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闇色の公子(最終稿)  作者: と〜や
第六章 闇色の公子
46/48

6-9

 一時間後、ピラカは二人の護衛官に伴われて部屋に入ってきた。護衛官を追い出して、椅子に座らせる。

 ピラカは半ば放心した表情でファーデスを見ていた。

「処刑は明日だと聞きましたが」

 今日これからやるのですか、と首を傾げる彼を、ピラカは二、三発ぶん殴った。

 牢獄での生活で体力が落ちていたピラカは、見事に椅子ごとふっとばされた。物音に驚いて護衛官が入ってきたが、ファーデスが殴ったのだとわかるとそのまま出て行った。

「ボケてる場合じゃない。ピラカ、あんた本当に明日殺されるつもりなのか!?」

「もともとそのつもりでした」

 ゆっくりと黒い瞳に光が戻る。

 ファーデスは彼に合いそうな服を見繕い、着替えるように言った。護衛官を言い含めて帰らせる。

 ピラカは訳がわからないなりにもあてがわれた薄いベージュのスーツに袖を通した。かつて、ジェグネにいた時に着ていたものだ。

 それから無精髭を剃り落とした。それだけで二歳ほど若返って見える。

 ファーデスはそのあと彼を座らせ、はさみで彼の長い黒髪をバッサリ切り落とした。

「ファーデス様!」

「前に聞いた時、もう少ししたら切ってもいいと言ったではないか。もうお前の念願はかなったのだろう?」

 意地悪そうにそう言い、ざくざくと切っていく。綺麗にまとまるように切ると、ずいぶん老けて見えた。これがあのピラかだとは誰も思うまい。

 ファーデスはそれから彼の部屋に残っていたものを取り出し、適当にかばんに詰め込んでいった。それから取り上げられたままの青い石の指輪を彼に渡す。

「本当は従兄弟同士だったんだな」

「申し訳ありません。今まで……いいえ、すべてを隠したままで」

「気にするな。それに、私にできるのはここまでだ。あとはオルディアのつてをたどってくれ。私の名でな。それから、アガルティナ姫だが、本当に賢明なお方だな。お前を救い出したいと言い出したのもあの方だ」

「そうでしたか」

 道理で、とつぶやく。ファーデスだけだったら、私は確実に明日、公開処刑されていたでしょう、と。

 するとファーデスはもう一度従兄弟の顔を両手ではさみ、言った。

「もう、死ぬなんて考えるなよ。お前にはアガルティナがいるんだから」

「……わかっています」 

 ピラカは年下の従兄弟を見上げた。不意にファーデスは泣きそうな顔になり、ピラ化に抱きついた。

「もう、会えないんだな……」

「ええ、ファーデス様」

「お前の毒舌を聞かずに済むと思うとほっとするよ」

 そう言いながら、微笑みながら、瞳は潤んでいる。ピラカは彼を抱きしめ返して微笑んだ。

「生きていれば会えますよ、きっと」

「姫がお前の逃亡に手を貸せば、もう姫ではなくなるだろう。姫には言ったが、もうこの星系には帰ってこれないぞ。もちろんジェグネにも」

「わかっています」

「……よく顔を見せてくれ」

 最後の見納めをしようというのだろう。ファーデスはじっと顔を見つめた。七年共に過ごした仲間であり、腹心の部下であり、精神的な兄だった。参謀であり、友であり、不思議な男だった。

「あなたこそ、これからが大変ですよ。王族が一人残らずいなくなったのですから」

「わかっているよ。お前の言った言葉は忘れていない」

 変革を望むなら、それ以上の力が必要なのだ。

「オルディアの当主もやめない。いつかリーシュラ殿を呼び戻して、共に歩んでいきたいと思っている。子供もいっぱい作る。皆に幸せになってもらえるように」

「あなたならば出来ましょう」

 だからあなたを選んだのですから。そう言いかける。だが、言葉にならず、彼は口を閉じた。


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