第34話 アメリカ建国250年
「7月4日が近づいてきました!」
ゴールデンウィークを間近かに控えた4月28日の午後、梅干イソギンチャクの銀太くんが水槽の真ん中で高らかに宣言した。
目をこすりながら岩陰から出て来るカニの長老。
「昼寝しておったのに、起こされてしもうたよ」
笑顔の銀太くん。
「あと2か月半です」
続々と集まる水槽の住人たち。
水面近くからスルスルと、ダボハゼのヨッシーが降りて来た。
「アメリカか。
なんか、関係あるんか?」
確かに、この水槽のメンバーがUSAと関係あるとは思えない。
梅干イソギンチャクの銀子ちゃんが、銀太くんの隣りで補足した。
「実は、タカシが、アメリカと浅からぬ縁があるそうです」
のけぞる一同。
「こんな、日本列島の盲腸部と言われている三浦半島の片田舎の、深井町の役場にいるタカシが、USAと深い関係があるのか?」
首を左に曲げるヨッシーに、首を上下する長老。
「そうなんじゃ。実は、浅からぬ縁がある」
全員の視線が集まる。
「またダボラじゃねえのか?」
ヨッシーにゲンコツで殴りかかる長老。
「話も聞かんうちから、茶化すでない。
実は、タカシは、アメリカに住む5つの家族に、毎年、クリスマスカードと日本のカレンダーを送っちょる」
「え~! 知らなかった!」
のけぞる一同。
「別に、われわれに報告することでも、ありゃせんからの。
しかし、事実じゃ。
もう30年近くになる」
改めて、深くうなずく一同。
「どうも、最初のきっかけは、1991年秋に空母インディペンデンスが横須賀を母港にしてからなんじゃ。
当時は今ほどセキュリティが厳しくなかったから、軍人の奥さんたちが小遣い稼ぎに英会話教室などを開いておった。
1ドル130円位のレートの時代じゃ。
缶ビールが1本1ドルせんかったから、授業料1時間1,000円でも、7~8ドル、缶ビール10本分になる。
アメリカと日本とで物価が違うから簡単には比較できんが、国内の肌感覚で、1時間英語を教えて2,500円位もらえる計算かの?
4人教えると1万円じゃ。
基地の外で教える者もいたり、基地の中で教える者もおった。
そこに若きタカシくんが通うようになった、ということなんじゃ」
「お~」
感心する一同。
「今のタカシからは想像もできねぇ」
睨む長老。
「で、タカシは、横須賀のアメリカ海軍基地の中のミセス・ジューンの家で英会話を習った。
家といっても、ヒマワリ・ハイツというマンションの1室じゃがの。
玄関がない。 ドアを開けるとすぐリビングで、廊下と段差がないんじゃ。
不思議じゃろ?」
メモを執り始める銀子ちゃん。
「ミセス・ジューンの旦那さんは、空母インディペンデンスの高級幹部だったから、基地の公開日でない、軍人の家族向けのイベントなんかに、タカシも誘われて参加したりした。
なんでも、空母に乗ってワンデイ・クルーズに行ったことがあるらしい。
相模湾のはるか南の海で、ジェット戦闘機がデモ飛行までしてくれた」
「お~!」
一同が拍手。
「タカシもジューン一家をお婆ちゃんのお茶会に誘ったりと、しばらく交流が続いた。
じゃが、軍人は3年位で転勤するのが普通じゃから、夫のジューンさんも本国勤務となり、引っ越していった。
でも、手紙のやりとりは続き、カレンダーのお返しにお菓子を送ってきたりと、その交流は今でも続いておる」
「見直しました」
カニのタロウが深くうなずく。
「それなら、タカシも、7月4日は特別な日になるわね?」
イソスジエビのスジコちゃんがつぶやいた。
その夜、家族が寝静まった頃、茶の間でタカシが、パソコンでネット配信映画を観ていた。
タイトルは『インデペンデンス・デイ』。
1996年の古い映画だけれど、宇宙人に地球が襲われて、アメリカ大統領や耳の大きなウィル・スミスが戦闘機乗りとして活躍するSF映画だ。
ビール片手に、ポテチをかじりながら観ている。
トイレに起きてきた長老が気がついて、ガラス壁の内側で一緒に観はじめた。
飲んだくれオヤジの戦闘機乗りが、最後のミサイル1発を抱えたまま宇宙船の主砲の発射口に突入して自爆する最後のシーンで、目元を拭っている。
小さな声でつぶやいた。
「30年経っても、地球の危機的状況は変わっとらんの。
それも、今は、地球外生物からの脅威じゃのうて、地球人同士の戦争じゃ。
人間の愚かさには、進化がないのぅ、、、」
いつの間にか、隣りにタロウがいる。
「今年の7月4日に、アメリカのMAGA大統領は、どんな演説をするんでしょうか?」
水槽の中で、腕を組んだまま顔を見合わせる2匹のカニ。(終わり)




