第24話 激変の毎日
「今週のトップニュースはどれでしょうね?」
2月10日、火曜日の昼間、水槽新聞部の3人が集まって話している。
「ぼくはオリンピックですね。ミラノ・コルティナ五輪。
リク・リュウさんペアのスケートは素晴らしかった。
スロートリプルルッツなんて、氷の向こうにリクさんの体を回転させながら放り投げるんですよ!
それでも、リクさんがちゃんと着氷する!」
梅干イソギンチャクの銀太くんの目がウルウルしている。
「ぼくも感動したよ。
これまでケガもたくさんあったし、決して平坦な道じゃなかった。
スポーツ選手からは、本当に勇気をもらえる」
うなずくカニのタロウ。
「あたしは、イングランド女子サッカーかな?
世界最高峰の女子リーグ、FA女子スーパーリーグのマンチェスター・シテイ。
15試合やって13勝のダントツトップですよ。
その中に日本人選手が何人もいる。特に、中心選手の長谷川由さん」
梅干イソギンチャクの銀子ちゃんの息が荒い。
「今、日本人選手でバロンドールやFIFA最優秀選手賞に一番近い人だね?」
タロウも知ってる。
「由さんもすごいんですけど、あたしが密かに応援しているのは、キーパーの山下さやかさん。
正キーパーの椅子をイングランド女子サッカー代表選手と争ってるの。
相手フォワードと1対1になったときに前に出て行ける勇気は、本当にスゴイ。
そして、それを止めちゃうのよ!」
スジコちゃんの鼻息が続く。
「おれは、ウィングの藤野わかばちゃんだな」
水槽の壁の上にいたダボハゼのヨッシーが参戦してきた。
「ヨッシーさんも、サッカー好きなんですか?」
タロウが上を向いて聞く。
「おれは、足がないけど、サッカーは好きなんだ。
1968年、日本がメキシコオリンピックで3位になったとき、亀本選手が得点王になったけど、その亀本にラストパスを送ったのが名左ウィングの杉川なんだ。
ちょっと前のインテルにいた長元ユートのイメージ」
うなずく一同
「わかばちゃんの、右サイドからペナルティエリア内に鋭く切り込んでいくドリブル。あれは、スゴイ。
でもね、こないだ、それでディフェンダーの体にひっかかって転倒して脳しんとう起こしちゃった。
せっかくケガから復帰したばかりの試合だったのに、そこでまた退場になっちゃった。
残念!」
そう言いながら胸びれでこぶしを握る。
「サッカーといえば、カジさんを忘れちゃいけませんよね?」
自分のメモを見ながらタロウが言う。
「そうだ。三浦カジさんはさ、もうすぐ59歳で、現役のJリーガーなんだぜ?
9日の福島の試合にスタメンで出た。頭なんか、半分白い。
でも、カジさんはカジさんなんだよ。誰も超えられない。
日本のJリーグの基礎を作った人のひとりさ」
水槽の壁をスルスルと降りてきた。
「Jリーグが始まったとき、東京グリーンに所属して、ラメス・瑠偉とか加藤九ちゃんとかと一緒に活躍した。
九ちゃんは、早稲田大学の助教授をしながらプロ選手をやってたんだぜ?」
「おめさん、昔のことに妙に詳しいのぉ?」
岩陰からカニの長老が出て来た。
「YourTubeで何でも見れるさ」
「そりゃ、そうだ」
長老は手にラジオを持ち、耳にイヤホンを差している。
険しい顔をするタロウ。
「長老、また株ですか?」
あわててイヤホンを耳からはずす長老。
「しょうがない。株価が上っちょる」
「長老の一番のニュースは、衆議院選挙ですね?」
銀太くんが長老を指差す。
「サナエ・ソーリが勝利すると株価が8万円まで上がるなどとうそぶく週刊誌もおったが、さっそく57,300円まであがった。前日より3,000円も高い。
史上最高値じゃ」
イソスジエビのスジコちゃんが小屋から顔を出した。
「長老がどの政党に投票したか聞かないけど、本当にそれでイイの?
『日本の将来はどうなっちゃうの?』っていうのが、あたしの実感。
投票率が少し上がったっていったって、しょせん56パーセント。
大勝利したと報道されている民自党に投票した人は、有権者全体でみれば、比例で5人に1人に過ぎない。
そんな得票で、小選挙区も入れれば議席の3分の2がとれちゃう。おかしくない?」
スジコちゃんはご立腹のようだ。
「おぬしが言うとることは事実じゃが、選挙結果もまた、事実じゃ」
長老が胸を張る。
「文句があるなら、投票に行けばいいんじゃ」
「サッカーでもやるの?」
両目をこすりながら、マメコブシガニのマメコちゃんが岩陰から現れた。
「昼寝をしておったな?」
長老の指摘に、顔を赤らめるマメコちゃん。
「そうだな、ポジションからすれば、マメコはフォワードだな」
ヨッシーが力強く言う。
「わしじゃ、ダメか?」
「長老は右ウィングでタロウが左ウィング。で、マメコがセンターフォワード。
だってよ、ウィングの2人は横に蹴るのが得意で、マメコは前にしか蹴れねぇだろ?」
ヨッシーが言うように、マメコブシガニのマメコちゃんは前にしか歩けない(第3話参照)。
手を叩く一同。
「そのとおりですね!」とタロウが関心する。
「おれが監督で、スジコちゃんがトップ下。タロウが中盤の底で、センターバックは銀太と銀子」
「おおっ、たいしたメンバーじゃ。
で、対戦相手はだれじゃ?」
目を見交わす一同。
遠くでカラスの鳴き声がした。(終わり)




