アメリカダンジョン攻略会議(2)
そのミニ型の蜘蛛は、その一体一体がレーザー砲を持っており、やがては縦横無尽にレーザーを撃ち始めたではないか。おまけに小型の蜘蛛は、次々と落下してくるようで、その数は時間とともに続々と増えていった。
"ぎゃあああ、もうやめてくれ!"
"蜘蛛恐怖症の人は無理だな、これ"
"気持ち悪すぎて草不可避。本能的に無理だこれ"
画面が蜘蛛で覆い尽くされ、コメント欄もドン引きしているころ、
「こうなってしまっては、もうお手上げだな。俺達としても、盾の裏から攻撃魔法で撃ち合いに持ち込んだり、どうにか速攻を狙ったりと色々と試してはいるんだが――全て空振りだ。割とどん詰まりといったところだな」
そうランドルフが両手を上げてお手上げとアピール。
作戦室には、重々しい沈黙が集まる。
"当たったら即死のレーザーが飛び交ってるの、控えめにいって狂ってるな"
"なにこのバケモノ"
"このミニ型の蜘蛛は、どんどん上から降ってきてるのかな?"
"なら降ってくるたびにつぶしていけば?"
"処理が間に合わなくなってレーザーで圧殺されるってことだろ"
"てか、よく生きてたな、このチーム……"
"ダンジョンの最奥部では、いつもこんな死闘が繰り広げられてたのか"
"正直、ちょっと気軽に見に来たの後悔してるわ"
"これは俺たちも、本気で攻略法考えないと・・・"
ボスの詳細が明らかになるにつれ、コメントも加速していく。
あまりにも絶望的な強さに戦慄するコメントも多い。
それでも、いつもは下らない雑談が多い我がチャンネルのコメント欄も、今は、真剣に知恵を出し合おうという空気になっていた。
私も真剣に作戦を考えようとして……、
(ダメですね! 私の頭だと、全ての蜘蛛を、片っ端から叩き潰す――みたいな答えしか思いつきません!)
私は、どちらかというと決められた作戦に対して、臨機応変に立ち回るのが得意なのだ。
……思いつきで動いているだけともいう。
"というか今までよく死人出てないね"
"たしかに。もっと壊滅的な被害受けてそう"
「あ、それはマインちゃんとピーコさんの功績だ」
「どういうことですか?」
「生死を彷徨ってる魂の肉体を操作して、どうにか安全圏まで退避。そこをヒーラーのピーコさんに頼んで回復してもらえば、本当の即死じゃなければ、どうにかなる」
「す、すごい……!」
「少しでも魂が残ってれば、至近距離なら全回復する自信はアルヨ!」
ピーコさんと呼ばれた探索者が、そうガッツポーズした。
マインちゃんが、パーティーで果たしている役割は大きいようだ。
"通称、ゾンビアタックか"
"普通はどっかで事故って本当に死ぬし、そうでなくとも精神が狂うから普通はやらんけどな"
"やっぱトップ探索者って、どこか頭のネジ外してるよな"
そこまで話を聞いて思ったこととしては……、
「これ、私が加わったところで、どうにかなりますか?」
それが正直な感想だった。
今のメンバーで取れる戦法が、もう完成されているように思えたのだ。
"そもそもトップランカーが集まって倒せない敵を、一人加わったぐらいで倒せるようになるとは思えないよな・・・"
"いや、でもレイナちゃんなら。レイナちゃん!"
"案外レイナちゃんなら、ソロでどうにかしちゃいそう"
「無茶言わないで下さい!」
コメント欄が、そんな雑談ムードに流れそうになったとき……、
「いや、一人加われば勝算はある」
そうランドルフが宣言した。
「本当ですか!?」
「ああ。結局、今までの戦いでは、第二フェーズで本体を安定して叩けるやつが居ないのが、すべての敗因なんだ。増え続けるレーザーを掻い潜れるやつがいないからな」
「な、なるほど…………」
「作戦はこうだ。まずは魔法の撃ち合いで、どうにか蜘蛛の増えるペースを抑制する。その隙に、どうにかしてレイナ――おまえに本体を叩いてもらいたい」
「それは……、責任重大ですね」
ランドルフの視線は真剣だった。
もしその作戦で行くなら、作戦の要は間違いなく私になるはずだ。
「となると私は、そのレーザーを回避できないと話になりませんね」
「それは第一フェーズで、回避できるようになってもらう」
「随分とぶっつけ本番ですね……」
私は、思わずそう呟いた。
これまでのボス戦の中でも、ダントツの難易度になることが予想された。
「受けてくれるか? 危険な役割ではあるが……」
「覚悟の上ですよ。別にダンジョンが危険なのは、今に始まったことじゃありませんからね」
死と隣り合わせなのは、いつものことだ。
世界でも最深部のボス戦で、自分がその作戦の要を果たすことになる――これでも私は、探索者の端くれだ。ワクワクする感情もあった。
そんなわけで私は、力強く頷き返すのだった。
そうして作戦が決まったところで、
「ところでヘブンリースパイダーって、食べられますかね?」
私は、気になっていた疑問をぶつけてみる。
"草"
"レイナちゃんww"
"せっかく俺らも自重してたのに!"
"あまりにも平常運転ww"
「えっと……、多分、美味しくはないと思う」
「うむ。あれは食べたいとは思わないな…………」
「そうですか。残念です」
マインちゃんとランドルフが、そう戸惑いがちに答え、
「それでは作戦決行は一週間後。今日は解散!」
ランドルフがそう宣言し、今日の作戦会議はお開きとなるのだった。





