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闇色の公子(最終稿)  作者: と〜や
第六章 闇色の公子
41/48

6-4

「だから私に任せてくださいと申し上げましたのに」

 扉をゆっくり開けて、黒い影は姿を表した。

「ピラか、お前……」

 剣を取り落とし、振り返る。黒い影はゆっくりと歩み寄ってきた。まとっている黒服が、その髪が闇に溶ける。顔と手だけが異様に白く浮かび上がっていた。

 闇色に包まれた男は剣を手にしていた。その表情は無だ。顔がほの白く見えてくる。だが、その漆黒の瞳は、深い絶望の光を宿している。ちょうど、あの肖像画の瞳のように、闇を写したかのように。

 その顔を見た途端、王は顔をこわばらせた。恐怖の表情を浮かべ、手を震わせている。

 ピラカは残酷そうに笑った。

「やはり覚えていらっしゃったわけですか、フィディアス王」

「お、おまえは、やはりフィラディアの……」

 ピラカはゆっくり王に歩み寄った。剣が鈍く光る。

「それほど似ていますか? 父に」

 微笑む。その白い顔は能面のように妖しげだ。

「二十年以上たっても忘れられないでしょう? 自分で殺した兄の顔は」

「ピラカ!」

「あなたは、二十一年前に、自分の地位を危うくすると思って、フィラディア三世を毒殺した。同じように弟君のファロスも。警察の資料を見れば全ては明白です。それを王族あなたの一存で握りつぶした。自分の保身のために、あなたはこの星から出ていこうとしていた父を殺した」

 剣を突きつける。その指に光るのは、ファーデスの指輪とそっくりな指輪。

「ピラカ……おまえ、やっぱりフィラディア三世の……」

 男はゆっくりと少年を見つめた。いつもの優しい顔ではなく、冷たい冷徹な顔で少年を射すくめる。それから、さらに王に歩み寄った。

「このリングに見覚えがあるでしょう? かつて父の指を飾っていたものです」

 青い気品のある石。その中に浮かび上がるは冷たい鳳凰の姿。

「それは……」

「ええ、私はフィラディア三世の息子です。父が廃嫡される原因になった。あなたは父を殺した。母は知っていましたよ。父はあなたの行く手を阻むつもりは毛頭なかったことを。むしろ、王位という軛から解放され、自由になれたことを喜んでいた。あなたに感謝すらしていた。あなたはそれをご存知だった。それなのに、あなたは妄想にとらわれて父を殺した。母は、その全貌を知って、私に復讐を委ねて逝きました。私はこの機会を二十年も待ちました」

 せいせいとした口調で言う。

「それでは、私に近づいたのも」

「計画の上です」

 残忍な笑いを浮かべてみせる。思い切り。裏切り者だと罵ってくれればいい。信じるに値しない人間だと。

「夢の中で母が泣くのですよ。父を失った悲しみと、父を殺したあなたへの恨みのために。そして、早く早くと私を急かすのです。この二十年。あなたの首を刎ねる夢ばかりを見てきました。いつ殺せるか、いつあなたの首がいただけるのか。待って待って、待ちくたびれてしまいました。もう、限界です。ファーデス様をだますのも、自分自身を偽るのも」

 ニッコリと笑う。殺人狂の笑い。フィディアスはかすれた声を絞り出した。

「狂っていると思います? どちらが狂っているのでしょうね。あなたか、私か。……そうですね、私かもしれない。あなたの保身のために殺された父の復讐のためとはいえ、ファーデス様の復讐に手を貸して、あまつさえファーデス様の異腹の兄弟を不幸に追いやっていったのですから。かつてのあなたのように。……でも私は生きている。死して敗者となった父とは違う。だから、あなたを殺します。これ以上は待てません。今、殺して差し上げます」

 剣を抜く。よく手入れしてある。黒い姿に白刃が閃く。これほど美しい調和はなかった。

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