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第32話 孫の世話がボランテイア?

「あ~、よく寝た」

 2026年4月14日の午後、カニの長老が岩の後ろから両目をこすりながら出て来た。

 振り返る梅干イソギンチャクの銀太くん。

「長老、なに暢気(のんき)なこと言ってるんですか。

 電話が鳴りっぱなしでしたよ」

 慌てる長老。

「新聞部、どうかしたのか?」

「だって、この連載が1回空いたじゃないですか。

 読んでくれてる全国のお友達から、『なぜですか?』って、心配の電話ですよ」

 頭を下げる長老。

「そうそう、コズエさんから頼まれておった。申し訳ない。

 コズエさんはの、5年任期の非常勤職員をしておっての。

 この春が任用更新というか、再試験だったんじゃ。

 面接だけとはいいながら、落ちれば再就職先を探さんといかんし、心労があった。

 それに、ボランティアもしとるし、家のこともある。

 この『真説水槽爆笑物語』まで手が回らなかったそうじゃ。

 コズエさんに代り、わしから読者のお友達にはお詫びをする。

 申し訳なかった」

 頭をかく銀太くん。

「わかりました。いいですよ。

 コズエさんには、優しくしないといけませんね?」


「ところで、今週のニュースはどんなですか?」

 イソスジエビのスジコちゃんの小屋から、カニのタロウが伸びをしながら出て来た。

「ぼく的には、トランプ大統領によるホルムズ海峡の封鎖発言が一番ですね。

 イランによる海峡封鎖宣言と重ね合わせると、中東情勢がさらに混乱の度を深めるようにしか見えません」

 さすが新聞部だ。ホットな国際ニュースが出てくる。

 銀太くんが、右手で銀縁(ぎんぶち)の眼鏡をずり上げた。

「それもそうじゃが、個人的には宝塚市の高齢のご夫婦が市に254億円を寄付したという話じゃな。

 美談と受け止めるのが本来じゃろうが、しかし、わしらのような貧しい者から見ると、どこからその254億円が出て来たのか、そっちの方が気になる」

 小屋からイソスジエビのスジコちゃんが、両手を手ぬぐいで拭きながら出て来た。

「真っ当な、綺麗なお金に決まってるわよ。失礼ね!

 日本人には寄付文化がないって、昔から言われてるから、そういう面じゃ、日本人の面目躍如ってとこじゃないの?」

 うなずく銀太くん。

「しかしの、今、おぬしが『日本人には寄付文化がない』って言ったがの、ちと違わんか?

 日本には、ずっと昔から、お互いを助け合う文化と伝統がある。

 お金を出し合うのではのうて、力を出し合う、助け合う伝統じゃな」

 長老が右手で無精ひげをなでた。

 水槽の上からダボハゼのヨッシーがするすると下りてきた。

「そんなのはよ、世界中どこでもやってるさ。

 隣り近所の助け合いは、日本だけのもんじゃねーぜ」

 うなずく一同。

「そのとおりじゃ。

 おぬし、よく知っとるの?」

 胸を反るヨッシー。

「だがの、そもそもボランティアの定義や意味は、実は世界中で(ちご)うとる」

 皆が首を左に曲げる。

「たとえばの、スイスではお祖父(じい)ちゃんが自分の孫の世話をすることがボランティアになる。

 孫を世話した時間が国のボランティア統計に計上される。

 自発性や利他性を重んじとるからじゃな。」

 目を見開く一同。

「じゃろ?

 だが、日本人で、自分の孫を世話したからってボランティアをしたという者はおらん。

 最初から社会性があることを前提に考えとるからじゃな。

 しかし、ボランティアの定義が国により異なるのは仕方がない。

 国民の心の中にある価値観が異なるからじゃろうの?」

 銀太くんが取材用の野帳(やちょう)〔フィールドノート〕にメモしている。

「町内会の組長をしたり、皆で道路の草刈りをしたり、そうしたことをボランティアだとことさら言う者はおらん。当然のことと思っちょる。

 じゃから、日本人の場合は、お金でのうて、自分の時間や労力を寄付することを好むんだと考えんといかん。

 そうすれば、わしらのような貧乏人にもボランティアの余地は残る。

 社会貢献ができる、ちゅうわけじゃ」

 そう言って、長老がカラカラと笑った。


「じゃあよう。長老は、具体的にどんな社会貢献ができるって言うんだ?」

 ヨッシーが水槽の上から見下ろした。

「わしか?」

 首を左に曲げる長老。

「そうじゃな、、、。早くこの水槽から出ることかの?

 水槽の中が平和になる」

 ずっこける一同。

「そりゃそうだが、逆に長老がやってきた磯や浜じゃ、新しい社会問題を抱えることになっちゃうじゃねぇかよ!」

 一同の笑い声に囲まれて、目を丸くする長老。(終わり)

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