第15話 青森東方沖地震
「いやぁ、びっくりしたのぉ」
12月9日、朝食にはまだ早いけれど、起きてきたカニの長老が開口一番、地震の話をした。
「青森県で震度6強ですから。
ここ深井町でも震度2ですね」
「さすが、新聞部。素早い取材じゃ」
水槽新聞部員・梅干イソギンチャクの銀太くんの解説に、うなずく長老。
「2011年の東北地方太平洋沖地震の余震ということなんでしょうね。
気象庁と内閣府が記者会見を開いて、北海道から三陸沖にかけて別の大規模な地震がおきる可能性が普段より高まっていると、北海道・三陸沖後発地震注意情報を初めて発表したそうです」
「夜中に目が覚めましたよ。
日本列島は島国ですから、地震と津波をセットと考えないといけなので、大変ですね」
目をこすりながら、カニのタロウが寄ってくる。
「ぼくの取材によると、ここは海抜4.5メートルみたいですよ。
もう100年も前になりますが、関東大震災のときに、ここにもそれ位の津波が来たようです」
のけぞる一同。
「じゃあ、ここもダメかの?」
うなずく銀太くん。
「この家は3階建てなので、29年前の建築当時、7メートル下の岩盤に21本のパイルを打ち込んでから基礎を作ったとかで、液状化には強いようですが、さすがに津波には勝てないですね。1階が浸水します」
「そうかの、、、」
一瞬うなだれた長老が、ハッと顔を上げる。
「ちょっと待て。
ということは、その時は、この水槽から逃げられるな?」
水槽のガラス壁の上からダボハゼのヨッシーの怒鳴り声が響いた。
「また、長老の失言かよ!
言っていいことと悪いことがあるぜ。
曲がりなりにも世話になっている世帯主たちに対して、その不幸を願うような、そんな失礼な、義理も人情もないようなヤツがこの水槽の中にいるなんて、オレは信じられない」
刺すような周囲の視線に目を覆う長老。
「失礼した。申し訳ない。反省する。
つい、口がすべった」
「すべるのは、駄洒落だけにしてくださいよ?」
イソスジエビのスジコちゃんが助け船をだした。
右手のハサミで頭を叩くマネをする長老。
「それにしても、その時は、青木家はどうなるんでしょうねぇ?」
落ち着いた声で、改めてスジコちゃんが質問する。
「皆さんもご存知のとおり、この水槽の向かいのクローゼットの中に、コズエさんが緊急避難用のリュックサックを2つ用意しています。時々中を開けて、乾パンとかペットボトルの水とか入れ替えてますね」
「さすが、コズエさんじゃの。タカシにはできない、、、」
またヨッシーに睨まれて顔を伏せる長老。
「町内会の回覧板によると、タカシが勤める町役場の隣りにある深井小学校と中学校が緊急避難場所になっていて、そこに避難するようです。海抜35メートルはありますから、ここは大丈夫ですね」
手元のノートを見ながら説明する銀太くん。
「9月に、タカシを誘って避難所までの避難練習をしてました」
うなずく一同。
「ポンちゃんも、連れていくんでしょうねぇ?」
スジコちゃんが心配そうに言う。
ポンちゃんは、青木家の飼い犬のミニチュアダックスフントだ。
うなずく銀太くん。
「さて。
となると、残されたわしらはどうなるんじゃ?」
「えっ?」という顔の銀太くん。顔を見交わす一同。
しばしの沈黙の後、スジコちゃんが脇を向いて小さな声でつぶやいた。
「あたしも、小屋〔第7話参照〕の中に自分の非常食糧を備蓄しとこっと、、、」
ガラス壁の上からヨッシーの悲痛な叫びがした。
「それはねえんじゃねぇか? スジコちゃ~ん!」(終わり)




