第19話 今年の抱負
「新年明けまして、おめでとうございます!」
朝食前の時間、梅干イソギンチャクの銀子ちゃんと銀太くんが、そろって声をあげた。
目をこすりながら小屋から出て来るイソスジエビのスジコちゃん。
「まあ、朝から元気ね?」とあくびをする。
「いやぁ、おめでとう。早起きは三文の徳じゃ」
カニの長老が腰を右手の拳で叩きながら石の陰から出て来た。
「何か、新年のニュースはあるかの?」
「たくさんあります!」
銀太くんが言うと、銀子ちゃんが続けた。
2人は水槽新聞部の部員なので、日頃からニュースを集めている。
「とんでもない事件が起きました。現地時間1月3日、土曜日の未明、アメリカが中米ベネズエラに乗り込んで、ニコラス・マドゥロ大統領と奥様を拉致して連れ去っちゃったんです。
近々、彼の麻薬取引に関する裁判が始まるようです」
のけぞる一同。
「北朝鮮以上じゃな?
とんでもない」
「いくら麻薬取引疑惑がある人物だからといって、他国に直接乗り込んで国家元首を拉致するなんて、国際法を蹂躙する許されない行為です!」
後から起きてきたカニのタロウが皆の後ろから声を掛けた。
「大統領警護隊が全滅だったみたいじゃねぇか。気の毒で仕方がねぇ」
そう言うのはダボハゼのヨッシーだ。
「まあ、この話はこれからも続くじゃろ。国連の対応もこれからじゃ。
もっと身近な話題は、ないのかの?」
顎の無精髭をなでる長老。
「そういえば、青木家のメンバーが久しぶりに集まって、元旦に今年の抱負を語り合ってました」
「おお、今年の抱負か? どうじゃ、わしらも語り合わんか?」
「あたしは、歌の練習かな? MHKの赤白うたバトルに、いつか出たいの」
とマメコブシガニのマメ子ちゃん。
「おお、出れる出れる。マメ子ちゃんなら石河さゆりさんの『浦賀海峡・夏景色』がぴったりじゃ」
2度3度と跳ねながらガッツポーズのマメ子ちゃん。
マメ子ちゃんの得意はコブシ演歌だ。
「ぼくは、囲碁ですかね。ちょっと興味がわいて、勉強し始めたんです。
将棋みたいな鋭い攻防というよりも、ゆっくりじわりと戦略を練る囲碁の方が、なんとなく自分の性格に合ってると思うんですよね。
よかったら、長老にお相手していただけるとうれしいです」
「するする。よし、タカシに碁盤を用意してもらおう。石は黒ゴマと白ゴマじゃ。
取った石のゴマはおやつに食べれるし、地合の計算はボケ防止にもなる。
わかった、囲碁じゃな? 以後、よろしく」
ヨッシーがガラス壁を下りてきた。
「これですよ、これ。今年もこの長老のダボラと駄洒落で始まるわけだ」
頭をかく長老。
「おれはね。おれは、麻雀かな?
最近子供の間でも流行っていて、昔やってたドンジャラの延長線でイケる」
「牌を揃えるのが、ひと苦労じゃな? 失敗せんようにな?」
真っ赤になって腹ビレを振り上げるヨッシー。
「まあまあ、ヨッシーさんも押えて、押えて。
スジコさんは?」
タロウが合いの手を入れた。
「あたしの今年の抱負は、どこか旅行に行きたいかな?
タカシに山中湖に連れて行ってもらって湖で泳ぐとか、みんなでテニスをするとか。
コズエさんの故郷の新潟に行って日本海で泳ぐとかも、いいわね」
「それ、いいの! 日本海か。一度行ってみたい」と長老。
「ぼくたちは、東の海からのぼる朝日を見たことはありますが、西の海に沈む夕日を見たことがありませんよね?
それ、今年の目標にぴったりですね!」
大きな声でタロウが賛同した。
「おれ、佐渡金山での金鉱堀りに目標変更すんべっ、と。
ジェットフォイルで1時間半。世界遺産・佐渡金山で金をしこたまゲット!
金価格、上昇中だぜ!」
「今年の抱負が、たくさん出ましたね」
よろこぶ銀太くんと銀子ちゃん。
「今年の抱負が、豊富に出たということで、お開きでよいかの? お腹が空いたわい」
ずっこける一同。(終わり)




