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第42話 300万円が当たった~?

「300万円が当たった~?」


 6月23日の火曜日の朝、コズエさんが隣りの布団で寝ているタカシの肩を揺すった。

「ねぇ、あなた。大変!」

「え~? もうご飯?」

 枕元のスマホで時刻を確認すると、4時20分。

 窓の外はほんのり明るいものの、まだ日の出前だ。

「まだ、早いじゃん、、、」

 不機嫌そうに頭を逆に向ける。

 タカシの左肩を突つくコズエさん。

「そうじゃないのよ。

 夢の中に宝くじ売り場の人が出て来て、『300万円、入ってます!』、そう言ったのよ!」

 宝くじ売り場の人は、確認中のお客さんのくじが当たっていたとき、「当たった」とは言わない。

 車に当たるとか、縁起の悪いことを嫌って、当りのときは「入ってる」という。

「当りが入ってる」という意味だろうけれど、初めて聞く人には新鮮な響きがある。

「ふ~ん」

 頭を戻しながら目をシバシバするタカシ。

「じゃあ、今日買えばいいじゃん」


 実は、コズエさんは、以前不思議な体験をしたことがあった。

 もう10年も前になるか、横須賀の浦賀町の職場にいたとき、その職場に霊験あらたかな女性がいた。

 その女性を、仮に「宮崎さん」としておこう。


 そもそも、浦賀という港町は歴史のある町で、江戸初期の1600年過ぎ、徳川家康の外交顧問になった青い目のサムライ、三浦按針(あんじん)ことウィリアム・アダムス〔英国人〕が、アジア貿易のために幾度も船を出した国際港だった。

 幕末の1853年に、アメリカ東インド艦隊のペリー提督が4隻の軍艦を率いて日本に開国を迫ったという大事件があったけれど、1860年に勝海舟や小栗(おぐり)忠順(ただまさ)、福沢諭吉、通訳のジョン万次郎などを乗せた咸臨丸(かんりんまる)がサンフランシスコに向けて日本を後にした地でもある。

 町には、ペリー提督からもらった170年も前の古い鉄のシチュー鍋を家宝にしていて、それで作ったシチューを皆で食べるというイベントを毎年やっているおじさんがいる。

 そんな、古い歴史を妙に愛する人が多い町なのだ。

 そして、その歴史ある浦賀町のコズエさんの職場に時々やってくる近所のお店の奥さん、仮に「赤木さん」としておくけれど、この異常なほどの読書家は、子供の頃に幽霊を見ていたという。

「見えるのよね」

 成長とともに見えずらくなったとは言っていたけれど、その素質は残っているとのことだった。


 もう1人の妙なおばさんが、職場の「宮崎さん」だった。

 とうの昔に亡くなったお父さんが今あの世で元気にしているのか、イギリスの高名な霊媒師に直接会って聞いてもらうために、わざわざドーバー海峡の地下トンネルを列車で渡ったという人だ。

 イギリスには、今でも1,600人を越える霊媒師がいるというから、映画「ハリー・ポッター」もあながち非現実的な話ではない。


 さて、事の次第は、こうだった。

 コズエさんがある日、たまたま職場で続けて拾いものをした。

 1つ目は、職場で以前見当たらなくなっていた100円玉を、何かの拍子で見つけたのだ。

「あら、こんな所にあった!」

 この時は、それを元のあるべき場所に移して終わり。

 同じ日、何かの拍子に机の下を覗いていたら、イヤリングの片方を見つけた。

「それ、あたしの!」

 職場の新人さんが叫んだ。

「見つからなくて困ってました。助かった~」

 とその時、そばにいた「宮崎さん」が、ぽつりと(つぶや)いたのだ。

「コズエさん、宝くじ、買ったほうがいいかもよ?」

 

 人を(うたぐ)ることを知らない素直なコズエさんは、「宮崎さん」に言われるがまま、帰宅経路途中にある宝くじ売り場に寄って、生まれて初めて「ナンバーズ4」を買った。

 好きな数字4桁を記入して1週間待つだけのやつだ。

 家族5人分の誕生日×200円、1,000円を払った。

 1週間後、その宝くじ売り場に行って確認してもらったら、「入ってます!」。

 そう叫んで、売り場のおばさんがのけぞったのだ。

「ハコちゃんの誕生日0215が、8万5,000円!」

 5万円を超える当選金は売り場ではもらえないから、翌日の午後、休暇をとってみずほ銀行まで出かけ、新しい口座を作って、そこに入れてもらったのだった。

 後日、「宮崎さん」には、山中湖で買った高級紅白ワインの2本セットを、お礼にあげた。


 夢を見た日、コズエさんは、隣町の三浦市のケインズホーム駐車場にある宝くじ売り場に行ったけれど、何を買っていいのかがわからない。

 売り子のおばさんに買える宝くじを教えてもらい、とりあえず、「関東・中部・東北自治宝くじ」のバラと連番を10枚ずつ買った。

 帰りがけに、「BIG」のポスターに目がとまるけれど、それがどんなくじなのか、全くわからない。

 曰く、BIG、MEGA BIG、100円BIG、BIG1000、mini BIG。

 さすがに、「mini BIG」はおかしくないか、突っ込みそうになってやめる。

 売り場の窓ガラスの脇を見ると、「困ったときは、こう買いましょう」と、張り紙があった。

 BIGからmini BIGまで、5種類1枚ずつを合計1,100円で買うというものだ。

 とりあえず、悩まずに済むので、内容もわからず、それを3セット買った。

「どんな宝くじか、説明書みたいなものありますか?」

 コズエさんがしどろもどろで頼むと、中から小さなパンフレットが差し出された。

 買ってから読むわけだけれど、どうやら、今やっているサッカー・ワールドカップの対戦結果の予測らしい。

 エクアドル・ドイツ戦から始まり、日本・スウェーデン戦もある。

 なにしろ、コンピューターが勝手に予測した数字〔結果〕を買い手が受け取るだけなので、手間がない、というか、他人任せだ。

 でも、もともと、サマージャンボ宝くじだって、番号を自分で選べるわけではなく、他人任せのものを買っていることに変わりはない。

 BIGからmini BIGまでの当選条件を整理すると、次のとおりだ。

1、当てるべき勝敗結果を指定された試合の数:BIG・14試合、100円BIG・14試合、BIG1000・11試合、mini BIG・9試合。

2、各試合の両チームの合計得点数が指定された試合の数:MEGA BIG・12試合。

 1番当選が難しいのは、12試合それぞれの両チームの合計得点数を当てなければならないMEGA BIGで、その当選金額は最高12億円と高額になる。

 他の4つは、90分間の勝敗結果のみが当選条件で、徐々に試合数を減らすことで当りやすくする代わりに、当選金額も最高6億円から100万円までのランクがあるわけだ。


 夕食を食べながら、コズエさんがタカシに報告した。

「もう、わけわかんなくて~。

 とにかく、買ったって感じ~。

 買わなきゃ、一生後悔しますからね!」

 すると、秋田から届いた「いぶりがっこ」〔干しダイコンの漬物〕をかじりながら、夫がつぶやいた。

「『mini BIG』は、いらなかったんじゃね?」

「?」

 箸を(くわ)えたままの妻。

「だってさ、最高当選金額100万円だろ?」

「そうよ?」

「それじゃあ、買ったって、夢のお告げの300万に届かないじゃん?」

「あ゛ー!」

 漫画に出て来る「あ」に濁点をつけた叫び声をあげる妻だった。(おわり)

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