第33話 人より速く走るロボット
「ついに、ロボットが人間を超えたか」
4月20日、月曜日の朝、青木家の朝食の話題は人型ロボットのハーフマラソン大会のことだ。
タカシがハコちゃんに新聞の1面記事、力走する人型ロボットの写真を見せた。
ハコちゃんが持つお茶碗は姉のミドリさんのお下がりで、鉄腕アトムの妹のウランちゃんの絵が描かれている。
「中国の北京で、人型ロボットのハーフマラソン大会があってさ、タイムが50分26秒。
人間の世界記録、57分20秒を7分近く上回ったんだ」
自分の茶碗の上に納豆を落としながら言うと、コズエさんがスマホをいじりながらうなずいた。
「コンピュータが、チェスの世界チャンピオンに勝ったのが1997年。
コンピュータ、AIが将棋のプロ棋士に勝ったのが、2013年。
今じゃ、音楽も絵も、AIが作れるわね」
お茶碗を置くハコちゃん。
「あたし、ピアノ習う必要なくなる?」
笑い出すコズエさん。
「あなたがピアノを習うのは、あなた自身のためよ?
コンピュータがどんなに賢くなったって、あなたの代りするわけじゃない」
箸を口にくわえるハコちゃん。
「ほんとかな?」
タカシが参戦した。
「だって、じゃあ、AIが賢くなったからって、人間が勉強しなくていいってことにはならないだろ?」
「そりゃ、そうよ!」
親というものは、子供を学校に行かせて勉強させたい生き物らしい。
首を傾げるハコちゃん。
「パーマンのコピーロボットみたいに、あたしの代わりに勉強したり、加山先生のレッスン受けてくれれば、その間、あたし、ポッキーかじりながら漫画読めるんだけどな?」
笑い出すコズエさんだけれど、意外に、タカシが真剣な顔をした。
「お母さん、ハコちゃんが言うのもあながち間違ってないかもよ。
AIが学習した結果を人間の脳に返してくれれば、ヒトはより創造的な活動に時間と労力を割けるようになるかもしれない」
箸を置くコズエさん。
「わたしたちが夢と思っていたことが、ハコちゃんの世代では常識になってるのね。
考えるスタートラインが違うから、わたしたちが想像もできない未来が、ハコちゃんたちにはあるのね、きっと」
ガッツポーズのハコちゃん。
「よし。ピアノは、そんなに真剣にやらなくていいと」
「何言ってんのよ。8月に発表会、あるでしょ!」
ハコちゃんが、自分の頭をゲンコツで叩くまねをする。
青木家の朝食は、めずらしく大いに盛り上がった。
「いけね! 遅刻だ!」
台所の時計を見ると、8時を少し回っていた。(終わり)




