レイナ、北海道で食材を探す(2)
その後も、テキパキと準備を進めるゆきのん先輩と、味見係に徹する私。
「じゃ~ん、完成!」
そうしてついに、今日のメインディッシュである鍋が完成した。
「待ってました!」
"食レポ! 食レポ!"
"たまにはレイナちゃんのちゃんとした食レポが見たい!"
"いつものほっぺた落とすやつじゃなくてww"
「むっ、食材さんたち私のことをなんだと思ってるんですか!」
私は思わずムキになり、
「今日こそでは! ちゃんとした食レポ、やってみますね!!」
私は意気込んで、カニの脚をぱくりとかぶりついた。
「──!」
ぱっと目を見開く。
ゆきのん先輩の言うとおり、新鮮なモンスターたちは臭みが一切なく、スープのうまみとも絡み合っている。
「すごく美味しいです! え~っと、出汁がよく効いてて、え~っと、え~~~っと? エビとカニの味がして美味しいです!」
"情報量なんも増えてないw"
"【朗報】エビとカニを食べたら、エビとカニの味がするらしい"
"まあこの子、普段はデュラハンまるかじりしてるから・・・"
"食レポ頑張ってw カフェ開くんだよね!?"
「確かに!」
私の食レポによって、カフェにくるお客さんの数が変わるかもしれない!
私は、もう一口だけ鍋の中味のお魚を口に運び……、
「あの……、ものすごく美味しいんです。でも……」
"もしかして"
"あっ"
"レイナちゃんのそのリアクション、見たことある気がする"
「ちょっとだけ、いつものダンジョン料理よりパンチが足りないかも?」
"パ・ン・チ・が・足・り・な・い!"
"パンチ(毒)"
"料理って本来そういうものだよ!"
"ゆきのん先輩、今こそ常識教育の時間だよ!"
「えっと……、パンチ?」
「あ、ゆきのん先輩の料理はものすごく美味しいんです! ものすごく美味しいんですけど──やっぱりダンジョン料理のバシっとしてキュイーンって、あれがないというか?」
"語彙力w"
"ゆきのん先輩が困惑していらっしゃる・・・"
"《英検一級はクソゲー》分かったで。多分、足りないのは毒?"
"毒がバシっとしてキュイーンするわけないだろ、いい加減にしろ!"
"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"
「あ、それです! 毒です、毒が足りません!!」
"《英検一級はクソゲー》!?(´;ω;`)"
"まさかの正解で草"
"英検ニキは、レイナちゃん語検定の資格でも取るんか・・・?"
「な、なるほど毒による刺激とφ(..)メモメモ」
"ゆきのんはそんなのメモらないで!?"
そんなことを話しながら、函館ダンジョンでのコラボ配信は順調に進んでいった。
昼食を終え、私たちは更に函館ダンジョンに潜り続ける。
観光地にもなっている、ゆきのん先輩のオススメスポットを見に行くためだ。
そうして、しばらく歩いたところで私たちは広い川のせせらぎに出くわす。
「わあ……!」
思わず声が出た。
川は魔力を含んでおり、七色の幻想的な光を放っていた。
さらに心を踊らせるのは、淡い色を放つ魚型モンスターの集団だ。
「綺麗ですね……」
「でしょう。ここ、私のお気に入りなの」
ゆきのん先輩が、誇らしげに微笑んだ。
"函館ダンジョン、こんな場所があったのね!"
"今度の北海道遊びに行くときは観光に行こうかな"
"一応、ツアーもあったはず。あんまり知られてないけど・・・"
"一般人にダンジョンは危ないしなあ"
あまり見ない景色に、コメント欄も盛り上がっている。
「ここの魚って取っても良いんですかね?」
「うん。ここは北海道ダンジョンの中でも釣りスポットとしても有名で──素潜りは待って!?」
飛び込もうとした私を、大慌てで止めるゆきのん先輩。
いわくダンジョンの景観を守るために、飛び込みは禁止とのことで……。
「そもそもどんな危険があるか分からないダンジョンの川に潜ろうなんて物好きは、レイナちゃんぐらいしか居ないと思うけどね!?」
「ごめんなさい……」
「ところで! こんなこともあろうかと、釣り道具を二人分借りてきたの。どうかな?」
「分かりました!」
"しゅんとするレイナちゃん可愛い"
"順調に常識教育が進んでる!?"
"ダンジョンの水辺に潜るなんて本来は自殺行為だからな・・・"
そうして私たちは、ダンジョンの中でのんびりと釣りをすることになった。
川のほとりに腰を落ち着けて、並んで糸を垂らす。
水の流れる音が心地よく、ダンジョンの中にもかかわらず眠気を誘うレベルだ。
"癒やし配信だ・・・"
"おかしい、本当にレイナちゃん配信が癒やし配信になってる・・・?"
"チャンネル間違えた?"
失礼なコメント欄をスルーしつつ、私は……釣具と悪戦苦闘していた!
「む~、うまく行きませんね」
「ここは、こうやって──針は先端に結んで。はい!」
「お~! さすがゆきのん先輩です!」
私は、キラキラした目でゆきのん先輩を見る。
"レイナちゃん不器用すぎるw"
"ゆきのん先輩の釣り講座はじまる・・・"
「ゆきのん先輩は、釣りにはよく来るんですか?」
「最近はあんまりかなあ。そういう場所も無かったし──こうして並んで釣りをするのは、それこそ初めてだよ。暇だし、配信でやるには地味な絵面だしね……」
「そんなことないです! 楽しいですよ!」
私の言葉に、ゆきのん先輩は嬉しそうに笑うと、
「レイナちゃんとこうして並んで釣りしてるなんて──夢みたい」
なんて言いながら、ぱあっと笑みを浮かべている。
"てぇてぇ"
"このゆきのん先輩かわいすぎる"
"確かにダンチューバー配信とは相性悪いのかな?"
"レイナちゃんは、釣ったもの食べることしか考えてないゾ"
──そうして、のどかな釣りの時間が始まる。
はずだったのだが、そうはいかないのがダンジョンという場所だ。
「ん! なにか引っかかりました!」
「おお、おめでとう!」
ゆきのん先輩の祝福の言葉。
「うわっ、重いですね……」
ぐいっ、ぐいっ、ずずず!
釣り糸が引きちぎれないことを祈りながら、私は全力で獲物を引こうとする。
"あ"
"嫌な予感する"
"レイナちゃんの釣りだから安心できないww"
私が渾身の力で竿を引っ張ると──、水面からぬうっと現れたのは、
「…………なんですかこれ?」
水面から上がってきたのは、魚ではなかった。
吸盤の生えた巨大な足だけが見えており、その全長は想像もできない。
(タコみたいなもんかな? 美味しいのかな?)
"なんだあれ? イカの亜種?"
"ん~、見た目はタコぽい?"
"大丈夫? レイナちゃんの癒やし配信だよ?"
「これ……、食べられますかね?」
「レイナちゃん……、ちょっと待って。それ、釣り上げちゃダメなやつかも……」
呑気に首をかしげる私だったが、ゆきのん先輩はぎょっとした顔で立ち上がった。
「見た目は気持ち悪いですけど……。あの触手の部分、食べてみたらコリコリして美味しかったりしませんかね?」
「そういう問題じゃなくて!!」
川の中から、のそりと現れたのは巨大なタコ型のモンスターだった。
ざっと見て、体長は十メートルを超えていそうだ。函館ダンジョンでは、もっとも食べ応えがありそうなモンスターである。
"でっかw"
"なにこれイレギュラーモンスター?"
"カフェに新メニュー追加しないと・・・(使命感)"
"レイナちゃん、よだれ垂らしてて草"
"危機感なさすぎて草"
どこか危機感の無いコメント欄を横目に、私は意識を切り替える。
「あっ、あわわわ──」
ゆきのん先輩が、現れたモンスターを見て青ざめた顔をしていたからだ。
「ゆきのん先輩。これ、イレギュラーモンスターなんですか?」
「うん。この階層では見たことないと思う!」
「分かりました!」
私はモンスターの足をむんずと掴んで、川の向こう側へと放り投げる。
この周辺は、一般人が来ることもある観光地なのだ。万が一の危険があってはならない。
「ゆきのん先輩は、周りにいる一般人の救出をお願いします!」
「レイナちゃんは?」
「私は、あのタコモンスターを狩ってきます!」
そう宣言し、私は遠くに放り投げられたイレギュラーのタコモンスターを追いかけるべく飛び上がる。
モンスターを追いかけながら、コメントが流れているのが視界の端に見えた。
"ボス戦始まったw"
"やっぱりレイナちゃんは持ってるなあ"
"いつものごとく何も映る前に終わりそうな気がする"
"やっぱりあのタコモンスター、イレギュラーモンスターみたい。函館ダンジョンでは目撃例ほとんどなかったのに・・・"
その後、コメント欄にはモンスターの情報が書き込まれていく。
私はそれらを頭の中に入れ、タコモンスターの落下地点まで移動し……、
「見つけました!」
私はそう宣言し、タコモンスターの正面に飛び降りるのだった。




