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リーシュラはそっと寝室を抜け出し、隣の部屋に通じる扉をそっとのぞきこんだ。中では自棄酒を食らったセイディアが高いびきをかいている。
柔らかなソファに身をゆだね、深くため息をつく。
……こんなはずではなかった。
彼女とセイディアは、政略結婚だった。十五を迎えたときに初めて相手と会った。それまで、いずれ逃れられぬ運命と恋の一つもしなかったリーシュラは、相手がセイディアであったことを感謝したのだ。それはセイディアも同様であった。
それからは政略結婚であることも忘れて、二人は急接近していった。そして婚礼の日を今日か明日かと待ち焦がれていたのだ。
彼女には夢があった。セイディアの良き妻となり、良き相談相手となり、子を産み、心和む家庭を作りたいと思っていた。そしてラヴィラの名を汚すことなく、立派に皇太子妃、ゆくゆくは王妃としてその勤めを果たせるようになることであった。
……なのに、どうしてこのようなことになったのか。
原因は分かっていた。あの青年なのだ。セイディア様がお気の毒なほど心をすり減らしている、金髪の青年。
ふと心ときめくのを感じる。彼の顔を、姿を想像するだけで、なぜこのようになるのか分からなかった。
セイディア様と一緒にいても、あれほどときめかなかった。
あの金の細い絹糸が、彼女を心を乱す。その美しさにときめいているのだ。
「ああ……」
ため息が口をついて出た。それは嘆きをあらわすものではなく、むしろ感嘆のため息であった。
ファーデスに食って掛かるセイディアの姿は、結婚前の凛とした姿ではなかった。嫉妬に狂い、周りが見えなくなってしまった狭量なだけの男でしかない。
それに比べて、ファーデスは余裕の表情を持って彼を見下している。これこそが帝王の器、と思わずにはいられない。
なぜ、これほどに心が動くのだろう。
いけない、と自分に言い聞かせる。自分はセイディア様の妻として、ラヴィラカラ嫁に来たのだ。ラヴィラの名に傷がつく。それに、こういうことを考えているだけで十分、自分はセイディア様を裏切っている。
だが思考はとまらない。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。認めたくないことだが、自分はあの人を愛し始めている?
そう考えた途端、顔が真っ赤に染まるのが分かる。
「愛?」
この、狂おしいほどの気持ちは、胸を締め付けるこの思いは愛なの? 抑えられないこの感情が愛なの?
「ああ……」
両手で頭を抱え、彼女はソファに倒れこんだ。このような恥ずかしい思いを抱こうとは! しかも夫以外の人間に。
どうしようもない、もう押さえられない。それは、十六にして嫁いできた、まだ幼い少女の苦悩であった。




