レイナ、アメリカ行きを決める
フェニックス討伐の数日後。
私たちダンジョンイーターズの面々は、近くのファミレスに集合していた。
集まったのは私と千佳とミライちゃんだ。
そうしてもうひとり、席に座っていたのが……、
「来ていただいてすみません」
「マインちゃん、一昨日ぶり!」
呪術師という特殊な戦法を使う、アメリカの探索者であるマインちゃんだ。
ちなみに配信ではあの発言後、コメント欄が大変な勢い加速してしまい、千佳のアドバイスにより配信をそのまま閉じたのだ。
私とマインちゃんは、あの後、めちゃくちゃ怒られた。
――あの日からダンジョンイーターズには、アメリカの最前線の攻略に参戦するのか? という問い合わせが殺到していた。
アメリカといえば、ダンジョン攻略の中でも世界一を争う国だ。
ダンジョン後進国と揶揄されている日本とは大違いであり、その最前線の攻略に加わるとなると日本人では前例のない快挙となるらしい。
そんな期待に満ちた目を向けられたダンジョンイーターズであったが……、
「うちは反対や。あまりにも危険すぎる」
「でもマインちゃんも困ってるみたいだし――」
「だからって余所の国の事情に首を突っ込む必要もないやろ」
とのことで、千佳としては反対の立場のようだった。
「まあレイナの意思を尊重するけどな――」
「……うん」
「だけども無茶はせんといてな」
千佳は、とにかく私の身を案じているようで、
「とりあえず話を聞いて、それからよく考えて決めるね」
「ああ。それとうちの居ない場所で進めるのはやめてな」
私は、そう千佳と約束するのだった。
その後に来たのが、マインちゃんからファミレスで集まれないかというお誘いである。
マインちゃんとは、あの日、ルインを交換しておいたのだ。
私個人へのお願いではなく、正式なダンジョンイーターズへの依頼という形にしたいらしく、今日、改めてファミレスに集合した形である。
「ごめんなさい。すっかり大きな騒ぎになってしまって――」
「まったくや。うちらがアメリカダンジョンのアタックに参戦するのかって、一部のリスナーが大騒ぎやで――」
頭を下げるマインちゃんに、千佳がじとーっとした目を向ける。
「まあ、それは後で。詳しい話を聞きたいな」
私がそう問いかけると、
「実は私の国で、今度四回目のボスへのアタックがあるの。だけども前回の失敗から、何も変化がないアタックで。リーダー、成果を出さないとって焦ってるみたいで……」
「なるほど……」
どこかで聞いたような話やな――と唸る千佳。
功を焦ったリーダーが、無謀なダンジョンアタックを計画し、そのメンバーが疲弊していくというのはダンジョン探索ではよくあることだ。
とはいえダンジョン大国であるアメリカの、トップですらそんなことが行われているというのは、にわかには信じがたい話だ。
……否、アメリカの中でもトップのダンジョンだからだろうか。
「それでもええんか? アメリカから見て、日本はダンジョン後進国やろ? そこに協力を仰ぐなんて、おたくの国が許すとは思えけど?」
「そこは現場の判断が最優先です。なによりフェニックスを単独で倒す実力――味方にできれば、これ以上心強いことはありません」
どうしよう、マインちゃんからキラキラした視線を感じる。
これは私のことを、異様なまでに過大評価している感じの眼差しだ。
「マインちゃん、私、連携とかできないよ?」
「大丈夫です。レイナちゃんのスタイルに全力で合わせます」
大真面目な顔で、そんなことを言うマインちゃん。
その表情は、普段のふざけたようなコメントとは違って必死なもので……、
「次こそは、メンバーの誰かが大怪我をして死んでしまってもおかしくありません。あの悪魔は――無策に挑んでも、勝てるような相手じゃないから」
「分かりました、受けます!」
「レイナ?」
千佳が、驚いたような顔で私を見た。
「だって、わざわざ遠いアメリカから私を頼ってここまで来てくれたんだよ。フェニックスに挑むことになるかもって危険も覚悟で、深層まで来てくれたんだよ。もう知らない仲じゃないし、困ってるなら助けたい。ダメかな?」
「はあ。レイナはお人好しやなあ」
千佳はため息をつくと、
「そうなる気はしとったで。……うちは、レイナがやりたいことなら止めないで。そうやな、どうせアメリカに行くなら思いっきり爪痕、残してきいや!」
そう背中を推すようなことを言う。
「という訳で、マインちゃん。私――……いいえ、ダンジョンイーターズは、今回の作戦に全面的に協力します!」
私は、マインちゃんにそう意思表明。
「あ、ありがとうございます!」
緊張していた様子のマインちゃんは、私の言葉に、立ち上がってぺこりとそう頭を下げた。
「あたいも、あたいも!」
「ミライちゃんは、流石にお留守番だね」
「え~っ! あたいもアメリカ、行きたいッス!」
「あまりにも危なそうだからね。今回は我慢して、訓練しておいて」
「ぶ~、分かったッス……」
「あの……、観光じゃないですからね?」
私たちの、いつもの脳天気なやり取りを困惑した様子で見るマインちゃん。
そうして私は、マインちゃんの参加するアメリカダンジョンのアタックに、助っ人として参加することになったのだった。
***
それから数日は、激動の日々であった。
なんせ私は、海外旅行なんて未経験。
まずはパスポートを取りに行くところから始まって、千佳を巻き込んでてんやわんやの大騒ぎをやってのけることになった。
「あの……、私、英語喋れないんですが……」
「任しとき!」
ちなみに悩みのタネの一つであった言語の壁は、千佳が急遽、翻訳装置を作ってくれたおかげでどうにかなる見込みである。日常生活においては周囲をふよふよと飛び回り、翻訳した結果を私に耳打ちしてくれる優れモノである。
配信で話題にしたら、めちゃくちゃ欲しがられた。さすがに大量生産はできない、と千佳はシャットアウトしていた。
今回の遠征には「我が国の威信がかかっている!」と、ダンジョン庁の面々も、全面的なバックアップを約束してくれた。
悩み抜いた私は「そうだ。アメリカのダンジョンで取れる名産品、まとめておきたいですね」などという依頼を投げ、担当者からは絶句される――なんてこともありつつ。
時は流れて、ついにアメリカに飛び立つ日が来るのであった。
まず驚いたのは、世間の注目の高さである。
確かに私は、SNSや動画配信ではそこそこ注目されるようになってきたとは思う。
しかし…………、
「ねえ、マインちゃん。これ、どうするの?」
「どうって……、普通に手を振って上げたら良いと思う」
「えぇ…………」
空港に到着した私たちを待ち受けていたのは、大勢のテレビ局の人間である。
凍りつく私をよそに、マインちゃんはテレビにも慣れているのか、ひらひらと手を振ってあげる余裕まで見せつける。
「マインちゃん、すごい」
「ダンジョンで認められたかったです……」
複雑そうな表情のマインちゃん。
アメリカダンジョンの最前線のアタックに、日本に対して協力要請があったというのは想像以上の大事件だったようで、マスコミが大々的に報じたのだ。
気分は、ちょっとした有名人である。
「きゃ~、レイナちゃん! 可愛い、すごい、格好いい!」
「ゆきのんも、向こう側に混ざらないで!」
「レイナ様の配信、楽しみにしてるッス。あたいもカニとフェニックスのソロ討伐目指して頑張るッスよ!」
「無茶しないでね!?」
ゆきのんやミライちゃんも、見送りに来ていた。
最後に千佳とも視線が交わり、
「行ってくるね」
「ああ。見せつけてきてやりな」
そう頷きあい、私はアメリカに飛び立つのだった。





