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【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう《書籍化&コミカライズ》  作者: アトハ
6章

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アメリカダンジョン最深部攻略(2)

「射撃部隊は、とにかく視界に入ったやつに打ち込め!レイナ以外は、とにかく安全地帯から離れるな!」


 緊張感に満ちたランドルフの鋭い声が飛ぶ。

 そこからの戦闘は、主に遠距離攻撃の撃ち合いと化していた。


"なんかすごいことが起きてるのは分かる!"

"魔法合戦じゃん、すごっ"

"クイーンさまの大魔法じゃん。なんだこの威力"

"これでも掃除しきれず溜まっていく蜘蛛の数、やばすぎ"


 派手な魔法が飛び交い、次々と落ちてくる蜘蛛を焼き払っていく。

 対ヘブンリースパイダー対策のパーティーということで、主に、遠距離攻撃を主体とする探索者が大勢集まっていたのだ。


「す、すごい!」

「ううん。これは今までの詠唱の貯金があるから。やがてはジリ貧になる」


 パッと見、こちらが圧倒しているように見える。

 しかし私の感想を、マインちゃんは冷静に否定した。

 何度もこのボス戦に挑み、敗戦パターンも色濃く覚えているのだ。


「あらかじめ用意できる詠唱には、どうしても限界がある。魔法に隙があるタイミングで、蜘蛛が増殖して、そのまま火力で押し切られちゃう。……レイナちゃん、無理言ってるのは分かってる。どうにかできる?」

「任せて下さい!」


 凄まじい勢いで、小さな蜘蛛が降ってきているのは見えた。

 その数は、毎秒三十匹といったところだろうか。魔力の流れさえ感じられるなら、それを頼りに回避することはできる。


「頑張って!」

「行ってきます!」


 そうして私は、ランドルフの巨大な盾の裏――その安全地帯から飛び出し、真っ直ぐに駆け出した。目指すのは、ヘブンリースパイダー――巨大蜘蛛の本体である。

 壁を蹴り、天井を目指して一気に駆け上がる。

 蜘蛛の本体は、第二フェーズに入ってからはずっと天井に張り付いていたからだ。


(右ッ! その直後に、前後から複数のレーザー!)


 私は宙を縦横無尽に駆け抜ける。

 一瞬でも回避が遅れたら、あっという間にレーザーに撃ち抜かれる死と隣り合わせの演武。


「す、すげえ!」

「全部見えてるのか!?」

「レイナちゃん、さすが!」


 そんな声がかすかに耳に届くが、私は集中を切らさぬように意識する。

 時間にすると、おそらく一分にも満たない短い時間。

 私は、全身全霊を集中して、レーザーを徹底的に回避していく。


"なんだこれwww"

"もうこれ弾幕ゲーじゃん!"

"本体狙う奴に反応してるのか? レーザーの数多すぎる"

"これ避けきるレイナちゃん、まじでどうなってんの!?"

"ボスもバケモンなんだけど、レイナちゃんも大概バケモノなんだよなあ"


(なんでしょう、これ)

(見えます。部屋の中のすべての魔力の流れが!)


 極限までの集中力――不思議な感覚だった。

 こちらを狙って放たれるレーザーの気配が、一つ残らず知覚できる。

 どう身体を動かせば、最低限の動きで回避しきれるかが頭に浮かんでくるのだ。

 今までになかった不思議な感覚に身を委ねつつ、私は壁を蹴り、徐々に巨大な蜘蛛との距離を詰めていく。

 もう奴らのレーザーは、決して私には届かない――そんな確信があった。


「捉えました!」


 ――キィッ!

 天井を走り抜け、私はついに蜘蛛の本体のコアに到着する。

 そうして、まずは一撃。

 さらに慎重に一撃。もう一撃。

 ときどき飛んでくるレーザーを躱しながら、何発かの拳を叩き込んだところで、


「な、なんだ!?」


 巨大な蜘蛛は、ついに力を失ったように地面に墜落をはじめる。

 さらには悪夢のように存在感を放っていた小型蜘蛛の集団も、あれだけ居たのが嘘のようにいきなり消え失せたのだ。


「「うおおおおおおお!」」


 少し遅れてやってくる実感。

 私たちは、ようやくヘブンリースパイダーの討伐に成功したのだ。


"や、やりやがった!!"

"レイナちゃん、本当にワールドレコーダーになっちまったよ!!"

"いやでも神業だったでしょ、レイナちゃんにしかあの役割は無理よ!"

"レイナちゃん最強! レイナちゃん最強! レイナちゃん最強!"


 因縁のボスを倒し、さすがのベテラン探索者たちの間にも弛緩した空気が流れていた。

 これまでのように、次の階層への階段が続くと思っていたのだ。

 ちょっとだけ次の階層の味見に行くもよし。ワープゲートだけ起動させて、さっさと戻ってもよし――ダンジョンの最深部を攻略した者のみに訪れる特権。

 しかし、一向に次の階層への階段は見つからない。

 その代わりに現れたものは……、


「な、なんですかこれ?」

「俺に聞くな……。何なのだこれは――」

「向こうにも、何か景色が見えますね」


 一言で表現するなら次元の歪みとでも表現したものだろうか。

 ヘブンリースパイダーを倒して現れたのは、異空間につながっていると思しき穴であった。


 唐突に現れた異物としか表現のしようのない穴。

 私たちは、困惑したまま見つめることしかできなかった。


「マ、マサカ――コレハ、エステリアン!」


 沈黙を破ったのは、思いもよらぬ声だった。


「おもちくん!」


 声の主は、ハコベールからぴょんと飛び出してきたおもちくんだ。

 おもちくんは、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねながら、必死に穴の中を覗き込む。


「おもちくん、エステリアンって何?」

「ウマレタ、コキョウ! マサカ、ツナガル、コトガ、アルナンテ!」


 おもちくんの生まれ故郷。

 それは、この穴の先――すなわち異世界ということか。

 ボスの討伐報酬――この階の報酬は、異世界につながるゲートということか。


「いやいや、そんな馬鹿な。異世界なんて――」

「リーダー、今さらそんなことをいいますか。こんなファンタジー全開なダンジョンに潜っておいて……」

「た、たしかにそうだけど――」


 マインちゃんとランドルフが、そんなことを言い合っている。

 素直に考えるなら、この穴は、おもちくんの生まれ故郷とつながっており――すなわちダンジョンは、異世界そのものだったということになるのか。


「ドウナッテ、ドウナッテルンダ…………」


 ぷるんぷるんと震えるおもちくんを、とりあえずは肩の上に乗せ、


「次は、異世界で料理配信ですかね!」


 私は、そう呑気な声をあげるのだった。

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