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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第百八話 城門の向こう


 攻撃魔法を放った瞬間、城門が内側へ弾け飛んだ。


 厚い木材と金具がまとめて裂け、押し潰された空気が腹に響く。砕けた扉板が石畳を跳ね、門楼の影にいた兵たちが悲鳴を上げる前に吹き飛ばされた。土埃と木片の向こうで、ぽっかりと開いた暗い口が見える。


「進め!」


 俺の声に、背後でマバール騎士たちが咆哮した。


 馬の蹄が一斉に石畳を叩き、割れた城門の残骸を踏み越えていく。軍旗が風を裂き、黒ずんだ煙と埃の中へ吸い込まれる。門の内側で槍を構えていた平民兵たちは、声を出すより早く飲み込まれた。先頭の騎士が馬上から剣を振り下ろし、肉体強化魔法で重くなった一撃が盾ごと腕を叩き割る。横から飛んだ攻撃魔法が、奥にいた敵騎士の防御魔法を削り、その隙へ別の騎士が槍を突き入れた。


 城門を抜けた先は、小さな広場になっていた。


 本城へ続く道と、城壁沿いへ回る道と、兵舎らしき低い建物へ向かう道が交わっている。広場の端には荷車が置かれ、逃げそこねた馬が縄を引きちぎろうとして暴れていた。平民の使用人らしき者たちが壁際で身を縮め、何人かの兵が慌てて槍を持ち直している。


 騎士たちは、そこで次々と馬から飛び降りた。


 城の中は狭い。馬のまま奥まで押し込むより、ここから先は足で動いた方が早い。セバスチャンに何度も叩き込まれた動きが、俺が命じるより先に形になっていた。オルドが大剣を肩に担ぐようにして前へ出る。ジノは槍を低く構え、敵の攻撃魔法を防御魔法で受け流した騎士の横へ滑り込む。クレインとトールは広がりすぎず、逃げ道と建物の入口を押さえた。


 よし。


 悪くない。


 いや、かなり良い。


 俺が前へ出すぎなくても、騎士たちは自分で動いている。もちろん相手が弱いというのもある。だが、それを差し引いても、城門突破直後の混乱を逃さず踏み潰す動きは速かった。


「騎士たちは任すぞ」


 俺は馬から降り、手綱を近くの騎士へ投げた。


「はっ!」


 返事と同時に、すぐ近くで敵騎士の防御魔法が砕けた。味方の攻撃魔法が正面から押し込み、別の味方が肉体強化魔法を乗せた剣で横から腹を裂く。血が石畳へ飛び、倒れた身体が荷車の車輪へぶつかった。


 俺はその横を歩き出した。


 踏み込んだ足裏に、砕けた木片と砂利の感触が伝わる。防御魔法を薄く広げ、肉体強化魔法を身体の奥へ流し、感知魔法を城内まで拡げた。騒音、煙、血の匂い、怒号。その全部を皮膚の外へ押しやりながら、魔力反応だけを拾う。


 小さい反応がいくつも動いている。


 平民兵は感知に引っかからない。だから見えているのは騎士と貴族だけだ。城門近くの反応はもう崩れ始めている。本城側へ、いくつかの反応が寄っていく。その奥に、ひときわ大きい反応があった。


 そこだな。


「若様」


 横からセバスチャンがついてきた。


 いつの間に馬を降りたのか、傷だらけの実戦鎧に埃をまといながら、当たり前の顔で俺の半歩後ろへいる。剣にはもう血がついていた。


「ん? 貴族の相手は俺がやるぞ」


「お任せしますが、一人で行かんでください」


「心配性だな」


「若様が城の中で一人歩きして、何も壊さず戻ったことがありましたかい?」


「失礼な。今回は城を使うかもしれんから、ちゃんと加減する」


「その加減を見張る者が必要でしょうが」


 反論しようとして、やめた。


 言い返せる材料が少ない。


 前方の廊下から、敵騎士が二人飛び出してきた。こちらを見た瞬間、片方が攻撃魔法を放つ。白く弾けた魔力が空気を押し、真正面からぶつかってきた。


 俺の防御魔法に触れた瞬間、音だけ残して弾けた。


「邪魔だ」


 攻撃魔法を返す。


 相手の防御魔法が一瞬だけ膨らみ、すぐ穴が開いた。胸を貫かれた騎士が壁へ叩きつけられ、もう一人が剣を抜きながら踏み込んでくる。セバスチャンが横から入った。相手の攻撃魔法を自分の防御魔法でわずかに逸らし、視線が揺れた瞬間、鎧の隙間へ剣を差し込む。騎士の膝が崩れ、声もなく床へ沈んだ。


 うまい。


 派手ではないが、無駄がない。


 俺だと、つい正面から防御魔法ごとぶち抜きたくなる。あれはあれで楽だし速い。だが、こういう閉じた場所では、セバスチャンの殺し方の方が静かで確実だった。


 廊下の曲がり角に差しかかった瞬間、物陰から槍が突き出された。


 平民兵だ。


 感知魔法には何も出ていなかった。壁際に積まれた箱の影から、顔を真っ赤にして飛び出してきた男の目だけが見えた。恐怖で固まっているのに、それでも腕は槍を前へ出している。


 槍先が防御魔法に当たり、乾いた音を立てて折れた。


「あ」


 男の口が動いた。


 俺はその首を掴んだ。


 肉体強化魔法を流した指に、骨と筋の感触が返ってくる。少し力を込めると、呆気なく砕けた。身体から力が抜け、折れた槍ごと床へ崩れかけた男を、壁際へ放る。転がった身体が箱を倒し、中から麻袋がいくつかこぼれた。


 怖いなら隠れていればよかったのに。


 そう思うが、口には出さない。


 抵抗した。だから、殺した。


 ただそれだけだ。


 奥からまた足音が来る。今度は二人、いや三人。魔力反応の動きが乱れている。こちらへ向かう意思はあるが、揃っていない。


 セバスチャンが一歩前に出た。


 敵の攻撃魔法が廊下を照らす。セバスチャンは真正面で受けず、防御魔法で斜めに流した。壁の石が削れ、破片が飛ぶ。そこへ短く攻撃魔法を返す。強くはない。だが相手の視線を奪うには十分だった。眩しさに瞬いた騎士の胸へ、セバスチャンの剣が入る。


 もう一人が槍を突き込んできた。


 俺が攻撃魔法で槍ごと腕を飛ばす。血が扉へ散り、最後の騎士が半歩下がった。逃げようとしたのか、防御魔法を張ろうとしたのか、その前にセバスチャンが踏み込み、後頭部へ剣の柄を叩き込む。体勢が崩れたところで首筋へ刃が走った。


 静かになった廊下に、遠くの怒号だけが流れ込んでくる。


 感知魔法の中で、城内の魔力反応がさらに奥へ集まり始めていた。ばらけていた点が、一つの大きな反応の周囲へ寄っていく。逃げるというより、守ろうとしているように見える。


「ふむ。当主の元に集まってるな」


「そりゃそうでしょう」


 セバスチャンが剣についた血を軽く振った。


「打って出た方がよくないか?」


「貴族が死ねば、その家はおしまいなんですよ。そう簡単に前には出やせん」


「俺は出てるぞ」


「若様ぐらいの馬鹿魔力があれば出るでしょうな」


「ん? 馬鹿魔力?」


「ご自分を基準にせんでください」


「なんか馬鹿にされたような気がするな」


「気のせいですな」


 絶対に気のせいではない。


 だが、廊下の先から次の敵が来たので、文句は飲み込んだ。


 敵騎士は四人。狭い廊下で横に並べず、前後に詰まっている。先頭が防御魔法を厚く張り、後ろが攻撃魔法を撃つつもりらしい。悪くない。正面から力で押し切れない相手なら、そういう使い方は有効だ。


 相手が俺でなければ。


 俺は歩幅を変えずに進み、先頭の防御魔法へ攻撃魔法を叩き込んだ。防御魔法の表面が歪み、一撃目で割れる。ニ撃目は必要なかった。貫いた攻撃魔法が先頭の頭を抉り、後ろの騎士が血を浴びて硬直する。


 その隙にセバスチャンが脇へ入り、二人目の膝裏を裂いた。倒れたところを首へ突き入れる。三人目が槍を振り回そうとしたが、廊下の狭さで穂先が壁へ当たった。俺はその胸へ攻撃魔法を落とす。四人目は逃げようとした。背中を向けた瞬間、セバスチャンの投げた短剣が首の後ろへ刺さる。


「器用だな」


「若様が不器用すぎるんです」


「俺は攻撃魔法が得意なんだよ」


「知ってますぜ。城門が見事に吹き飛びましたからな」


「城壁は残しただろ」


「へいへい、お見事で」


 雑だ。


 だが、確かに城壁は残した。城門だけを吹き飛ばしたのだから、今回はかなり丁寧な部類だと思う。


 本城の奥へ進むにつれ、石壁の造りが少しだけ変わった。外側より磨かれた石が使われ、壁掛けの布も増える。高価なものではないが、領主の居住区に近い空気になってきた。廊下の燭台は揺れ、扉の向こうから人の息を呑む音がする。だが、魔力反応のない者は無視する。抵抗しないなら殺す必要はない。


 大きな扉の前で足を止めた。


 中に、大きな魔力反応がある。


 その周囲に、いくつかの反応。貴族だ。騎士ほど動き回らず、ひとかたまりになっている。さらに、扉の向こうで魔力が膨らむのを感じた。


「来るな」


 慌てる必要はない。


 防御魔法を厚く展開した直後、内側から攻撃魔法が放たれた。


 扉が吹き飛んだ。


 破片が廊下へ散り、熱と圧が押し寄せる。続けて二撃、三撃。広い室内から放たれた攻撃魔法が、壊れた扉口を抜けて俺へ叩き込まれる。防御魔法の表面で白く弾け、壁や床に余波が走った。


 俺はそのまま歩いた。


 攻撃魔法が来るたびに、防御魔法の表面が震える。だが、それだけだ。痛みも衝撃もない。埃の向こうへ踏み込み、扉の残骸を跨ぐ。足元で金具が転がった。


 室内からの攻撃が止まった。


 広い部屋だった。


 領主の執務室か、家族の集まる私室か。奥には大きな机があり、壁には古びた家紋入りの布が掛かっている。倒れた椅子、散らばった書類、床に転がった燭台。部屋の中央に、中年の貴族男性が立っていた。その横に、ほぼ同年代の女性貴族。少し離れて青年貴族が剣を握り、ギルより少し年上に見える貴族女性が青ざめた顔で壁際にいる。


 感知魔法の反応と数は合う。


 この城の貴族は、これで全部だな。


「ギルバート・マバールだ」


 名乗ると、中年の貴族男性の顔が歪んだ。


「マバール? マバールの者がなぜ……?」


「まだ知らんのか? マバール家は王国を捨て、帝国につく」


「う、裏切り者め!」


 中年の貴族男性が叫んだ。


「エルディアの恩を忘れたか!」


 青年貴族が続く。剣先が震えている。怒りか、恐怖か、その両方かもしれない。


「なぜ当家を!」


 女性貴族の声は割れていた。若い貴族女性は唇を震わせているだけで、言葉になっていない。


 別に口喧嘩をしに来た訳じゃないんだがな。


 俺は肩をすくめた。


「言い残す事はそれでいいか?」


「ま、待て!」


「ん?」


 足を止める。


 中年の貴族男性は、荒い呼吸を押し殺すように胸を上下させていた。防御魔法はまだ張っている。さっきの攻撃魔法も、この男のものだろう。魔力反応はこの中で一番大きい。


「ガルシア・マバール殿との会談を要求する!」


「んー」


 面倒だな。


「ガルシア殿とは王都で何度も話したことがある。わしからの要求なら聞かれるはずだ!」


「んー、めんどくさいから却下」


「な、なんだと!」


「やかましいな」


 攻撃魔法を放った。


 中年の貴族男性の防御魔法は、確かに厚かった。小貴族の当主としては悪くない。だが、俺の攻撃魔法を受け止めるには足りない。防御魔法の中心を貫き、頭部と心臓をまとめて吹き飛ばす。男の身体が後ろへ倒れ、机の角にぶつかって床へ落ちた。


「貴様!」


 青年貴族が剣を振り上げる。


「あなた!」


 女性貴族が遺体へ縋りついた。


「お父様……!」


 若い貴族女性が一歩踏み出す。


「それが最後の言葉でいいな」


 続けて撃った。


 青年貴族の防御魔法は薄い。頭と胸を貫いた攻撃魔法で、剣を振る前に崩れた。女性貴族は倒れた当主へ手を伸ばした姿勢のまま、心臓を撃ち抜かれる。若い貴族女性は防御魔法を張ることすら間に合わず、壁際へ倒れた。


 部屋が静かになった。


 血の匂いと、焦げた布の匂いが混じる。床に落ちた燭台の炎が小さく揺れていた。俺は一応、感知魔法で反応が消えるのを確認する。貴族の反応はなくなった。


「降伏は認めるんじゃ?」


 後ろからセバスチャンが言った。


「降伏してないだろ」


「それもそうですな」


 セバスチャンは倒れた四人へ近づき、一人ずつ剣を入れた。頭か心臓か、手早く確実に確認していく。その動きに迷いはない。


「それに、ここはシルビア橋に繋がる領地だしな」


「そっちが本音ですな」


「別に隠してないだろ」


「若様は本当に立派な平和主義者で」


「褒めるな」


「褒めちゃいませんぜ」


 失礼な。


 俺は室内を見回した。壁は焼け焦げていない。机は当主がぶつかったせいで少し傷んだが、部屋そのものは残っている。扉は派手に吹き飛んでいるが、それは向こうが内側から撃ったせいだ。


「それよりどうだ。城は無傷だぞ。扉も吹き飛ばしたのは向こうだしな」


「へいへい、お見事です」


「おい、扱いが雑だぞ」


「それより下に戻りましょう。ほとんど終わったみたいですぜ」


 感知魔法でも、城内の魔力反応はほとんど動かなくなっていた。残っている反応は味方ばかりだ。外側ではまだいくつか揺れているが、逃げるというより確認に走っている動きに近い。


 階段を下りると、血と埃の匂いがさらに濃くなった。


 広場には、敵騎士の死体がいくつも転がっている。壁際には降伏した平民兵や使用人が集められていた。武器は足元へ置かせているが、縄で縛ってはいない。泣いている者、うつむいて震える者、こちらを見ないようにしている者。それぞれだ。


 オルドがこちらへ駆け寄り、血のついた鎧のまま膝をついた。


「平定はほぼ完了しました。現在、城内に残党が残っていないか確認中です」


「ご苦労」


 オルドの息は少し荒いが、怪我らしい怪我はない。周囲の味方も大きな損害はなさそうだった。敵騎士の質が低かったというより、こちらが速かったのだろう。城門を破ってから、相手が体勢を整える暇を与えなかった。


「ゼサイク家やイルジューク家は、無事こちらに協力するようだな」


「ほう」


 セバスチャンが片眉を上げた。


「他にもいくつもがマバール家に着きたがっている」


「それでは、国内貴族の半分はこちらになりますな」


「それ以上になるかもな」


 オルドが目を瞬いた。


 降伏した平民兵たちの間にも、ざわめきが走る。誰かが小さく息を呑み、別の誰かが隣の男の袖を掴んだ。名前の力というのは便利だ。たとえ本人を知らなくても、誰かが動いたという話だけで、人は勝手に続きを考える。


「ああ、降伏した者は解放していいぞ」


「武装は?」


 オルドが確認する。


「そのままでいいだろ」


「そのまま、ですか」


「持ち出したい品があれば持ち出していいぞ」


 俺は壁際に集められた者たちへ向けて言った。


 顔が上がる。


 信じていない顔だ。無理もない。城は落ち、貴族は死に、騎士もほぼ殺された。その相手から、武器も荷も持って出ていいと言われているのだから、罠だと思う方が自然だ。


「では行け!」


 オルドの声が広場に響いた。


 平民兵と使用人たちは、最初は恐る恐る動き出した。やがて何人かが建物へ走り、荷物を取りに行く。まだこちらを警戒し、振り返り、足をもつれさせながらも、出口へ向かう流れができていく。


 これでいい。


 殺す必要のない者まで殺すと、後が面倒になる。逃げた者は喋る。喋れば、噂が走る。マバール家へ逆らえば貴族は死ぬ。だが、平民は抵抗しなければ逃がされる。ついでに、ゼサイク家やイルジューク家がこちらについているかもしれない、という疑心も混ざる。


 悪くない。


「ゼサイク家やイルジューク家が内応しているとは知りませんでした」


 オルドが感心したように言った。


「俺も知らんな。会ったことも無いしな。誰だそれ」


「は?」


 オルドが固まった。


 セバスチャンだけが、喉の奥で笑った。


「いや、立派な悪党ですなぁ」


「褒めるな。これで疑心が広まれば儲け物だろ」


「これからが楽しみですな」


 セバスチャンの笑い方は、さっきまでより少し楽しそうだった。


 俺は城門の方を見る。


 吹き飛んだ門の向こうに、夜明け前の空が薄く白み始めていた。煙と埃の向こうで、マバール家の軍旗が風に揺れている。王国の城だった場所に、その旗が立っている。


 思ったより、悪い気分ではなかった。


 いや、むしろ。


 かなり良い。


 これでシルビア橋までの道は、少し近くなった。

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― 新着の感想 ―
今のところ、多少思慮深い部分がなくはないけどギルバートは前線指揮官むきですな。 産業開発はともかく、あんまり内政はしてないけど貴族は決断と決裁が主であんまり実務はしないということなのか。 しかし、領…
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