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第18話 コズエさんの小説

「なんだか、わかんなくなっちゃったのよね、、、」

 年末の30日、玄関の掃除をしていたコズエさんが水槽の前で手を休めている。

 右手の人差し指でガラス壁の内側に貼り付いたダボハゼのヨッシーのお腹を撫でながら独り言を言いはじめた。

 コズエさんの指の温かさがガラスを通して伝わってくるのか、ヨッシーもそのまま動かずにいた。

「FALESに毎週投稿しててもさ、ハートマークは付かないし、PVも増えないしさ。

 だって、投稿してもサイトの画面に紹介されるのはほんの一瞬でさ、あっという間に見えなくなっちゃう。

 日本って、どうしてあんなに小説を書くのが好きな人がたくさんいるのかしら。

 ヒマなの?

 便利になったから?

 確かに電車やバスの中で、ちょっとした時間に書いてアップできるから、いつでも、誰でも、書けるわよね。

 わたしみたいに机の上で書くのは時代遅れなのかしら」

 水槽のガラス天井の左端に置かれた揚水モーターの乾いた回転音だけが聞こえる。

「坊ちゃん文学賞だって、まるで宝くじよね。9,900分の1よ? ちょっと多過ぎない?

 小説近代長編新人賞なんか、応募は812作なのに。

 宝くじが当たるのが早いか入選するのが早いか、絶対入選だと思って書いてるけど、毎回ダメだとね、、、。

 おまけに宝くじも当たらないし、もう!

 坊ちゃん文学賞は、松山市の友達から言われるから仕方なく投稿してるところもあるけど、、、」

 ヨッシーが尾鰭を1回振った。

「でも、今回は、ちょっと自信があるのよ?

 出来は悪くない。ちゃんと感動して涙も流せる。笑うかもしれないけど、書きながら自分で泣いちゃうんだから。それ位、イイ出来だったのよ。

 これ以上のものは、今のわたしには書けない。

 でも、それで入選しなかったら、どうすればいいって言うの?

 あなたに聞いてもダメよね、、、」

 そう言ってヨッシーのお腹を指で優しく叩くと、ヨッシーが尾鰭を2回振った。

「あら、わたしの愚痴を聞いてくれてたの? ありがとね、、、。

 あ、そうか! あなたたちのことを物語に書けばいいのか?」

 ヨッシーが、ガラスの上でくるりと回転した。

「まあ、あなたもそう思うの?」

 ますます尾を振るヨッシー。

 コズエさんが水槽の中に目をやると、底の真ん中でカニの長老とマメコブシガニのマメ子ちゃんが肩を組んで、両手のハサミを振っている。

 カニのタロウが、水面の上に頭を出した石から勢いよく飛び込んで、得意の泳ぎを見せた。

 小屋から顔を出したイソスジエビのスジコちゃんが、小さなハサミでVサインを出している。

 右側の還流水が落ちてくるパイプの下では、梅干イソギンチャクの銀太くんと銀子ちゃんの二人が、リズムに合わせて体を左右に揺すっている。二人の頭の触手が歌うように水になびく。

「まあ、みんなありがとう。わたしのことを慰めてくれてるのね?」

 両目を拭うコズエさん。


「あっ、いけない。今夜、ミドリが帰ってくるんだった。お部屋の掃除しなくちゃ」

 二階に向かって階段を駆け上がる。

 はたして、コズエさんが書く「真説水槽爆笑物語」はウケるのか? (終わり)

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