レイナ、絶対要塞と殴り合う(2)
私はそう宣言し、さらにスピードのギアを上げる。
相手のミスを待つ戦いでもあるのだ。
"なんかとんでもないこと言い出した!"
"久々の脳筋ゴリ押し戦法きたな!"
"でもこれ、どっちが勝つんだw"
"これ本来、タイムオーバーで負けだろ!"
「恨むなら時間制限を設けなかったランドルフさんを恨むんですね。これから数時間にわたって、ずっとこの光景が流れるかもしれませんからね!」
"コメント欄はいいから戦いに集中してw"
"お、まだまだ余裕そうだな!"
"ふ~む、作業用配信にするかあ"
"いやいや、音がグロ過ぎて作業できないだろこれ!"
ダメージを与えるという一点に限るなら、他にもやりようはあるだろう。
だけども真正面から盾をぶち抜いて勝つなら、この方法が一番だと思ったのだ。
「でも、参りましたね。これだと配信が映えません――なにか希望のオーラはありませんか? フェニックス以外で」
"草"
"配信映えを忘れないダンチューバーの鑑"
"これさり気なくすごいことしてる。ランドルフの方だって、一瞬の隙を作って盾の修復をすることに関してはプロでしょ。その時間すら与えないってヤバ過ぎでしょ"
"そもそも一切息切れしないレイナちゃんがバケモノすぎるんだよなあ・・・"
「おのれ、そんな方法で!」
「良いんですか? 集中力を切らしたら、そこでジエンドですよ!」
「ほざけ!」
そう怒鳴りながらも、ピタリと盾を構え続けるランドルフ。
その精度は圧倒的で、たしかに探索者としてのトップランカーを感じさせるものだが、
「ああ、なるほど。だからチェンジが必要なんですね」
「…………は?」
「確かにランドルフさんは強いです。でもこのルールなら……、耐久戦に持ち込んでいいなら私の勝ちです!」
盾に拳を叩き込み続けること数十分。
まるで精密機械のように、ランドルフは盾をあわせ続けてくる。それでも私は、ひたすら盾の一点に集中して、拳を叩きつけることを続けていき、
カーンッ!
カーンッ!
カーンッ!
"どっちが勝つんだこれ?"
"完全に硬直状態?"
"でも焦ってるのはランドルフで、レイナちゃんは涼しい顔してるんだよな"
――均衡が崩れるときは一瞬。
ついに私の拳が、盾にヒビを入れたのだ。
一度、ほころびが生まれれば、後は一瞬。
そこから三発の拳で、ついに私はランドルフの盾を真っ二つに割くことに成功する。あ然とするランドルフの懐に飛び込み、私はそのまま拳を突きつける。
「まだ続けますか?」
「――まいった。見事だ」
ランドルフは、降参――と両手をあげ宣言。
そうして突発的に始まった決闘は、そうして決着するのだった。
「な、何だ今の!?」
「すげえ。盾を真正面から叩き割った挑戦者は初めてだ」
「あんな戦い方もあるんだな。勉強になる……」
戦いを見ていた探索者から歓声が上がる。
集まった探索者たちもすっかり戦いに見入っており、最終的には勝者となった私に対する拍手まで起こっていた。
(最初は、疎外感すごかったですからね)
(ひとまず認められたようで良かったです!)
力でねじ伏せれば後は静か……、そんなことを、マインちゃんが言っていたことを思い出し、思わず私は苦笑する。
一方、肝心のマインちゃんはと言えば、
「この戦いが気に入った人は、レイナちゃんのチャンネル、登録しておくこと」
(マインちゃん、ちゃっかり宣伝してる!)
一方、配信のコメント欄は、
"うおぉぉおおお! レイナちゃん、絶対要塞真正面から叩き潰しやがった!"
"THEレイナちゃんって感じの戦い方で、満足度高いw"
"レイナちゃんもランドルフも、まだまだ余裕ありそうなのが怖すぎる"
"やっぱりトップの探索者は、どいつもこいつも人間やめてるんやなって"
そんな様子で大盛りあがり。
そんなお祭りムードの中、ランドルフは立ち上がると、
「強さこそが探索者の唯一の正義。失礼なことを言ってすまなかった。彩音レイナ――我がグループは、あなたを歓迎しよう」
「はい。ボス攻略、一緒に頑張りましょうね」
そう手を差し出して来たので、私も手を握り返す。
そうして私は、ワシントンダンジョンのアタックのメンバーとして、正式に認められることになったのだった。
***
その後、私たち攻略メンバーは作戦会議室と呼ばれる部屋に集まっていた。
ダンジョンの深層の一角に、秘密基地のような空間があったのだ。ダンジョン内部に秘密基地を作る――そんな遊び心に、私はほっこりしていた。
そうしてメンバーが集合するなり……、
「ダンチューバーという生き様について、何よりあなたほどの強者に向かって、ペテン師などとは――本当に、重ね重ね申し訳ない」
「もういいですって! 散々、謝られましたから!」
ひたすらランドルフに謝り倒され、私は困惑していた。
「リーダー、思い込みで動くのは良くない癖です。反省してください」
「だから言ったろ、彩音レイナはバケモンだって。本気で攻略を目指すなら、協力を仰ぐべきだって俺も同意しただろう」
「ぐむう……、まさかこれほどだとはな――」
そうランドルフをたしなめたのは、マインちゃんと、マインちゃんと一緒に新宿ダンジョンのアタックに参加していた探索者だ。
「もう良いですって。真剣にやってるからこそ、それを馬鹿にされると許せない。その気持ちは、痛いほど私も分かりますから。私は、ダンジョン探索も、配信も、どっちも全力でやってますけどね!」
「面目ない。レイナ、あなたの力は本物だ」
ランドルフのようなダンジョン攻略一筋で生きてきた人間としては、配信という趣味の世界の人間が、真剣なダンジョン攻略の世界に入ってきたのが許せなかったのだろう。
「圧倒的なまでの破壊力。まさに世界を揺るがす圧倒的な怪力――一撃一撃を受けるたびに手が痺れる圧倒的なパワー。あのような心が躍る戦闘は久々だった」
「私はもうやりたくないですけどね! 私は、あくまで癒やしを届ける配信者なので!」
私がそう答えると、
「ふっ、そうだったな」
ランドルフは愉快そうに笑みを浮かべるのだった。





