異世界探索の準備をする
その日の夜、私たちは千佳のラボに設置されたモニターの前にちょこんと座っていた。
千佳の申請により、ラボは異世界側の探索拠点と通信が繋がっている。
「こういうときは仕事早いな、ダンジョン庁!?」
などと千佳が驚いていたのが印象的だった。
『レイナちゃんが、本当に異世界に来るんですか?』
『始祖の探索者の中で、異世界探索反対派だとお聞きしていました……』
「レジェンド……、なに?」
大げさに驚く異世界の探索者を見て、私は目を丸くする。
なんでも最初にアメリカダンジョンを攻略し、異世界へのゲートを切り開いた探索者たちは、畏敬の念をこめてそう呼ばれているらしかった。
(貪欲なる捕食者よりはマシかな……)
ダンジョン探索者たちは、どうして中二っぽい肩書きをつけたがるのだろう。
凍りつく私に、異世界の探索者たちの視線が向けられる。
「はい! しばらくは異世界を探索予定です!」
『『『おぉ!!!』』』
俄然、沸き立つ異世界の探索者たち。
「すべては異世界グルメのために!」
『さすがはレイナちゃん、ブレない!』
『それでこそレイナちゃん……』
『え? 異世界に居るだけで生レイナちゃんを見られるの!?』
『古参の食材だ! 囲め~!』
なんでも異世界探索者の大半は、私の配信を見てくれているようで。
それから探索者たちは、異世界の風景をモニターに映し出す。
ちなみに異世界でも、電波が通っているらしかった。
ダンジョンマスターであるおもちくんいわく、電波を通すというのはダンジョンを盛り上げるために必要なダンジョン構築の必須スキルらしく、その延長にある技術として魔法で再現しているらしかった。
魔法──異世界、すごい。
『現状を共有します』
モニターに映る探索者が、地図を広げた。
『現在、ゲートのすぐ傍に拠点を構築しています。ただ少しでもゲートを離れると瘴気が濃くなってしまい、なかなか探索は進んでいません』
『辛うじて現地の村と接触ができたぐらいですね。モンスター自体は、この世界のダンジョンで言うなら中層から下層レベルが中心です。ただし瘴気のせいで厄介さが跳ね上がってる感じです』
「なるほど……」
私は真剣に頷く。
千佳からも聞いていたとおり、とにかく瘴気の存在が厄介なようだ。
「ところで、村の特産品ってなんですか?」
『えっ?』
「異世界みたらしが美味しいって聞いたんですが──」
あと、マインちゃんイチオシのスライムアイスも。
私が興味津々で聞くと、
『食文化は、あまり発展していませんね……』
『でも採れる食材はどれも一級品です。レイナちゃんも気に入るかなと!』
『異世界でも食にこだわる。これがレイナちゃんのもとに集いし「食材」たる者の使命っ!』
(なんだか変なテンションの人がいる!?)
そうちょっぴり引きつつも、興味はどんどん異世界でのグルメ旅へ。
「なるほど。楽しみです!」
「ほんまブレへんな……」
トントン拍子に話が進み、千佳が呆れたようにため息をつくのだった。
***
そうして準備は、慌ただしく整えられていった。
現在、異世界へと繋がるゲートが存在するのは、アメリカダンジョンのみ。
まずはアメリカまで飛び、そこから異世界へ向かう必要があるらしい。
(国内にもゲートがほしいですね……)
もっとも異世界と地球を繋ぐようなゲートなんて、ほしいと思ったらすぐにできるというものでもないのだろうけど。
私は深く考えず、千佳に協力してもらい、そのまま一人で旅立つ気でいた。
──そのつもりだったのだけど。
千佳のラボに、見知った探索者たちの集団が現れた。
ミライちゃん、長田さん、豪腕さん、軍曹──この前のブートキャンプで同じだった探索者たちの集団だった。
「レイナ様の一番弟子として! このままレイナ様だけを行かせるわけにはいかないッス!」
先頭に立つミライちゃんが、やけに気合いの入った様子でそんなことを言い出した!
ぐっと拳を握りしめ、やる気満々の顔でこちらを見ている。
「異世界グルメ、気になるッス! それに、向こうって瘴気がやばいんスよね? だったらレイナ様のそばに居られる人が多い方がいいじゃないッスか!」
「ミライちゃん……!」
「いや、食い意地でついて行くのを美談っぽくまとめんでもろて」
千佳が冷静に突っ込むが、私とミライちゃんは似たもの同士。
それにミライちゃんの瞳は、口調とは裏腹に真剣なもので──
「今回は俺も行かせてもらおう。ダンジョンイーターズの食を守るものとして、やはり異世界グルメをこの目に焼き付けておく必要があるからな」
続いて静かに口を開いたのは、豪腕さんだった。
「豪腕さん! 豪腕さんも、異世界のグルメをそこまで……!」
「ああ。もう、それでいいさ──」
複雑そうな顔の豪腕さん。
更にその隣に立つ軍曹も、
「ふむ。ついにレイナが異世界に乗り込む、か。これは時代の転換点になる」
「軍曹ったら、大げさですよ」
「是非とも異世界で暴れまわるレイナを撮影して、学園のパンフレットに載せれば──宣伝効果、間違いなし!」
「まさかの悪い大人だった!」
にやりと笑う軍曹。
その表情は、経験豊富な引率者というよりは、ただ探索にワクワクする一探索者のものに見えた。
「私も同行を希望します」
さらに軍曹に続いて、長田さんもそう口を開く。
「ブートキャンプで理解しました──未知の環境に適応するには、結局、実地で経験を積むのが最短です」
「な、なるほど……」
「アルテマメモリーズを率いる立場としても、今回の探索は見過ごせません」
そう、きっぱりと言い切った。
(異世界の探索。千佳も言ってたけど危険な場所だよね)
(だけども皆、こうして本気なんだ。なら止めるのも野暮だよね──)
なら私にできるのは、この新たな探索を楽しい物にすることだけだ。
いつも通りの私で、異世界からも楽しい癒やしをお届けする。
「分かりました、皆さんお願いします!」
そうしてダンジョンイーターズを中心としたメンバーは、異世界探索に踏み切ることになった。




