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第41話 株価とお菓子が値上がり?

「71,250円6銭!

 戦後最高値を更新じゃ!」

 6月20日の土曜日の朝、イヤホンを耳にしたまま、カニの長老が叫んだ。

「どうしたんですか?」

 水槽新聞部、梅干イソギンチャクの銀太くんが、水槽の右端から声をかけた。

 左端から長老が応える。

「日経平均株価、昨日の終値じゃよ!」

「長老、うれしそうですね?」

 イソスジエビのスジコちゃんの小屋〔第6話参照〕から出て来たカニのタロウが、にやにやしながら聞く。

「そりゃあ、だって、この調子じゃ、8万円も、夢じゃありゃせんぞ!

 サナエ・ソーリ就任の頃に、そう言われとったじゃろ?」

 確かに、そう言われていたが。

「でも、ぼくたちには、株価上昇の実感というか、恩恵は、感じられませんね?」

 タロウが首を(かし)げる。

 と、スジコちゃんが、カルビーのポテトチップスをかじりながら小屋から出て来た。

「もう、イヤにやっちゃう。

 また、値上がりよ?」

 水の中でポテチはシケないのか?

「だって、去年は、ロッテのアイスクリーム『雪見だいふく』と『モナ王』に、赤城乳業の『ガリガリ君ソーダ』とか値上げしたし、亀田製菓の『ハッピーターン』だって値上げしたのよ!」

 一同、目が点。

「おぬし、よく食べるの?」

「女の子は、食事とお菓子が、別腹なの!

 ね? 銀子ちゃん?」

 言われた梅干イソギンチャクの銀子ちゃんが、銀太くんの隣りで大きくうなずく。

「それどころじゃなくて、これからも値上げがあるのよ!」

 長老がこっくりした。

「帝国データバンクの調査によればの、来月7月に値上げが見込まれる飲食料品は、2,269品目もあるそうじゃ。

 飲食料品だけで、じゃぞ?」

「え~!」

 ひっくり返る水槽住民。

 新聞部の2人が同時に叫ぶ。

「そりゃ、ひどいじゃないですか!

 あたしたちの(ぼくたちの)、暮らしはどうなるんですか?」

 腕を組むタロウ。

「ぼくたちは、タカシやコズエさんの扶養家族ですから、直接は影響がないものの、まだ食べ盛りのハコちゃんや大学生のシゲルを抱える青木家としては、大打撃でしょうねぇ、、、」

 鼻から息を吐くスジコちゃん。

「もう、サナエ・ソーリ、何とかしてくださいよ!」

 長老が両手を叩いた。

「そうじゃ、皆で嘆願書を書こう!」

 首を左に曲げるタロウ。

「誰に出すんですか?」

「もちろん、タカシに、じゃ。

 この水槽の中に、ポストはないからの?」

 シラッとして答える長老。

「それじゃ、タカシが困るだけじゃないですか。

 もう、長老ったら!」

 老人がハサミで白髪頭をかく。


「ところで、どうして、そんなに株価が上がってるんですか?

 ぼくたちの生活実感と、掛け離れていませんか?」

 タロウが素朴な質問をすると、うなずいた銀太くんが取材ノートの野帳やちょうを広げながら答えた。

「AI(人工知能)と半導体関連の銘柄の伸びがとくに大きかったそうです」

 腕を組み直す一同。

 水槽天井の濾過器に水を汲み上げるモーターポンプの音が、カラカラと聞こえる。

「AI?」

 つぶやいたスジコちゃんに、こっくりする銀子ちゃん。

「この家にいる、お掃除ロボットのロンバ君も、AIよね?」〔第11、26-27、30話参照〕

 一瞬の間の後、長老がポロリとつぶやいた。

「あいつみたいなのがたくさん売れて、いろいろな家の中を徘徊するようになることが、株価7万円の原因なんじゃかの?」

 一同が台所のロンバ君に目をやると、充電ステーションを背にした彼の目と合ってしまった。

「あいつ、また、ぼくたちの会話を録音してますよ、きっと」

 銀太くんが低い声で言った。(おわり)

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