アメリカダンジョン最深部攻略(1)
それからの一週間は、あっという間であった。
連携の練習ということで、今回のアタックのメンバーといっしょに深層のダンジョンに潜ったり、私がトレーニング中にしていたことを共有したりしていた。
「モンスターハウスで、モンスターを食べ放題!?」
「とりあえず目立った攻撃は、いったん喰らってスキルが生えないか試す!?」
「ボス周回!?」
「あまりにもクレイジー……」
探索者たちは、私の方法を聞いてあ然としていた。
(そ、そんな驚かれるようなことは、してないはずなんだけど……)
どちらかというと、物量をベースにして地道な方法だ。
きっと他に、いくらでも効率が良い方法だってあると思う。
「おい、ちょっとモンスターハウスでの集中訓練試してみろよ」
「嫌だよ。命の方が大事だから」
そんな軽口を叩きあう面々に、
「私たちも付いていくから死ぬことはないと思う。任せて」
無表情でそんなことを言うマインちゃん。
(た、たしかに呪術と回復技の組み合わせで、ほぼほぼ安全に色々試せるもんね)
(う~ん、何か良い方法あるかな――)
「あ、そうだ! とりあえずボスの攻撃を片っ端から受けてみて、何かスキルが生えてくるか実験してみるのも――」
「却下!」
そんなやり取りをしながらダンジョンの探索を繰り返しているうちに、あっという間に一週間という月日が経過する。
「ついに明日が本番ですね!」
そうして、ついにダンジョンアタックが行われる日がやってきたのだった。
【ワシントンダンジョン深層―29F ボスチャレンジ配信】
「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」
"こんレイナ~"
"こんレイナ~!"
"配信枠名が、いつになくまともだ!"
"配信内容が分かる! 100点!"
"ついにボス戦始まるのか・・・"
"こっちまで緊張してきた"
二九層というボス部屋の前までは、特に何事もなく到着することができた。
今は、ついにこれからボス戦に挑むための最終確認中だ。
「最後に、もう一度作戦を確認する。まず第一フェーズは、我々は慌てずに様子見に徹する。新しく加わったレイナが、まずはレーザー攻撃に慣れてから、ダメージを与えて次のフェーズに移行する予定だ」
ランドルフが、そう作戦を説明した。
「私は遊撃隊! 攻撃を加えるタイミングは、私が決めて良いんですよね?」
「ああ。任せた」
第一フェーズは、言うなれば通過点。
本番は、小型の蜘蛛が生まれる第二フェーズからだ。
「第二フェーズに入ってからはスピード勝負だ。基本的には遠距離攻撃持ちが、俺の影に隠れながら小型の蜘蛛を少しでも処理していく。その隙に本体にダメージを与えるのが――」
「はい、私の役目ですね!」
「ああ、その通りだ。とにかく小型蜘蛛の処理は俺たちに任せて、レイナ――あなたには、本体への攻撃を続けてほしい」
「了解!」
私が答えると、
「レイナちゃん。作戦、一緒にできるの楽しみにしてる!」
マインちゃんも、そうワクワクしながら声をかけてくれました。
ちなみにマインちゃんは、今日も大量の呪具を身にまとっています。その大部分には、私のサインが呪術の触媒として使われており、
(サインが呪術、サインが呪術――)
(ううん、考えるのは後です!)
ねだられて書いたサインが、「リアル画伯配信だ!」などと、大勢の探索者から反応をされたのは、大変に遺憾なのである。
"レイナちゃん、ついに連携プレイをマスターする!"
"いや、これ意訳・好き勝手に暴れてこいってことだけどなw"
"レイナちゃんの快進撃が、まだ続きそう!"
"というか日本より、連携の方法はざっくりなんだねアメリカンスタイル"
コメント欄も、今日の作戦を聞いて興味津々と言った様子だった。
そうして作戦を確認した私は、
「では、ボス部屋の扉を開けます!」
そう宣言して扉を開け放ち、
「「「いざ、勝負!」」」
――ついに長年の障壁となっていた、ボスとの戦いが始まるのだった。
ボス部屋の大きさは、いつにもまして巨大な空間であった。
目が慣れるまでは、それだけで厳しい暗さ。
ようやく慣れてきたところで、目を凝らすと、一角に全長数十メートルはあろうかという巨大な蜘蛛がぶら下がっているのが確認できる。
「で、でかい――」
こちらが気がつくと同時。
――クァアアアアア!
そんな威嚇の叫び声と同時に、巨大な蜘蛛が飛び降りてきた。
続いてズシーンと、重々しい轟音があたりに響き渡る。
「散れっ!」
ランドルフの鋭い叫びと同時に、私たちはあたりに散開した。
巨大蜘蛛は、目が爛々と真っ赤に輝かせており……、
「来るぞ!」
「ッ!」
続いて、キーンッ! と何か弾くような激しい音。
それは、一瞬。私は、ようやく理解する。今、レーザーが放たれ、それをランドルフが弾いたのだということを。
"やばっ"
"カメラにも何も写ってないな"
"これで即死? えぐすぎでしょ"
「な、なるほど。とんでもないですね」
「レイナちゃん、どうにか避けられそう?」
「頑張ってみます」
マインちゃんの心配するような声が聞こえてきて、私はそう頷き返す。
まずは作戦の第一段階。
第二フェーズに向けて、私がこのレーザー攻撃を回避できるようになる必要がある。誰も避けられないレーザーを、ランドルフの防御範囲という安全地帯でやりすごす――これまでの作戦では、ジリ貧になるからだ。
皆が小蜘蛛を相手にしている間に、私が本体を叩くというのが今回の作戦なのだ。
「いざっ、勝負!」
私は、ヘブンリースパイダーの本体に向かって駆け出した。その胴体に浮き出たコアが弱点であり、そこを叩くことで初めてダメージを与えることができるのだ。
勝負は一瞬。
私は神経を研ぎ澄まし……、
(今っ!)
わずかにエネルギーが集約される気配を読み取ることに成功。
素早く飛び退ると同時、わずか隣をレーザーが通過していくのを認識する。
「嘘だろ、どんな目をしてるんだ。まじで避けやがった!」
「レイナちゃん、すごい!」
後ろからマインちゃんとランドルフの歓声が聞こえてきた。
よし! と私も内心でガッツポーズ。
(コツさえ掴めば簡単ですね!)
目で見てからでは、もう遅いのだ。
あくまで予兆を感じたら同時に、身体を逸らすイメージというのだろうか。
コツは、視界に惑わされないことだろうか。私は目を閉じ、あくまで蜘蛛の体内を流れる魔力に意識を集中する。
「今!」
"レイナちゃん、目、つぶってる!?"
"どういうことなの!?"
"多分、魔力を読み取って回避してるんだと思われ"
"人間やめましたシリーズじゃん・・・"
それから数分で、私は完全にコツを掴んでレーザーを回避できるようになっていた。
一度だけ、逃げ損なってレーザーが身体を掠めることもあった。普通にジュッと身体が焼ける嫌な感覚があり、次いで激しい痛み。
(これは、真正面から受けたらただでは済まないですね)
マインちゃんの呪術があれば、おそらく致命傷を喰らっても死にはしないと思う。それでも探索者のピーコさんに治療してもらいながら、冷や汗をかいたものだ。
そうして私は、何度もレーザーを回避していく。
次の第二フェーズでは、これを何本も同時に避けないといけないのが問題なのだけど……、
(それはもう、ぶっつけ本番。やってみるしかありませんね!)
私は、そう判断し覚悟を決める。
「皆さん、やります!」
「おう!」
「ついに本番」
「ついにこの蜘蛛野郎に、引導を渡せるんだな!」
私が声をかけると、攻略メンバーからは、気合いの入った声が返ってきた。
何度もアタックに失敗し、随分とフラストレーションが溜まっていたのが分かる。
「えいやっ!」
私は、蜘蛛のコアに攻撃を加えていく。
数発の攻撃を打ち込んだところで……、
「わわっと」
巨大な蜘蛛が、唐突に身体を振るわせ、振り落とされた私はマインちゃんの隣に着地する。
巨大な蜘蛛は、天井にぶら下がるように逃げていったようだ。
それと同時に、パラパラと小さな蜘蛛が次々と落下してきて、
「ついに、ここからが本番だな――」
ランドルフがそう呟き、ついに本格的なボス攻略が始まるのであった。





