ。


 やはりレティシアは美しいな。


 昨夜はリエリエールの部屋に泊まったから、レティシアも少しは休めたはずだ。今朝の顔色も悪くないし、立ち姿にも疲れは見えない。


 ならば、もうレアのことなど忘れて、このままレティシアとイチャイチャしてもよいのではないだろうか。


 まだ昼にもなっていないが、時間など大した問題ではない。


 ムードも、今まさに高まり始めている。


 俺がそんなことを考えている間にも、レティシアの唇は動いていた。


 そこでようやく、自分が途中からまったく話を聞いていなかったことに気づく。


 レティシアも察したらしい。


 説明を止め、俺の顔をじっと見つめていた。


「すまん」


「はい?」


「レティシアがあまりに美しいので、見惚れてちゃんと聞いていなかった」


 正直に謝ると、レティシアは一瞬言葉を失った。


 それから目を伏せ、頬を赤らめる。


「もう。また、そのようなご冗談を」


 耳まで赤くなっている。


 冗談ではないのだが。


 しかし、これはよい流れだ。


 レティシアも恥ずかしそうにしているし、俺としてはもう十分に雰囲気が整った。今から抱き寄せても、いきなり襲いかかったことにはならないだろう。


 だが、レティシアにとっては、まだそこまでムードが高まっていなかったらしい。


 俺が腕を伸ばすより先に顔を上げ、何事もなかったように話を続けた。


「レアのことでございますが――」


 もう、あんな鳥のことはどうでもよかった。


 それでも、レアについて話すレティシアがかわいいので、俺は大人しく聞くことにした。


 改めて説明を始めたレティシアの声は普段より少しだけ弾んでいるように聞こえる。口元の笑みも消えず、茶器を整えていた手まで止めて、こちらへ身体を向けていた。


 レアに懐かれているのが、よほど嬉しいのだろう。


 いつも落ち着いているレティシアが、少しはしゃいでいるように見える。


 かわいいな。


 また話を聞き逃しそうになったが、今度は何とか意識をレティシアの言葉へ戻した。


「レアは、若様がお役目に出られてから、日に日に大きくなりまして」


「ほう。そうなのか」


 俺は頷いた。


 レティシアは相変わらず美しい。


 レアの話をしているだけなのに、目元が柔らかくなり、声にまで嬉しさが滲んでいる。普段の隙のない姿も素晴らしいが、こういう表情も実にいい。


「はい。しばらくは、こちらのお部屋で過ごしていたのですが、次第に手狭になってしまいました」


「それほど大きくなったのか」


「ええ」


 レティシアは嬉しそうに頷いた。


 その動きに合わせて、胸元が僅かに揺れる。


 うーむ。


 やはり以前より大きくなっているような気がする。


 レティシアも、まだ成長しているのだろうか。


 もちろん、今でも十分すぎるほど素晴らしい。だが、ここからさらに成長するというのなら、それはそれで歓迎すべきことだ。


「それで、厩舎の横へ、レアが過ごすための小屋を新しく建てていただきました」


「ほう。小屋まで建てたのか」


「はい」


 さすがマバール家だな。


 鳥一羽のために小屋を建てるとは、ずいぶん手厚い。


 いや、レアは俺が拾ってきた鳥なのだから、ある程度大切に扱われるのは当然かもしれない。それに、レティシアが世話をしていたのなら、周囲も無下にはできなかったのだろう。


 あんな生意気な鳥にまで優しくしてやるとは、レティシアは本当にいい女だ。


 俺なら、何度も指をつつかれた時点で焼くことを考えている。


 まあ、実際に焼くかと聞かれれば、少し惜しい気もする。まだ、食い出も無いしな。


「小屋へ移ってからも、レアはどんどん大きくなりまして」


「そうか。だいぶ成長したようだな」


 俺は真面目な顔で相槌を打った。


 その間も、視線はレティシアの唇へ向いていた。


 レアについて話すたび、艶やかな唇が柔らかく動く。


 今からでも抱き寄せて、その口を塞いでしまいたい。


 だが、レティシアは楽しそうに話している。


 ここで止めてしまうのも、少しもったいない。


 もう少しだけ聞いてやるか。


「最初は小屋の中を歩き回るだけでしたが、今では外へ出ると、とても速く走るようになりました」


「ほう」


 レアが速く走る。


 あの短い脚でか?


 いや、大きくなったのなら、脚も伸びたのかもしれない。


 そういえば、卵の近くで見た黒い鳥も、ずいぶん長い脚をしていたな。


 あれとレアにどのような関係があるのかは分からないが、同じような姿へ成長している可能性はある。


 もっとも、今はそんなことより、レティシアの胸がどこまで大きくなるのかの方が気になる。


 レティシアが成長を続けるのなら、俺も負けてはいられない。


 何に負けるのかは分からんが、俺も腕を磨く必要があるだろう。


 大きくなるほど、より丁寧に扱わなければならないからな。


 うむ。


 大切なことだ。


「それに、わたくしの言うことも、以前よりよく分かるようになったようでございます」


「そうなのか」


「はい。呼べばこちらへ来ますし、わたくしが止まるように言えば、きちんと止まってくれます」


 俺の言うことは聞かなかったくせにな。


 拾ってやった恩も忘れ、俺の指ばかりつついていた鳥だ。


 それがレティシアには素直に従っているらしい。


 少し納得がいかない。


 いや、レティシアが相手なら仕方ないか。


 俺だって、レティシアに柔らかく頼まれれば大抵のことは聞く。レアも同じなのだろう。


「今では、わたくしを背に乗せて、走り回れるほどに大きくなりました」


「ほう」


 俺は頷いた。


 レティシアは本当にかわいいな。


 白い頬には薄く赤みが差し、レアに乗った時のことを思い出しているのか、笑みがいつもより深い。


 そんな姿を見られるなら、あの鳥を拾ったことにも多少の意味はあったのかもしれない。


 うん。


 レティシアを背に乗せて走り回るほど――。


「ん?」


 遅れて、言葉の意味が頭へ入ってきた。


 今、何と言った?


 レティシアを乗せて走り回る?


 あの、手のひらに収まるほど小さかった鳥が?


 俺が出発する前にも多少は育っていたが、人を乗せられるような大きさではなかったはずだ。


 しかも、ただ背に乗せるだけではない。


 走り回ると言った。


「レティシア」


「はい」


「今、レアがお前を乗せて走ると言ったか?」


「はい。最近では、厩舎の周りを何度も走っております」


 レティシアは当然のことのように頷いた。


 聞き間違いではなかったらしい。


 レティシアは決して太ってはいない。


 腰は細いし、身体にも余分な重さは感じない。


 だが、胸がかなり大きいこともあり、成人した女として普通程度の重さはあるはずだ。俺は何度も抱き上げているから、そのくらいは分かる。


 そのレティシアを背に乗せ、走り回れる。


 いったい、どれほど大きくなったのだ。


 俺の記憶にある小さな白い鳥と、レティシアの話すレアの姿が、どうしても頭の中で繋がらない。


「落ちたりはしないのか?」


「大丈夫でございます。特別な鞍などもございますし、レアも、わたくしを乗せている時は気をつけて走ってくれているようです」


「そうなのか……」


 ずいぶん賢くもなったらしい。


 俺の指をつついていた頃とは、別の鳥のようだな。


 いや、実際に見なければ分からない。


 レティシアへ懐いているあまり、少し大げさに感じている可能性も――いや、レティシアがそのような嘘をつくはずはないか。


 俺は残っていた茶を飲み干し、杯を机へ戻した。


「ふむ。俺も一度、見ておくとするか」


「はい」


 レティシアは明るい笑顔で頷いた。


 うん。


 やはり、かわいいな。


 レアがどれほど大きくなったのかも気になるが、嬉しそうなレティシアをもう少し眺められるのなら、厩舎まで足を運ぶのも悪くない。


 何より、厩舎は城内だ。


 これなら、謹慎を破ったことにもならないだろう。

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