第35話 ヤホオクに初出品!
「ゴールデンウィークも、残りあと2日ね?」
晴天。
5月5日の火曜日の午後、梅干イソギンチャクの銀子ちゃんが頭の触手を揺すりながら言った。
「あちこちの高速道路が、戻る車で大渋滞ですよ」
隣りにいる同じイソギンチャクの銀太くんがあいづちを打つ。
水槽の循環濾過器から下りてくる新鮮な水流を体に受けながら、カニのタロウが近づいてきた。
「青木家のお二人は、出かけなかったみたいですね?」
そう。世帯主のタカシと妻のコズエさんは、ずっと家にいた。
銀太くんが、手に持った野帳〔フィールドノート〕を開いてレポートする。
「記録によれば、コズエさんは新作長編の連載投稿にかかりっきりですね。
何しろ書き上がってない長編作のエピソードを、毎週1話ずつネットにアップするって宣言しちゃったそうですよ。
大胆ですね。初の週間連載、大丈夫でしょうか?
それに、松山市のお友達から『坊ちゃん文学賞』の応募開始の知らせもあり、そっちも参戦する覚悟みたいです。
5月1日応募開始、9月30日締切で、4000字以内のショートショートです。
よかったら、タロウさんもいかがですか?
授賞式に呼ばれれば、道後温泉につかれますよ?」
首を振るタロウ。
「だって、海外14か国からの参加も含めて9,900作も応募があったんでしょ?
それで、大賞が1編、入選が5編ですから、そりゃ、サマージャンボ宝くじですよ!」
首を振りながら寄ってくるカニの長老。
「バカなことを言っちゃいかんな。
選考は厳密で、抽選しとわけじゃないからの?」
頭をかくタロウ。
「で、タカシはどうしとったんじゃな?」
長老の質問に、銀太くんがページをめくる。
「えーと、なんと、ヤッホー・オークションに初参戦しました!」
「おおー!」と一同。
「以前からヤホオクに出品したかったらしいですが、この連休を利用して品物を整理し、これという1点を決めて、ついに出品したそうです」
「して、何を出したんじゃな?」
銀太くんの隣りの石に腰を下ろす長老。
「ヤマホのアルトサックスだそうです。
コズエさんには内緒ですが、タカシはサックスを6本持っていて、余り吹かなくなったヤマホの1本を、ついに出すことにしたんですね」
「6本!」
銀子ちゃんが叫ぶ。
「しー! コズエさんに聞こえたらどうするんじゃ。
それにしても、6本は多いの。
体はひとつ、口は1個しかないからの?」
笑い出す一同。
「長老の言うとおりです。
そうやって、少しずつ整理するといいんですよ」
タロウがうなずく。
「でも、夜中にボヤいてましたね。
やっぱり最初なんで、わからないことが多かった。
写真は10枚しかアップできないし、写真の次に入力する『商品名』の部分が後から変更できないんですね。
ほかは、後から変更や追記ができるんですけどね。
小説のタイトルと同じで、この『商品名』のところでアイキャッチしないといけない」
銀太くんの説明に頭を上下する一同。
「大変、大変よ!」
イソスジエビのスジコちゃんが走ってきた。
「銀太くんの話を聞いて、タカシが出したサックスとか見てたら、なんと、生き物も出品されてるのよね!」
「おおー」と一同。
「して、どんなのが出とるんじゃの?」
長老があごを撫でながら聞く。
「それが大変なのよ。
蟻とか、カエルとかも出てるけど、海水魚なんかも出てる」
つばを飲む一同。
「カニは、出とるか?」
「ある。2,178円」
「えー!」
のけぞる長老。
「イソギンチャクは?」と銀太くん。
「1,200円」
頬を膨らませる銀子ちゃん。
「イソスジエビは、あったかの?」
「50匹で1,800円。
頭きちゃった。
あたしは、そんな安い女じゃないわよ!」
そう言って長老をにらみつける。
「ダボハゼは?」
「さすがに、なかったわ」
笑顔がはじける一同。
小さな物音に一同が振り返ると、いつのまにかタカシが水槽の隣りに来ていて、手にしたメモ用紙の上のひとりひとりの名前の脇に値段を書いていた。(終わり)




