6-5
フィディアスも、観念したかのように身動きひとつしない。
「ピラカ!」
「止めますか? 父上の命乞いをしますか?」
ファーデスは顔を歪め、首を振った。これ以上見ていたくない。
それを否定と受け止め、ピラカは獲物に向き直った。
「私を殺し損ねたのが敗因ですよ。母だけでなく、私も一緒に殺しておけば、こんな事にはならなかったのですよ。こんなに長く、恨みを抱え込んだまま生きる必要などなかったのに。今度は、きちんと不穏分子は叩き潰しておくことですね」
それは奇しくも生き残ってしまった彼の、唯一の後悔だったのかもしれない。
刃を舐める。
ピラカはすべての恨みを込めて、ファーデスの恨みも込めて力いっぱい剣を振り上げ、振り下ろしたまるでそうせねば礼に欠けるかのように。
そして、ピラカの――否、自分が殺した男の息子の、人とも思えぬような表情を凝視したまま、フィディアスの首は宙に飛んだ。
ぼとっと、鈍器を落としたような音がした。生暖かい液体が頬に飛び散る。ファーデスはゆっくりと閉じた目を開いていった。首のない父の体は横倒しになり、ドクドクと生命の証である鮮やかな血が溢れてくる。先ほどまで生きていたことを証明するかのように力強く。
男は血に濡れた剣を舐め、その血を舐めとった。そして、血に足を浸しながら、憎い父の仇の首を、髪の毛を掴んで持ち上げた。にやり、と笑うその表情こそ、狂気の沙汰としか思えない。人の血をすする鬼そのものだった。
気がつけばファーデスは叫んでいた。目がまん丸く見開かれ、喉は振り絞らんばかりに大音声を上げている。それが自分の声だと思わなかった。
声がサイレンとなり、王宮は宴の後のまどろみから叩き起こされた。何事かと飛んできた衛兵はその惨状を見て目を覆い、口を押さえた。不運にも通りかかった婦人は、あっという間に気を失い、来賓の男たちは耐えられずに胃の内容物を吐き出した。
その狂乱の中で、父の仇の血に染まった闇色の公子は、冷徹に笑い、王だった者の首を掴んだまま、立ち尽くしていた。
今や彼は安らかな気分でいっぱいだった。たとえ今殺されたとしても、笑っていただろう。それほど心は落ち着いていた。これでゆっくり眠れるのだ。夢に脅かされることもなく。
そして、最後の悲劇は幕を開けた。




