6-9
一時間後、ピラカは二人の護衛官に伴われて部屋に入ってきた。護衛官を追い出して、椅子に座らせる。
ピラカは半ば放心した表情でファーデスを見ていた。
「処刑は明日だと聞きましたが」
今日これからやるのですか、と首を傾げる彼を、ピラカは二、三発ぶん殴った。
牢獄での生活で体力が落ちていたピラカは、見事に椅子ごとふっとばされた。物音に驚いて護衛官が入ってきたが、ファーデスが殴ったのだとわかるとそのまま出て行った。
「ボケてる場合じゃない。ピラカ、あんた本当に明日殺されるつもりなのか!?」
「もともとそのつもりでした」
ゆっくりと黒い瞳に光が戻る。
ファーデスは彼に合いそうな服を見繕い、着替えるように言った。護衛官を言い含めて帰らせる。
ピラカは訳がわからないなりにもあてがわれた薄いベージュのスーツに袖を通した。かつて、ジェグネにいた時に着ていたものだ。
それから無精髭を剃り落とした。それだけで二歳ほど若返って見える。
ファーデスはそのあと彼を座らせ、はさみで彼の長い黒髪をバッサリ切り落とした。
「ファーデス様!」
「前に聞いた時、もう少ししたら切ってもいいと言ったではないか。もうお前の念願はかなったのだろう?」
意地悪そうにそう言い、ざくざくと切っていく。綺麗にまとまるように切ると、ずいぶん老けて見えた。これがあのピラかだとは誰も思うまい。
ファーデスはそれから彼の部屋に残っていたものを取り出し、適当にかばんに詰め込んでいった。それから取り上げられたままの青い石の指輪を彼に渡す。
「本当は従兄弟同士だったんだな」
「申し訳ありません。今まで……いいえ、すべてを隠したままで」
「気にするな。それに、私にできるのはここまでだ。あとはオルディアのつてをたどってくれ。私の名でな。それから、アガルティナ姫だが、本当に賢明なお方だな。お前を救い出したいと言い出したのもあの方だ」
「そうでしたか」
道理で、とつぶやく。ファーデスだけだったら、私は確実に明日、公開処刑されていたでしょう、と。
するとファーデスはもう一度従兄弟の顔を両手ではさみ、言った。
「もう、死ぬなんて考えるなよ。お前にはアガルティナがいるんだから」
「……わかっています」
ピラカは年下の従兄弟を見上げた。不意にファーデスは泣きそうな顔になり、ピラ化に抱きついた。
「もう、会えないんだな……」
「ええ、ファーデス様」
「お前の毒舌を聞かずに済むと思うとほっとするよ」
そう言いながら、微笑みながら、瞳は潤んでいる。ピラカは彼を抱きしめ返して微笑んだ。
「生きていれば会えますよ、きっと」
「姫がお前の逃亡に手を貸せば、もう姫ではなくなるだろう。姫には言ったが、もうこの星系には帰ってこれないぞ。もちろんジェグネにも」
「わかっています」
「……よく顔を見せてくれ」
最後の見納めをしようというのだろう。ファーデスはじっと顔を見つめた。七年共に過ごした仲間であり、腹心の部下であり、精神的な兄だった。参謀であり、友であり、不思議な男だった。
「あなたこそ、これからが大変ですよ。王族が一人残らずいなくなったのですから」
「わかっているよ。お前の言った言葉は忘れていない」
変革を望むなら、それ以上の力が必要なのだ。
「オルディアの当主もやめない。いつかリーシュラ殿を呼び戻して、共に歩んでいきたいと思っている。子供もいっぱい作る。皆に幸せになってもらえるように」
「あなたならば出来ましょう」
だからあなたを選んだのですから。そう言いかける。だが、言葉にならず、彼は口を閉じた。




