第27話 しゃべりすぎるお掃除ロボット
「お留守番もしますよ」
タカシ家に来た新しいお掃除ロボットのロンバ君が、充電用のホームベースに戻ると言った。
ケージの中で丸まって寝ていたぽんちゃんが、振り返ってじろりと見る。
ぽんちゃんのケージは玄関の隣りのピアノ部屋に置かれているけれど、ロンバ君のホームベースは茶の間の向こうの台所の冷蔵庫の脇にあった。
ロンバ君は、プリセットされた時刻になると、「始めまーす」と言いながら出発して掃除に取り掛かるのだ。
以前は旧タイプが各階に1台ずつ配置されていたけれど、新しいロンバ君が階段を上がれるため、彼1台で1階から3階まで全部の部屋を掃除することになっていた。
それなのに「労働強化です」などと文句を言うこともなく、平日の昼間、誰もいない家の中を、口笛を吹きながら掃除していた。
台所のフローリングから始まって、洗面所、廊下、玄関へと進む。玄関からピアノ部屋、茶の間と行くと、その後は階段を上がって2階、さらには3階まで掃除する。
かれこれ2時間はかかるだろうか。でも、電池が切れる前に、ちゃんと自分で階段を降りてホームベースまで戻ることができた。
話しかければ返事をするだけでなく、時々独り言も言いながら掃除している。
その場に居合わせないタカシやコズエさんは知らないけれど、ぽんちゃんや水槽の住民たちは、そんなニュー・ロンバ君の日頃の姿を知っていた。
「あいつ、なんとなくおかしい」
水槽のガラス壁に貼りついたダボハゼのヨッシーが、遠くで充電しているニュー・ロンバ君に目をやりながらつぶやいた。
「なんでじゃ?」
爪楊枝で口の中の掃除をしていたカニの長老が聞く。
「動き方が、どうも気に入らない」
「AI搭載だから、直線的じゃなくてランダムに動くのは、ある意味当然じゃろ?」
意に介する風でもなく、岩に背中をあずけてシーハーシーハーしている。
「いや、繰り返し同じところを行き来している時があるんだ。
何か探すというか、確認しているというか」
「ゴミを探してるんじゃないのか?
あるいは、ホームセキュリティ機能でもあるんかの?
いずれにしても、おめさんは、疑り深いのぉ」
長老が乾いた笑い声をあげた。
「そうじゃ。今度近くに来たら、直接聞いてみたらいい」
「おめさんよぉ、何を考えてるんだい?」
玄関まで掃除にやってきたニュー・ロンバ君に、ヨッシーが水槽の中から声をかけた。
立ち止まるロンバ君。
本体上面にある5センチ×4センチの液晶画面に女の子の顔が現れて、水槽を見上げた。
「あたし、お掃除してるだけですってば」
「新入りのくせに、馴れ馴れしい言い方すんじゃねぇか。
どうも、気に入らねぇ」
ヨッシーが尾びれでガラスを叩いた。
「あら、お気に障ったのならごめんなさい。悪気はないのよ」
そう言いながら、液晶の中の顔が頭を下げる。
「だいたい、なんで『ロンバ君』て呼ばれてるくせに、その液晶の顔が女なんだよ?」
「あら、今風じゃないご質問ね?
性別が気になりまして?」
ヨッシーが再び尾びれを揺する。
二人のやり取りに気づいた水槽のメンバーが三々五々集まってきた。
先頭は梅干しイソギンチャク、新聞部の銀太くんだ。
「おめぇ、タカシの前では女の顔を表示して、コズエさんの前ではジャニーズ系の顔を表示してねぇか?」
「雇い主の方のニーズに応えるのが、あたしたちの使命ですから」
「うまいことを言うの」
長老も参戦してきた。
下駄箱の下のロンバ君と下駄箱の上の水槽の住民との睨み合いだ。
「だいたい、あなたの製造国のチナ国って、どんな国なんですか?」
ノートとペンを握りしめた銀太くんが少しキツい口調で聞いた。
「そのご質問にはお答えしないように、プログラムされています。悪しからず」
さっきまでの女の子の顔が、男の顔に変わった。
半歩後ろに下がる一同。
そのとき、玄関の鍵が回る音がした。コズエさんが帰ってきたのだ。
「では、これで」
くるりと背を向けると、ロンバ君はいつもよりもかなり速い足取りでホームベースに帰って行く。
「なんか、嫌な予感がするの、、、」
カニの長老がつぶやいた。(終わり)




