レイナ、巨大タコを捕まえる
私が降り立った隙を狙うように、タコモンスターの触手が真正面から迫ってくる。
拳を振り抜き触手を引きちぎると……、
「なるほど、これは美味しいですね!」
私は、ぱくりと一口。
第一印象のとおり、コリコリした歯ごたえが特徴的なモンスターであった。
"捕食者に睨まれたモンスター"
"レイナちゃんに睨まれたおもちくん"
"タコくん、見るからにビクビクしてて草"
"もう最初のやり取りだけで分からされちゃった・・"
その後、私はタコモンスターに飛びかかる。
触手が飛んできたり、死角から魔法が飛んできたりしたが──拳を振り抜きシャットアウト。
そのまま本体の部分まで迫り……、
「えいっ!」
その一言とともに、タコのイレギュラーモンスターを一撃で討伐するのだった。
"触手引きちぎってその場で食べるのやめれw"
"せめて手袋はしてくれww"
"最後まで逃げずに戦ったタコくんに合掌・・・"
ワイワイと盛り上がるコメント欄を見ながら、私はタコさんをハコベールに放り込む。
(これも貴重な北海道ダンジョンの食材です!)
(大事に扱わないと!)
「うん、あのタコさんも美味しかったです。是非ともカフェのメニューに加えたいですね!」
"もう終わったw"
"早すぎて何をしたのか分からない・・・"
"さっきのゲテモノをカフェのメニューに!?"
"草"
"これがダンジョンイーターズなんだよなあ"
そうして目的を達した私は、ゆきのん先輩のもとに戻るのだった。
「ゆきのん先輩、終わりました!」
川辺に戻ると、ゆきのん先輩は周辺に居合わせた観光客をダンジョン出口の方へ誘導し終えたところだった。
「レイナちゃん……! 大丈夫だった!?」
ゆきのん先輩が、心配そうに駆け寄ってくる。
「はい! 美味しそうなタコも確保しました!」
「……そっか、よかった」
安堵したように、ゆきのん先輩がほっと息をつく。
"ゆきのん先輩の反応が常識人で安心する・・・"
"ゆきのん先輩、ちゃんと避難誘導してたんだね"
"こういうときのゆきのん先輩、やっぱり頼りになるね"
"レイナちゃん、基本食べること考えてるから暴走しがちだしね"
"あれ? ゆきのん先輩、ちょっと表情が硬い気が……"
コメントの中に、そんな書き込みが混じっていた。
私も、気がついていた。
ゆきのん先輩は――にっこりと笑っているけれど、どこかぼんやりとしている様子で、
「ゆきのん先輩、どこか痛いところとかありますか?」
「大丈夫! レイナちゃんが気にするようなことは何もないから!」
ゆきのん先輩の笑みはいつも通りようで、どこか無理をしているようにも見えてしまい……、
「ゆきのん先輩?」
私がじーっと、ゆきのん先輩に視線を送ると、
「ほら。レイナちゃんが戦ってるとき、私はすぐには動けなかったから……」
ぽつり、とゆきのん先輩が口を開いた。
「このへんのイレギュラーモンスターぐらい、すぐに倒せるようになりたいのに。レイナちゃんは、やっぱりすごいなあって──」
"ゆきのん・・・"
""普通の探索者なら怯んで当然の相手よ"
"うん。レイナちゃんと比較するのが不毛よ"
"それはそうw"
"ダンチューバーって、やっぱり強さは気になるよなあ"
「…………って、冗談冗談! ごめんね、湿っぽくなっちゃって!」
少し様子が変わってしまったコメント欄を見て、ゆきのん先輩は慌てて首を横に降った。
(お世話になったゆきのん先輩の悩み)
(なにか力になりたいけど──そうだ!)
それはちょっとした思いつき。
「ゆきのん先輩! 実は、とっておきの話がありまして……!」
"あっ(察し)"
"流れ変わったな"
"レイナちゃんが閃いたときの目してる"
「ゆきのん先輩! 今度、ダンジョンイーターズでちょっとした訓練会をやる予定なんですか──それに参加してみませんか?」
「え!? いいの!?」
「ゆきのん先輩ならもちろんです!」
私の勧誘に、ゆきのん先輩は一瞬迷ったような顔をしたが、
「……参加、したいです! 今より強くなれるなら──いざというときに動じない強さを手に入れられるなら!」
そう覚悟を決めたように頷いた。
「決まりですね!」
(さすがはゆきのん先輩! 美味しい料理配信のことしか考えてない私が恥ずかしくなってくる……)
私は内心でそんなことを考えつつ、
「あ、どうせなら──」
「待ってレイナちゃん。なんか嫌な予感が──」
「せっかくなら食材さんたちもどうですか?」
"!?!?"
"え? レイナちゃん式ブートキャンプ、一般募集のお知らせってこと?"
"ふぁっ!?"
実は深層でカフェを開くにあたって悩んでいたことがある。そもそもカフェの場所まで来られない人が、食材さんの中にいるということだ。希望があれば誰でも来られる深層カフェ──この提案は、あくまでその一環のつもりだったのだが……、
"とりあえずうちのギルドの連中に声かけてくる"
"サプライズ発表すぎる!"
"いや違う、これ何も考えてないやつだwww"
"《鈴木 千佳》あ~、レイナはとりあえず帰ってきたらお説教"
"《鈴木 千佳》申し込みは……、今申し込みフォーム作るからちょっと待っててなー"
"有能マネちゃん定期"
すっかり大騒ぎになってしまったコメント欄を見て、私はそっと頭を抱えるのだった。
「あの~。本当に私が参加して大丈夫なのかな?」
「ゆきのん先輩なら大歓迎です!」
というか、本来ならイベントにゆきのん先輩を呼ぼうと思ったら、案件料を払うべきだと思う。
どこかお互いに恐縮しながら──函館ダンジョンでのコラボ配信は、ダンジョンイーターズ主催の訓練会の約束を取り付けて解散となるのであった。




