レイナ、絶対要塞と殴り合う(1)
「ごめんなさい。結局、こうなっちゃった」
「マインちゃんが謝ることじゃないよ。あの人が言うことも一理ある――ダンチューバー全てを悪く言われるのは許せないけどね。私こそごめんなさい、下手に口を挟んでややこしくしちゃったかも」
道中、私はマインちゃんにそう謝られる。
思わず口を挟んでややこしくしてしまった自覚があり、謝る私に、
「ううん。これが一番早いと思う」
なぜだかスッキリした顔で、マインちゃんはそう言う。
そしてマインちゃんは、まったく私の勝利を疑っていない様子で……、
(だ、大丈夫かな……?)
なにせ相手は、ダンジョン探索のプロなのだ。
今さらながらに不安になってきた私に、
「そうだ。せっかくだし配信しよう?」
「驚くほどにポジティブですね!?」
「だって私、レイナちゃんの配信のファンなので」
マインちゃんは、そんなことを言って笑うのでした。
【なんか決闘することになったので配信してみるよ】
「食材の皆さん、こんレイナ~」
"こんレイナ~"
"迷子ならなかった?"
"マインちゃんいるし大丈夫でしょ"
私はトレーニング室の一角にある、模擬戦スペースに立っていた。
有名ギルドの私有物であり、今はダンジョン探索者のために一般公開されているらしい。そんな空間で配信を立ち上げた私は、
「アメリカ、すごいですね! 広いです、すべてがでかいです! 私だけなら、絶対にそのへんで迷ってましたね!」
"自信満々に宣言すなw"
"そして枠名なにがあったの・・・?"
"ほんまや、決闘て?"
"そもそも、そこどこよ!"
"さすがレイナちゃん。到着一日で早速カチコミなんて・・・"
「人聞きの悪いこと言わないで下さい、不可抗力。不可抗力ですって!」
「うちのリーダーが、ご迷惑をおかけします。なんかいちゃもんをつけて、気がついたら決闘することになってました……」
"うおお、マインちゃんだ!"
"え? アタックのリーダーって、絶対要塞のランドルフ?"
"だれそれ?"
"おま、嘘、知らないの? 最強論争で必ず上がる、トップランカー中のトップランカーだよ"
"まあ、その最強論争は、レイナちゃんが終わらせたから・・・"
"なんでそんなのと決闘することになってるのよwww"
「こっちが聞きたいですよ!」
到着した直後から敵意をむき出しにされ、私だって困惑している。
そんなことを、コメント欄を見ながら話していると、
「逃げずに来たことだけは褒めてやろう」
現れたリーダー――改めてランドルフ。
ランドルフは、スマホに向かって話しかける私を見て、
「…………待て、おまえは何をしてるんだ?」
そう訝しげな反応する。
「何って配信ですよ。……あ、すみません。この戦いって、配信に載せても大丈夫ですか?」
「好きにしろ! おのれ、どこまでもふざけやがって!」
"なんか修羅場なんだけど"
"え? レイナちゃんと、絶対要塞のランドルフが決闘?"
"なんだか分からないけど、注目の一カードじゃん!"
"格付け厨がずっと見たかったカードじゃん! やばいよやばいよ!"
俄然として盛り上がるコメント欄。
そうして戦いが始まった。
ランドルフは、巨大な盾を構えると、
「まずは一発撃ち込んで来い。そうだな、俺に少しでもダメージを与えたら、それで今回のアタックへ参加することを認めてやろう」
そんなことを言い始める。
「来たれ、ガーディアン!」
その言葉と同時に、黄金に輝きはじめるランドルフ。
荘厳なその光景は、確かにベテラン探索者の貫禄を感じさせるものであり、
"おぉおおおお、なんか光り始めた!"
"これが数多のボスの攻撃を盾一つで塞ぎきった、絶対守護神のユニークスキルか!"
"最強の盾と最強の矛が、今ぶつかる!"
(なるほど、真正面から力比べということですね!)
私は、拳にモンスターのオーラを宿らせる。
今扱える一番の火力を持つのは……、
「エンチャント――フェニックス!」
私は、この間倒したフェニックスのオーラを拳に宿らせる。
この間の焼き鳥パーティーで、ちゃっかりオーラを習得していたのだ。
拳が燃え上がり、全身から真っ赤なオーラが湧き上がる。フェニックスのオーラは、圧倒的なまでの魔力を保有しているのだ。
"いきなりクライマックス!"
"レイナちゃんも、ますます人間やめてる!"
"これフェニックスのオーラか?"
"映像えぐくて草、どっちが勝つんだこれ"
「な、何だそれは!」
「行きます!」
私は盾を構えるランドルフに飛びかかり、全力で拳を振るう。
カーンッ!
(流石に堅いですね!)
激しい衝突音を響かせるが、ランドルフはビクリともしない。
ランドルフの放つ神聖なオーラに守られた盾は、わずかに凹みを作るだけで、その形をしっかりと保っていた。
「やりますね!」
「おまえこそ、なんという怪力!」
「か、怪力とは失礼しちゃいますね!」
感心した様子のランドルフと視線が交差した。
私は一度ランドルフの盾を勢い良く蹴って、素早く距離を取る。
"うおぉぉおおおお! た、耐えたぁああああ!"
"今の衝突音なにwww"
"まさかレイナちゃんの拳に耐える人間がいるなんて!"
「そっちからは撃ってこないんですか?」
「その必要もないさ。俺の役割は、パーティーの守護だからな」
そう言いながらランドルフは、再び盾を構える。
再びランドルフを黄金の光が包み込み、先ほどつけた凹みが一瞬で修復されていく。
「さあ、おまえの自慢の怪力はこの盾には届かないぞ。どうする?」
「怪力、怪力って、本当に失礼な方ですね!」
私は、そう言い返しながら再びランドルフに向かってまっすぐ突っ込んでいく。
あくまで相手が防御に徹するというのなら、
「またしても真っ直ぐか。まるで馬鹿の一つ覚えだな!」
「あいにく堅い相手は戦い慣れてるんですよ、私!」
フェイントを織り交ぜながら、私はランドルフの周りを縦横無尽に飛び回る。
そうして素早く背後を取り、
「無駄だ!」
「まだまだ!」
盾に塞がれるや否や、即座に撤退。
"相変わらず音がやばいww"
"このオッサンも只者じゃないぞ。レイナちゃんに動きに、しっかりと盾をあわせてやがる"
"さすが世界一のランカー!"
"いや、じゃあその相手とバチバチにやり合うレイナちゃんは何者なのw"
"レイナちゃんはレイナちゃんだから・・・"
一向にダメージが通らない戦いといえば、思い出すのは対デュラハンだ。
おまけにあの時と違って、相手は一切反撃してこないときた。
「一発で倒せない相手の対処法はデュラハンに習いました!」
「ほう?」
ヒット・アンド・アウェイ戦法で、ひたすら私は盾を殴り続ける。
狙いはいたってシンプルだ。
「倒せるまで殴ればいいだけです!」
"草"
"シンプルイズベスト!"
"気合い! 気合いは全て解決する!"
「無駄だ! 何度来ても同じ結果になるだけだ!」
「それはどうですかね? その盾、だんだん摩耗してきてませんか?」
狙うはわずかな綻び。
鉄壁に見えても、攻撃を重ねれば徐々に摩耗が進むのだ。
「まさか、その速さでずっと同じ場所を狙っているとでも!?無駄だ! その攻撃が途絶えたら、すぐにガーディアンを張り直して――」
「そんな暇、与えると思いますか?」
「……は?」
盾の修復には、わずかな時間、集中する必要があるのはさっき見た通りだ。
なら対処法は簡単――そんな暇は与えずに、ずっと一定のペースで部屋の中を飛び回り、攻撃を仕掛け続けるのだ。
確かに、この人が振るう盾の堅さは本物だ。
それならば一撃で貫くことは諦めて、ひたすら物量作戦で推すのみ。題して……、
「ダメージが通るまでぶん殴れ作戦です!」
「なんじゃあ、そりゃあ!」
「シンプルな勝負ですね。では、根比べ開始です!」





