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「あの方もお気の毒に……」
彼女と入れ替わりにピラカが入ってきた。少年の唇に残る紅に気がつき、ピラカは意地悪そうな顔をした。
「いつの間にくちづけなんて覚えたんですか。私は教えていませんよ」
あわててファーアデスは唇を拭った。手の甲にほのかにピンク色が残る。その様子に、ピラカもため息をついた。
「まったく、この間といい、手が早いですねぇ。どこで覚えたのやら。で、何かおっしゃっていましたか?」
「ああ、ラヴィラに帰るそうだ。お別れに来てくだっさった」
「そうですか。そのほうがいいでしょうね。このままあなたと一緒にいて、結婚ということになれば、姫の不貞も疑われましょう」
「そうだな」
「早く体を治すことです。フィディアス様が寂しがっておいででしたよ」
「だがなあ」
そういってファーアデスは頭に手をやった。血みどろになり、手術の邪魔になった髪の毛はさっぱりと切られてしまったのだ。
「残念がるかもしれませんね。ですが、命と引き換えになったと思えば安いものではないですか」
「……お前、ずいぶんなことを言ってくれるじゃないか」
むすっとむくれたファーデスに、ピラカは薄く笑った。
「いいじゃありませんか。どうせ立太子式までには切ることになったでしょうし。踏ん切りがついてよかったんじゃありませんか? それに、願いも叶ったのですから」
「簡単に言ってくれるな。じゃあ、お前はどうなんだよ、その長い髪をさっぱり切ることができるのか?」
「今ですか?」
ピラカの表情が曇った。
「もう少し待ってもらいたいですね。命と引き換えといわれれば切りますけど」
それだけいうとピラカは立ち上がった。
「さて、もう帰ります。何か欲しいものはありますか? 着替えとか食べるものとか」
「今のところはないかな。オルディアのほうはどうなっている?」
「ご心配なく。うちのスタッフは優秀ですから」
にっこり笑うとピラカは出て行った。ファーデスはつまらなそうにその背を見送り、ため息をついた。




