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「やはりあなたでしたか」
忙しい執務の合間を縫って面会を求めてきた女性を、彼は招き入れた。
「……このままじっと、あの人が死んでいくのを待つおつもりですか?」
アガルティナはファーデスを正面から見つめた。
「ええ、彼は王を殺した犯人です。それ相応に裁かれる権利を持っている」
「……あなたの腹心の部下ではなかったのですか」
がっかりしたように言うと、ファーデスは薄く微笑んだ。
「ええ、でも彼は覚悟していました。いずれ王となる身の私が、手を汚してはならないと。そのために命をもかけるとね」
「……あなたのために命をかけた者を、あっさりと見捨ててしまえるのですか」
「それが、彼の望みです」
ファーデスは言った。
「私は王となる身だ。そう仕向けたのは彼の方です。私が彼を逃がすように手はずを整えたらどうなると思うのです? 結局私が王を殺させたことになる。彼はそれを望まなかった。調書は読まれましたか? 全く私のことを一言も言っていない。やろうと思えば私を巻き込むことだってできるのですよ。そうすれば、この事件自体を有耶無耶にすることだってできる……かつての事件のように。でも、彼はそうしなかった。それを望まなかった。だから、私は彼の望み通り、汚れのない王になるつもりです」
それが彼に対する報いだ、と言外に言う。アガルティナはそれを聴き終わって、立ち上がった。
「それでは、私が逃して差し上げれば、あなたの名に傷がつくことはありませんわね。その上、私の名誉が失墜して、あなたにとってもお得でしょう?」
ファーデスは彼女を見つめた。
「……あなたは本当に聡明な方ですね。ピラカから聞いていたとおりだ」
「いいえ、馬鹿な女ですわ。地位も名誉も振り捨てて、ただの一人の男のもとに走ろうというのですから」
とアガルティナはにっこりと笑った。
「……一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ」
「王を、父を殺したピラかを許せますか?」
「ええ」
彼女の微笑みにくすみはない。
「私は、血族を蹴落としていった父のやり方を好みません。もちろん、あなた方の展開した追い落とし作戦もですけれど。あの方が本当にフィラディア様の息子であるなら、父を殺す権利はあると思います。それに、これ以上の人の血が流れることを、私は望みません。それが最愛の人の血であればなおさらのこと」
「なるほど」
「それに、あなたもすでに許しているのではありませんか?」
言われてファーデスは口を閉じた。
そうなのだ。七年にもわたって共に歩んできた。ナヴァルが死んでからは特に、本当の兄とも思いながら、苦楽を共にしてきたのだ。それが全て計算ずくで、さらに七年間ずっと自分を裏切ってきた、と知れば腹も立つはずだった。
だが、怒りが湧いてこない。今まで、フィディアスに対して、王族に対して抱いてきたような怒りは感じなかった。むしろ自分の知らなかったピラカの一面を見て、唖然としてしまったのだ。あれだけ穏やかに微笑んでいた顔の裏に、これほど激しく燃え立つものを隠していたのかと。
敬服の念すら浮かんでくる。だからといって助けることはできない。それが腹立たしかった。
「私は、たとえ何があろうとあの方と一緒にいきたいと思いますわ」
「ですが、処刑は明日に迫っているのですよ?」
「あなたが命ずれば、彼をここに連れてくることはできますわよね」
「ええ」
アガルティナは微笑んだ。
「私は、王族の肩書も名誉も権利も要りません。あの方さえいてくださるなら全てを捨てても悔いはありませんわ」
そのためにはなんでもする。その思いをファーデスは受け止めた。
かつてのフィラディアのようだ、と思う。愛と王冠とを秤にかけて、愛をとった男。
ファーデスはため息をついた。そして確信した。この人なら、ピラカを本当の意味で救うことができるだろう。あの深い絶望の淵から。
「分かりました。手配しましょう。何ならおルディアノ情報網を使ってもいいです。ただし、もうこの星系には戻ってこれません。彼が脱走したとなれば、三つの惑星全部に手配書が回るでしょうから。それでもいいのですね?」
父の喪に服した女は頷いた。
「では、私の名を使ってください。オルディア系列の会社ならば何とかなります」
「ありがとうございます」
「それから、用意をしておきますから個人の船をお買いなさい。宝石の類をお持ちなさい。必要なだけ十分。三時間後には全て揃います。ピラカの部屋で要りそうなものは私が用意しておきます。いいですね。三時間後にはこの部屋にきてください」
うなずいてアガルティナは部屋を出て行った。
ファーデスはピラカを呼ぶよう言いつけた。係の男が渋るがそれを押し通す。
ピラカは精一杯のことをしてくれた。それならば自分にできる精一杯のことでお返しをしようじゃないか。




