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闇色の公子(最終稿)  作者: と〜や
第五章 季節はずれの嵐
32/48

5-4

「あの方もお気の毒に……」

 彼女と入れ替わりにピラカが入ってきた。少年の唇に残る紅に気がつき、ピラカは意地悪そうな顔をした。

「いつの間にくちづけなんて覚えたんですか。私は教えていませんよ」

 あわててファーアデスは唇を拭った。手の甲にほのかにピンク色が残る。その様子に、ピラカもため息をついた。

「まったく、この間といい、手が早いですねぇ。どこで覚えたのやら。で、何かおっしゃっていましたか?」

「ああ、ラヴィラに帰るそうだ。お別れに来てくだっさった」

「そうですか。そのほうがいいでしょうね。このままあなたと一緒にいて、結婚ということになれば、姫の不貞も疑われましょう」

「そうだな」

「早く体を治すことです。フィディアス様が寂しがっておいででしたよ」

「だがなあ」

 そういってファーアデスは頭に手をやった。血みどろになり、手術の邪魔になった髪の毛はさっぱりと切られてしまったのだ。

「残念がるかもしれませんね。ですが、命と引き換えになったと思えば安いものではないですか」

「……お前、ずいぶんなことを言ってくれるじゃないか」

 むすっとむくれたファーデスに、ピラカは薄く笑った。

「いいじゃありませんか。どうせ立太子式までには切ることになったでしょうし。踏ん切りがついてよかったんじゃありませんか? それに、願いも叶ったのですから」

「簡単に言ってくれるな。じゃあ、お前はどうなんだよ、その長い髪をさっぱり切ることができるのか?」

「今ですか?」

 ピラカの表情が曇った。

「もう少し待ってもらいたいですね。命と引き換えといわれれば切りますけど」

 それだけいうとピラカは立ち上がった。

「さて、もう帰ります。何か欲しいものはありますか? 着替えとか食べるものとか」

「今のところはないかな。オルディアのほうはどうなっている?」

「ご心配なく。うちのスタッフは優秀ですから」

 にっこり笑うとピラカは出て行った。ファーデスはつまらなそうにその背を見送り、ため息をついた。


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