レイナ、アメリカダンジョンで喧嘩を売られる
飛行機や電車を乗り継ぐこと約半日。
ついに私は、今回のアタックに加わるダンジョンに到着する。
「ここが、ワシントンダンジョン――アメリカのダンジョン最前線なんですね」
地面にすっぽりと大穴が空いたのがダンジョンの走りなのだろう。
今となってはその周辺に壁が築かれ、入口はピカピカと街頭で照らされ遊園地の入口のよう――もはや観光地のような風貌をしていた。
それでも行き来する人は、たしかに一流の探索者ばかりで。
「行きましょう。私が案内します」
「はい!」
私はマインちゃんの後をついて、ワシントンダンジョンの入口に向かうのだった。
「その……、最初に謝らせて下さい。今回のことは、私の独断も大きくて――もしかすると、失礼なことを言う人がいるかもしれません」
「その説明は、何度も飛行機でされました。大丈夫ですよ」
道中、私は何度もマインちゃんにそう謝られる。
トップの探索者の中には、どうしても日本をダンジョン後進国と侮る者もいるという事実。
まして今回参加するのは、ダンチューバーという配信者。それこそ探索を生業にする者としては「舐めるな!」と思う人間もいるらしく、
(…………いや、本当に!)
(私も、いまだに現状が信じられないんですが!)
楽しく配信をしていたら、気がついたらダンジョン最前線に引きずり出されていた件。
だとしてもフェニックスを倒すため、これまで以上にトレーニングを積んできたという自負もあり、どこまで実力が通用するのか気になるというワクワク感があるのも事実。
「いざとなったら、ノシって黙らせて下さい。うちの脳筋どもは、実力でねじ伏せれば後は静かなものなので」
「ひえっ……」
静かな笑みでおっかないことを言うマインちゃんに、私は頷き返すことしか出来なかった。
そうして、たどり着いたダンジョンの入口。
私たちには、敵意と好奇の混じった視線が向けられた。
メンバーは歴戦の探索者が九人ほどといったところだろうか。中には前回、新宿ダンジョンのアタックに参加していた大男の姿もあった。
その中でリーダー格と思わしき男が、
「マイン、がっかりだぜ。目が曇ったか? 助っ人に心当たりがあるというから任せてみれば、よりにもよって日本の配信者だと?」
オーバーな身振り手振りで、そんなことを言い出す。
(すごい! 千佳のマシンのおかげで、何を言ってるのかちゃんと分かります!)
そう感動していた私ですが、そんな余裕はないぐらいに切羽詰まった空気です。
「リーダーこそ目が曇ってる。くだらない先入観で判断すべきじゃない――間違いなく彩音レイナは、日本を――いいえ、全世界の探索者を合わせてもトップの実力」
「そんな馬鹿な話があるか! 俺達は、毎日、血の滲むような努力を積んできたんだ。誰よりもダンジョンを愛し、誰よりもダンジョンの恐ろしさを知っている。配信の片手間で探索やってる奴らに、負けるわけがねえんだよ!」
それは探索者としての高いプライドが見え隠れする発言。
実際、言わんとしていることは納得できた。
ダンチューバーと専業の探索者。そのどちらを選ぶかというのは、いずれは多くのダンチューバーが行き当たる問題だったからだ。
私は覚悟を持ってダンチューバーを選んだ。そのうえで楽しみながら、ダンジョンの奥深くまで潜り続けることを選んだのだ。
同じように覚悟を決めた人は、たくさん知っている。そこで活動している人を、丸ごと悪く言われるのは我慢ならない。
「配信は日本の文化。リーダーも配信、見てみれば楽しさが分かる」
そう言うマインちゃんは、気がつけば配信の常連で、
「ダンチューバーなんてくだらねえ! そんな職業、なんにも生み出さねえよ。そんな生半可な覚悟でダンジョンに潜るなら、探索者なんてやめちまえ!」
マインちゃんとリーダーの男で、話はどこまでも平行線。
結局、この場で必要なのは私が力を示すこと。
いつもなら、出しゃばるようなことはしなかっただろう。しかし、このリーダーを名乗る男の言葉は、私の中で許せない一線に触れるもので、
「……いいですよ、実力を示せばいいんですよね?」
「やれるものならやってみろ、ペテン師が!」
私が口を挟むと、リーダーは獰猛な笑みを浮かべる。
「直接、決闘でいいか?」
「はい。それで」
(どこまで通用するのかは分からないけど……。日本のダンチューバーとして。ここまで言われて言い返さないのは許されません!)
そうして私は、リーダーを名乗る男に挑むことを決意するのだった。
そうして私は、急遽、トレーニング室に向かうことになった。





