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「そう……」
アガルティナは兄セイディアの事件を聞いたとき、眉をひそめてつぶやいた。真っ先に浮かんだのは、金髪の少年ファーデスの悪魔めいた微笑だった。
自分の不安が的中した、と思わずにはいられなかった。弟グリスタが死に、妹サンディアナがまだ十四だというのに早々に嫁に出され、今度は皇太子であった兄セイディアの廃嫡。それに伴うファーデスの皇太子への繰り上げ。
これだけのことが、ファーデスが現れ、王室に入ってからわずか数ヶ月の間に起こったのだ。それまで安定し、平穏無事な日々を送っていた王族の間で。
彼を疑わずにはいられない。すべては彼を王位に押し上げようとする見えない遺志がそうさせたかのように思えてならないのだ。
彼女は思わず寒気を感じ、身をかき抱いた。
これほど恐ろしいと感じたことはなかった。あの、まるで天使のような外見に、悪魔の魂が入っているのだ、きっと。
次は自分の番だ、とアガルティナは思った。後は自分をサンディアナのように嫁に出すか、グリスタのように事故に装って殺せば、ファーデスの王位は確実なものになる。
腺だってピラかから聞いたフィディアスとフィラディアの件を思い出さずにはいられない。自分の地位をより安全にするために、兄弟を殺すことも厭わなかった父の姿が、少年にだぶって見える。
これが、政治。負けたものは二度と浮かび上がってこない。
グリスタやセイディアは負けたのだ。そして唯一の勝利者は、金の冠をいただいた十七歳の少年。
少年の意図が、いや、少年の描いたそれぞれの事件の筋書きが、彼女には見えた。その筋書きから一歩も外れることなく、兄も弟も妹も、次々と表舞台から姿を消していった。
どうやったらあの少年に抗うことが出来よう。どうしたら、その筋書きから踏み外せる?
ピラかのことがたびたび頭をよぎった。だが、あくまでも彼はファーデス側の人間。ファーデスに付き従い、王宮に入ってきた人間。いくら自分を大切に思ってくれていても、ファーデスの意図から外れることができるだろうか。……できるはずはない。それをあの人は私に語ってくれたはずだ。
――自分で何とかしなければ。
ファーデスは幸い怪我の生で入院している。二ヶ月は動けないという。その間に出来ることをせねばならない。彼が退院してくれば、国王はすぐさま立太子式を行うつもりだ。そうなれば、もう逃げ道はない。
二十歳を迎えぬ少女は、黒い瞳に炎を宿しながら、思いを巡らせていた。




