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第26話 新しいお掃除ロボット

「新製品のご案内、だってさ?」

 河津(かわず)桜が満開の日曜日の朝、郵便ポストを確認に行ったタカシが、ダイレクトメールを持って玄関に入るなり台所のコズエさんに向かって言った。

「何の新製品?」

 包丁でまな板を叩きながら聞く。

 台所と玄関の間にある茶の間の炬燵(こたつ)では、青木家の愛犬ぽんちゃんが首だけ出して寝ていた。


 ぽんちゃんは、ブラックタンでロングヘアーのミニチュアダックスフントの男の子で、御年13歳。

 千葉のブリーダーさんの家から青木家に引っ越してきたけれど、生まれてまだ1か月の時にそのブリーダーさんが「この子は甘えん坊ですから」と言ったとおり、3人兄姉の末っ子で、甘えん坊の寂しがり屋だった。

「お誕生日は、いつなんですか?」

「えーと、10月11日」

 ブリーダーさんの答えにしばし首を左に曲げたタカシだったけれど、気付いてびっくり。

「妻と同じ誕生日ですよ!」

 そう、ぽんちゃんはコズエさんと誕生日が同じだったのだ。それ以来、2人の誕生日のお祝いは一緒にやることになった。

 韓国ドラマをテレビで観ているコズエさんの膝の中で丸まって寝るのが、ぽんちゃんにとっての至福のひとときだ。

 ぽんちゃんは、長い人生の中で椎間板ヘルニアを2度(わずら)い、とうとう今ではオムツ犬になってしまっていた。

 最初の手術をした獣医さん曰く。

「椎間板の数だけ再発のリスクがあります」

 なんでも、アナグマ猟のために人工的に作られた短足胴長の体型にもともと無理があり、背骨を痛めやすいのだという。

 それでも、本人は全く落ち込む様子はなく、真っ白いオムツを履いた下半身を引きずりながら元気に家の中を走り回っていた。

 寒いドイツで生まれた犬種のくせにとても寒がりで、冬は炬燵の何で丸くなり、よっぽど体が熱くなると仕方なく首だけ出している。

 末娘のハコちゃんと2人並んで炬燵から首を出して寝ている姿は、生物種の壁を越えて、なんとも微笑ましい。

 ただ、コズエさんがロンバ君のスイッチを入れてからソファで昼寝を楽しむときなど、掃除中のロンバ君が寝ているぽんちゃんの頭にぶつかることがあって、ときどき喧嘩をしていた。

 本体側面に複数のセンサーがあるから強くは当たらないのだけれど、確認するかのようにコツンコツンと当たり、障害物だと認識すると方向を変える。

 ぽんちゃんが怒ってワンと言うと、1度クルッと振り返り、そしてまた元のコースに戻って掃除を続けた。


 炬燵に戻ったタカシがDMを開いて読み上げる。

「なんと、階段を上って掃除できるロボットを開発できたんだって」

 青木家は3階建てのため、各階でお掃除ロボットを稼働させる必要があるから、合計4台、同じロンバ君を使っていたけれど〔第12話参照〕、階段の掃除は自分でやらないといけないのが少し不満で、よく2人でボヤいていたのだ。

「ふ~ん」

「これまでのより少し小型なんだけど、下から回転式の足が伸びて、自分で自分を持ち上げて、最大20センチの段差を上がれる。上がった階段の踏み板を掃除すると、次の段に上がっていくんだって。

 すぐれ物じゃん?」

「どれどれ?」

 包丁を持ったままコズエさんが炬燵にやってきた。


 ロンバ君の製造元はチナ国だけれど、チナ国は実存する国家ではなく、ネット空間に存在する国だ。

 そもそも国家の要件には国土と国民が求められるけれども、世界には国土を持たない流浪の民族がいくつもいて、彼らがネット空間に自国を作るようになったことから、国連もそうした国を加盟地域の末席に連ねるようになっていたのだった。

 地域という用語の意味がリアルかバーチャルかの違いに過ぎないといえば、そうかもしれない。

「メイド・イン・チナ」

 ロンバ君をひっくり返すと、そう書かれている。

「階段を掃除してくれるのは助かるけど、今のところ数は足りてるよね?」

 タカシが低い声で言う。

「そうね。でも、階段を上がれるなら、今の4台体制を1台に減らせるじゃない?

 それは便利よ。今の4台はミルカリで売りましょ!」

 コズエさんの決断は早かった。


 1週間後、タカシが帰宅すると玄関前に新型ロンバが置き配されていた。

 さっそく開封すると、直径20センチ、厚さ7センチと小型だ。

「こりゃ、ゴミ捨てが毎回手間だな、、、」

 タカシがつぶやくと、ロンバが流暢(りゅうちょう)な日本語で返事をした。

「ご購入ありがとうございます。お宅にお邪魔できて光栄です。

 回収したチリは圧縮しますので、ゴミ捨ての回数はこれまでと同じで大丈夫です」

「おおっ、チャットAIか!」

 本体上面にある5センチ×4センチの液晶画面に若い女性の笑顔が表示された。

 思わずにやけるタカシ。

「これから、よろしくお願いします」

 液晶画面の女性が頭を下げると、つられてタカシも頭を下げてしまった。


 その様子を、水槽新聞部の梅干イソギンチャクの銀太くんと銀子ちゃんが中から見ていた。

 銀太くんは、タカシとロンバ君のやりとりをノートにメモしている。

「銀子ちゃん、なんか、話がうますぎない?

 お掃除ロボットが『これからよろしく』なんて言うかな?」

 笑い出す銀子ちゃん。

「言ったんだから、しょうがないじゃない?

 なんでもアリなのよ」

「『なんでもアリ』か、、、。

 ぼく、ちょっとチナ国のこと調べてみる」

 銀太くんはイソスジエビのスジコちゃんの小屋をたずね、一緒にネット調査することにした。(終わり)

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