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【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう《書籍化&コミカライズ》  作者: アトハ
6章

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レイナちゃん式ブートキャンプ(3)

 その後も、訓練は順調に進んだ。

 ──と言いたいところだったが、ひとつだけ予定外のことがあった。


「…………っ!」


 ある角を曲がったとき、ゆきのん先輩の足が止まった。

 コーナーの先に、何かが居る。

 ぬめりのある翼。腐敗した鎧のような外皮。

 ドラゴンゾンビだ。


"出た!"

"そうか、こいつ深層のモンスターだもんね"

"あー! レイナちゃんをバズらせた例のやつか!"

"ゆきのん、大丈夫?"


「……ゆきのん先輩、大丈夫ですか?」


 イレギュラーとして遭遇したときの記憶は、すっかりトラウマになっている──以前の雑談配信で、ゆきのん先輩はそんなことを言っていたと思う。

 思わぬモンスターとの対面に、私は心配になってそう声をかけるが、


「……そうだね。でも大丈夫」


 ゆきのん先輩は、そう不敵に笑うと、


「ねえ、私が戦ってみていい?」


 そう確認してきた。


"ゆきのん大丈夫?"

"恐怖で判断おかしくなってるんじゃ・・・?"

"でも深層のモンスター相手でも、普通に戦えてたしいけるかも?"

"ゆきのん、やっぱり探索者としても一流"


「……分かりました」


 探索者である以上、こいつだけは自分で倒すという相手は多かれ少なかれあるものだ。

 私にとってはブルーマスカットとデュラハンがそうだろう。

 憧れのゆきのん先輩が、自分だけでやりたいといってるのなら私がやるべきことは──


「分かりました、ゆきのん先輩! 後ろは任せてください!」

「うん!」


 そう自信を覗かせ頷くゆきのん先輩。

 一方、マインちゃんが、さらりと呪術の印を組む。

 ドラゴンゾンビの弱点属性を、ゆきのん先輩の得物に付与したのだ。


「ん、この方が効率的」

「ありがとう!」


 ゆきのん先輩が、一歩前に出た。

 静かに剣を構える。


「いつかの敵……、取らせてもらうよ!」


 ゆきのん先輩が、真っ直ぐにドラゴンゾンビを睨みつける。

 ドラゴンゾンビも殺意満々といった様子で、赤く濁った目がゆきのん先輩を睨みつけた。


"おぉおおおおお!?"

"え、本当に大丈夫なの?"

"いざとなったらレイナちゃんが居るとはいえ……"


 そんな食材さんたちの心配をよそに、ゆきのん先輩は気合の入った踏み込みと共にドラゴン・ゾンビに剣を叩きつけ……、


「ハァっ!」


 一撃で、ドラゴンゾンビの翼を根元から叩き斬った。

 続いて体制を崩したところに二撃、三撃。

 一瞬の攻防の後、次の瞬間、目の前には、なますぎりにされたドラゴンゾンビの死体が転がっていた。


「……倒した!」

「やりましたね、ゆきのん先輩!!」


"ゆきのんやったああ!!"

"鬼神のごとき強さで草"

"なんか普通に感動してる"


 その後、ドラゴンゾンビを焼き払うゆきのん先輩を見ながら、


「あれ、食べないんですか?」

「食べないよ!!」


"平常運転すぎる"

"ゆきのんのツッコミが冴えてる"


(やっぱり、どう頑張っても食べられないよね……)


 私の素朴な疑問に、そんな突っ込みを返しながら──ゆきのん先輩は、宿敵とも言える相手を討伐したことで、確かな自信を手に入れたようで。


「うん、私はやれる。……参加して良かった」

「そう言ってもらえて良かったです!」


 私たちは、にこりと笑い合うのだった。


***


 訓練を終え、私たちはダンジョン深層の入口前の広場に戻ってきていた。

 参加者たちは、それぞれ達成感と疲労感が入り混じった顔をしている。


「おつかれさまでした~! いうことで、締めに何か食べましょう!」


"平常運転"

"急に食欲に戻るw"

"やっぱりこれがレイナちゃんだよなあ……"

"締め(トレーニング)"


「そう言うと思ったさ。今日採った素材でいいか? …………なあ、本当にデュラハンまで食べるつもりなのか?」

「美味しいデュラハン料理、私は諦めません!」


 豪腕さんが、大きなため息とともにハコベールから食材を取り出していく。


"いや待って!?"

"デュラハンまるかじりは、このチャンネルの代名詞にもなってるけど真似はできないってw"

"《鈴木千佳》ちなみにカフェのチャレンジメニュー候補らしいで"


 並んだのは三種類の料理だ。

 今日の探索で採ってきた素材を使った普通の料理。

 耐性のために用意した毒料理。

 そして端の方で独特のオーラを放つデュラハン鍋。

 豪腕さんが一言「チャレンジは自己責任で」と言い残して、黙って腕を組んだ。


「あっちも美味しそう!」

「これ、毒耐性がないと食べられないやつですよね?」


 並べられた料理を見ながら、一般参加の食材さんたちがヒソヒソとささやきあう。

 すっかり参加者同士で打ち解けたみたいだ。


「今日でだいぶ耐性がついたので、みなさんも大丈夫なはずです! 一緒に食べましょう!」

「あ、レイナちゃん! はい、勿論いただきます!!」


"まさか推しに誘われて断るやつなんていねえよな!"

"毒ごときに日和ってるやつおる?"

"うわあああ~~~ 次こそは参加資格を得るんだ~~!!"


 なぜか絶叫があがるコメント欄をよそに、私はパクパクと料理を口に運ぶ。

 やっぱり豪腕さんの料理は美味しいのだ。


「一応、こっちには毒がない料理もあります。毒のないダンジョン料理なんて、麺のないうどんみたいなもんだと思いますけどね」

「なら一番いい毒をもらおう」

「軍曹~!?」


 気がつけば軍曹が、六毒に挑戦していた。

 豪腕さんが止める間もなく口に運び──そのまま轟沈。


"一番いい毒をもらおう(即死)"

"逝ったぁぁあああ!"

"こんな綺麗な死亡フラグある?"

"カフェが最前線にある理由、分かったな。たどり着けるぐらいの腕がないと、まじで食べれるものもないんだわ・・・"


 豪腕さんが、無言で解毒剤を押しつけた。

 軍曹は起き上がり、何も言わずにまた鍋に手を伸ばす。


「わ、私だって六毒行きます!」

「やめとけ長田、これは漢の意地だ!」

「引退したお年寄りはすっこんどいてください!」


"学習しないww"

"これは泣く子も黙る鬼教官"

"もう勝手にしてもろて()"


 ──凄まじい勢いで減っていく解毒剤。

 カオスだった。


 一方、肩に乗っかったおもちくんは、ぷるんぷるんと鍋の方を向いて、


「シンジュク、ダンジョン、タノシイ?」


 なぜか、そんなことを真剣な表情で聞いてきた。


「オイシイ、ダンジョンナラ、ホカニモ、アルヨネ?」

(たしかに函館ダンジョンも美味しかったし、全国の御当地ダンジョンも気になるけど──)

「やっぱり私にとって、このダンジョンは特別なんです! 猛毒も、食べづらい深層のクソボスも、ときどき出会う美味しい新イレギュラーだって──いつもワクワクさせてくれます。きっと、このダンジョンを作った人は神さまだと思うんです!」

「ナ、ナルホド……」


 ぷるんぷるんと震えるおもちくん。

 一体、どうしたのだろう?


"おもちくん?"

"なにか迷ってる?"

"おもちくん、やっぱり黒幕かなにかでしょw"

"今日も生存確認&完食回避!"


 そうして、ブートキャンプの夜は更けていくのだった。

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