第37話 役場にロボットが採用?
「役場にロボットが採用されたんだ」
5月18日午後7時、「いただきます」のかけ声の後、最初に口を開いたのは世帯主のタカシだったけれど、なんとなく声が低い。
妻のコズエさんと娘のハコちゃんの、3人のささやかな夕食の場面。
今夜は蕎麦ざるに載ったラーメンのつけ麺と天ぷらで、見た目が涼しい。
「ええっ?」
口の中のラーメンを飲み込んだ後、ハコちゃんが叫んだ。
「役場でロボットが働いてるのぉ?」
うなずく世帯主。
「人件費を削減しなくちゃいけないから、退職した正規職員の代わりに、非正規職員を採用した。
それに加えて、役場庁舎の案内役として人型ロボットを採用したんだ」
首をひねる妻。
「ロボットに案内できるの?」
天ぷらの海老の尻尾をかじる夫。
「それが、得意なんだ」
箸を置いて説明を始めるタカシ。
「だってAI搭載だから、役場の全ての仕事の中身と担当部署を理解している。
受付に来た住民があいまいな問い合わせをしても、2、3回、確認の質問を繰り返すと、本人も知らないような業務内容に結び付けて、その担当係に案内できるんだ」
目を見開く妻。
「人間の知識には限りがあって、勤務した部署のことは詳しいけど、24もある係の全ての業務内容を詳細に知っている職員なんか、いるわけない」
うなずく2人の家族。
アオリイカの天ぷらをがぶりとかじるタカシ。
「体の内部構造は全く金属的なんだけど、外側はシリコンとか人口皮膚とかに包まれていて、温かみがある。
握手すると、実際に温かいんだ。
顔なんかも、若い女性の顔に作られていて、びっくりするほど表情が豊か。
笑いもするし、困った顔もする。
皮膚は、人間の皮膚細胞を培養した皮膚にする研究がすすんでいるらしい」
「えっ」と、口を開けるハコちゃん。
「走ろうと思えばマラソン選手より速く走れるんだけど、そんなスピードで役場の中を走られたら危ないから、歩く速度は時速2キロでリミッターを掛けている。
子供や高齢者も来るからね」
うなずくコズエさん。
「階段は?」
質問のあと、ミョウガの天ぷらを1つまるまる口に入れた。
「それが、全く心配ない。
テストしたら、後ろ向きに上ることもできる」
喉に詰まりそうになり、あわててお茶を飲む妻。
「じゃあ、人間はいらなくなっちゃうじゃん?」
ハコちゃんがいんげん豆をかじった。
「そこなんだよね。
役場の中で、恐らく、すぐ人間と置き換わりそうな仕事は、例えば、トイレやフロアの清掃、道路のパトロール、守衛業務、観光案内。
おおっ、クレーマー対応が得意かも?
それと、意外に、消防の救急隊に向いてるかもしれない。
人間より早く症状の判定やトリアージ〔治療や搬送の優先順位決め〕ができる可能性があるよね。何しろ知識とデータが豊富だからな。
それに」
自分で言いながら、思いついたアイデアに興奮するタカシ。
「人間が入っていけないようなビル火災の現場や、危険な場所にも、ロボットなら突入できるぞ!」
半分ラーメンが載っているざるを前に腕を組むコズエさん。
「学校の先生の代わりにロボットが教える時代がくるのかしら?」
「やだ~、先生は人間の方がいい!」
むくれるハコちゃん。
「だって、例えば、音楽の時間には誰よりも上手にピアノ伴奏ができるし、歌だって上手い。
体育の授業だったら、先生もできないようなアクロバティックな器械体操も」
自分で言いながら、吹き出すコズエさん。
「機械が機械体操するんだから、上手に決まってるわよね!」
タカシもつられて笑ったけれど、途中でしょぼんとした顔になる。
「オリンピックの、体操の床のシライ3〔後方伸身2回宙返り3回ひねり、I難度〕とか、スケートの6回転ジャンプだって、ロボットなら、きっとできちゃう。
100メートルだって、そのうち余裕で9秒切っちゃうよな、、、」
ラーメンも天ぷらもざるに残したまま、そろって腕を組んでいる3人。(終わり)




