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それから数日は二人とも引継ぎなど様々な事務に忙殺された。ファーデスは新たに企業の頂点に立つものとしていくつかの教育を受け、またオルディア家当主就任式の準備に追われていた。ナヴァル・ド・オルディアの社葬とともに、彼の就任式が行われるのだ。それがこの式典の中で最も大切な儀式といえた。
ピラカはまた、その準備の合間にファーデスの石を受けて長期間の旅行に備え、それぞれに必要な品物の準備や屋敷を空ける間の指示などを与えた。そしてまた、旅の間も旅行先の支社から本社(オルディアの屋敷)とコンタクトできるように操作し、また滞在先のホテルを押さえ、SP(特別警備)を雇った。
そんなこまごまとしたことをしながら、一日一日が飛ぶように過ぎていった。
社葬お呼び当主就任式の当日。オルディアの館から車で数分のところにあるオルディア私有のホールを用いて式は執り行われた。各惑星の取締役から直轄企業の社長に至るまで数千人の参列者を前に、ファーデスは胸を張って現れた。喪主として、そして新当主として。
喪服に身を包んだファーデスが壇上に立ったとき、人は誰も若い視界が現れたものだ、と思った。だが、少年は鋭い目でホール全体を見回した。その眼力に圧倒されたのか、ざわめきが収まる。それに満足して少年は深呼吸し、マイクを取り上げた。
「本日は亡き父のためにお集まりいただき誠にありがとうございます。父に代わって御礼申し上げます……」
そう言葉を発した途端、ホールは騒然となった。この少年がオルディアの喪主だと!それでは、彼が次期当主ということか!
だが、その騒ぎも無視してファーデスは言葉を続けた。流暢な喋り方だ。滔々と喋り終わったとき、再び彼は場内を見渡し、こういった。
「なお、父は私を本当の息子同様に扱ってくださいました。私も父の遺志を継ぎ、更なる発展を望むものであります。父の遺志をご理解いただけないのであれば、出て行ってくださって結構です」
それが何を意味するものか、明らかだった。場内が静まり返る。席を立つものは見当たらない。むしろ咳一つ聞こえてこない。
ファーデスは段を降り、席に座った。続いて事の成り行きに言葉を失っていた司会者が心の動揺を隠しきれない様子で進行を始め、献花が始まった。
ピラカは壇上に設けられたファーデスの後ろの席に控えながら、一部始終を見つめていた
……あの落ち着いた態度と不敵な表情は、とても十五歳の者とは思えない。
自分があの都市だったとき、どんな顔をしていただろうか。たとえばファーデスが拾われる前にオルディア様が亡くなられていたら、自分はあれほど立派に喪主を務めることができただろうか。
否。
これほどの存在感は示せないだろう。器が違いすぎる。
本当の子でないことを表明するのは危険が伴う。オルディアの身内が異議を唱えないとも限らない。が、ナヴァル・ド・オルディアの後継者は法律上にも彼以外にはありえなかった。だからこそ、あえて存在を謎にせず、本当の自分の姿をさらけ出したのだ。
ライトに照らされて、あの淡い金髪が豪奢に輝く。厳しく引き締められた口元、全てを圧倒する鋭い瞳。そしてとりわけその若さ。幼さ。それらがすべて、この会場では浮いて見えた。
彼を賞賛する声がないわけでもない。だが、大半は若すぎる当主に驚き、行く末を危惧するものばかりだ。
やがて分かるだろう、とピラカはため息をついた。オルディア様が彼を選んだ理由が。あえて血のつながった弟を選ばなかったわけを。それもそう遠くない。
式は着々と進んでいく。献花もすべて済み、式次第が全て終了すると、大きく掲げられたオアヴァル・ド・オルディアの遺影の前でファーデスのオルディア家当主就任の式が行われた。続いてファーデスの所信表明。
それらを通じて、参列者は改めて十代の後継者、新オルディア当主を知ることとなった。その若き外見に似合わない才能の片鱗を。あのオルディアが五年も前に見抜いたその器量を。そして彼らは知るのだ。この少年が単なるお飾りではないことを。おきれいな傀儡などではないことを。
まことしやかにささやかれるあの噂すらも、彼を浮き立たせる要素となっていた。
ファーデス・ド・オルディアの名は確固たるものとなっていく。やがて彼の名は、この星で、いや宇宙にあまねく知られることとなるだろう。
それは、ピラカにとっても楽しみなことであった。
式は終了した。ピラカは参列していた彼らを送り出していった。ホールのロビーには様々な有名人がたむろしていた。普通の人間でも利いたことのある名前の者ばかりだ。もしジャーナリストがいたら、目をむくことだろう。
彼の耳には様々な言葉が飛び込んでくる。ファーデスの若さに驚く声。あんな若造に任せておけないと憤る声。それはどれもピラカを通してファーデス自身に届けられるものだ。
最後の一人を送り出して、ピラカは控え室のファーデスを迎えに行った。オルディアの血に連なる者とのいざこざを予想して、特別に警護をしておいたのだ。
控え室に入ると、ファーデスは礼服からパーティー用のスーツへ着替えているところだった。
「お疲れでございましょう」
「疲れもするさ。だがこの程度はなんでもない」
微笑をかすかに浮かべる。しかし顔はいまだ厳しく引き締められたままだ。
「だいぶ緊張されたようですね」
「緊張せずにはいられないさ。どうだった? 反応は」
「大体予想通りですね。まず若すぎる当主を驚く声が大半、それから若いあなたには任せておけないという声」
「どれくらいだ?」
「危険はまずないでしょう。あなたを排除してオルディア様の血族を就けるような動きにまで発展する可能性は低いと思います」
「そうか、なら放っておこう」
ネクタイを締めなおし、髪の毛を払うとピラカに向き直る。
「まずまずといったところだな」
「そうだな」
まだ自分たちは第一歩を踏み出したところだ。だがその一歩目が肝心なのだ。一歩目を踏み誤れば、続く二歩目も異なってしまう。
「これからが大変ですよ」
「そうだな」
だがその口調とは裏腹にファーデスは微笑んだ。その笑みの中に強い遺志を読み取ることができる。
「そろそろ参りましょうか。披露宴も始まる時刻でございましょう」
髪に映える色のスーツに着替えた少年を促して部屋を出る。ピラカはその後姿を見ながら、微笑んでいた。




