レイナ、異世界へのゲートをくぐる
翌朝。
私たちは、アメリカダンジョンの最深部へと向かっていた。
「レイナ、絶対に無事に帰って来るんやで。承知せえへんからな!」
「もう、千佳ったら大げさだよ」
そう施設で千佳と別れを済ませ、私たちはダンジョンに潜り始めるのだった。
彩音レイナの食卓チャンネル
【異世界】異世界でも美味しいもの食べる!【行くよ!】
……これでヨシ。
「食材の皆さま、こんレイナ~!」
"こんレイナ~"
"相変わらず枠名が適当すぎて草"
"ふぁっ!? そこ生配信でやるの!?"
"え、ゲートって配信していいのww?"
"ダンチューバーの鑑すぎるw"
"異世界突入前なのにいつも通りすぎて草"
「配信していいかって聞いたら、なんか普通に許可もらえました! なんと、全ダンチューバーでも初めてらしいです!」
ダメ元で職員の人に聞いたら、なんと普通に許可をもらえたのだ。
いわく「レジェンドオリジンの方々の当然の権利です」──とかで……、正直、その呼び名が定着していそうな事実からは全力で目を背けたいところだ。
「という訳で、今日はこれから異世界に飛び込みます!」
「飛び込みますッス!」
「飛び込ませます」
ミライとマインちゃんが、ぴょんとカメラに飛び込んでくる。
"ほんとに行くんだな……"
"今、世界で一番やばい配信始まってる?"
"修学旅行みたいなノリで異世界行くなw"
"でもレイナちゃんらしい"
"マインちゃん、久々のレイナちゃんコラボで楽しそう"
"食材一同、正座待機"
そうしてスマホドローンを飛ばしながら、私たちはアメリカダンジョンを突き進んでいく。
ちなみにアメリカダンジョンの厄介な点は、ゲートのすぐ手前に転移ポータルが存在しないことだ。
異世界に行くたびに、ある程度アメリカダンジョンの深層を自力で走破する必要がある。
「転移ポータル、作れないんですか?」
「技術的にはできるけど……、異世界は危ないから。足切りがあるぐらいで丁度いい」
私の疑問に、マインちゃんはそう答えた。
"なるほど、誰でも入れるようにはしてないのか"
"現地が危険すぎるなら、それはそう"
"足切りがダンジョン深層なの、基準が厳しすぎるでしょw"
"まあ、あのボス倒せって言われるよりは・・・"
「まあ、あのボスと戦わないでいいならセーフですね!」
私は、内心そうホッとした。
「流石に強敵でしたし、食べても美味しくなさそうでしたからね──」
しみじみと呟く私に、
"味で判断するなw"
"レイナちゃんの基準はそこなんよ"
"デュラハンまるかじりする女からも拒否られる深層ボスちゃん・・・"
"気持ち悪いボス=食べたくない、なの草"
ダンジョンの探索は、順調だった。
案内しているマインちゃんが、それこそ庭でも歩くようにダンジョン構造を熟知していたからだ。
「マインちゃん、すごいです! 全然迷いませんね」
「ん。何回も往復したから」
「何回も……」
「普通はそう何回も異世界前まで往復しないッスよね?」
ミライちゃんが、ちょっぴり引きつった顔で言う。
「ん、慣れれば楽。今なら日帰りで異世界に通える」
「ゲート、やっぱり日本にもほしいですねえ」
"マインちゃん、異世界通い慣れてるの強い"
"往復って言い方がもうおかしいんだよなあ"
"アメリカダンジョンを庭扱いするやつが複数人いる恐怖"
"またレイナちゃんが、さらっととんでもないこと言ってるw"
そんなことを話しながら、私たちは数時間かけてダンジョン奥地にたどり着いた。
「なるほど──これが、ゲート」
軍曹が、そう言いながらごくりと唾を飲む。
空間が、大きく歪んでいた。
洞窟の奥には、今もぽっかりと開いた裂け目が空いている。
淡く揺らめく光の向こうには、こちらとは違う色の空気が見えた。
異世界へと繋がるゲート──それは一度見たにもかかわらず、改めて前にしてみるとずっと存在感を増しているように感じられた。
"おおおおお……"
"画面越しでもやばい"
"これが異世界ゲートか"
"撮影厳禁だったよね!? これ、歴史的瞬間なんじゃ──"
"↑↑一応、辛うじて前回もレイナちゃん配信に映ってはいる"
"空気の色が違うってマジなんだな"
"やっぱりロマンあるわ……"
"怖いけど、見入ってしまう"
改めて映し出されたゲートを前に、コメント欄も大盛り上がりだ。
「ん、最終確認。ここを渡ったら異世界。向こうには瘴気がある。空気も違う。最初は無理せず、異常があったらすぐ言う」
マインちゃんが、淡々とそう告げる。
「ああ、分かった」
「分かったッス!」
「うん、了解!」
私たちは、勢いよくそう頷いた。
"ミライちゃんもちょっと緊張してる?"
"軍曹、さすがに真面目モードだ"
"レイナちゃんだけ返事の温度がいつも通りで草"
「転移直後は、酔うかも。そしたら目を瞑って、じっとしてる」
その後、マインちゃんはゲートに手を伸ばす。
目をつぶり慎重にゲートに身体を入れて──そのまま吸い込まれるようにゲートの奥に消えていった。
「おお……、本当に消えた──」
「ゲート、これが異世界への扉か……」
軍曹と豪腕さんが、険しい顔で顔を見合わせる。
ミライちゃんと長田さんも、まじまじとマインちゃんが消えていったゲートに視線を送っていた。
"マインちゃん、躊躇ゼロだ"
"手慣れてる・・・"
"見てるだけで緊張してきた"
"さすがに皆、緊張してそう"
"豪腕ニキさすがに顔が硬い"
そんな空気をものともせず、
「では次は、私が行ってみますね!」
私は、そう言って一歩前に出る。
そうして私は、目をつぶってゲートに飛び込むのだった。
"行ったぁぁぁあああああああ!!"
"早い早いwww"
"レイナちゃんが通常運転すぎる"
"待って、スマホも転移できるのこれww?"
"そのノリで異世界いくの!?"
"草草の草"
「──ワガ、フルサト。マサカ、コンナ、カタチデ、アシヲ、フミイレルトハ……」
肩の上のおもちくんが、感慨深そうにそんなことを言っていた。
その声は、ついぞ配信で拾われることはなかったそうな。




