27 腐った混ざり者を取り除きます
ラシーヌ様は、今回の一行の選別をする際かなり細かい配慮をしたという。
親戚の家が取り潰しにあったもの、貴族の資格を失ったものでも、優秀なものは候補にいれ直接合否判定の現場に立ち会ったらしい。あと、貴族優先主義の家のものは弾いたという。つまり、すり替えが行われたのは、そのあと。本来出すべき家に合格通知を出さずに、ヘラルドが認めた家に合格通知を出したり、合格した姉を押し退け不出来な後妻の娘を捩じ込んできたり、様々な手を使ったらしい。故に顔と名前を見ればラシーヌ様には誰が不正をしているかわかるらしい。僕らは心を読んですでに知っているが、絶対にバレないと思っていた不正を王大后自らが断罪するとなればその家は大変なことになるだろう。
サロンに移動し、テーブルに夕飯を用意する。この国での序列は僕が一番なので、ラシーヌおばあさまには三番目の席を割り当てる。
時間が来たので、一行が僕たちのいる多目的室に入ってきた。
座る席にはあらかじめ名札を置いておく。
財務官としてやってきた、ケイトリン・ディ・ロザリウムが、自分の席次が低いことに激怒して、文句を言い始める。
「侯爵家令嬢の私が、どうして平民よりも席次が下なのです。すぐに取り替えなさい。」
そこで僕は声を抑えて、ケイトリンに答える。
「貴様、誰に向かって怒鳴っている?」
僕の怒りの波動が強い重力波となって全員を押し潰していく。
「わ、私は、この名札を置いた使用人に向かって言ったのであって、蒼様に言ったのではありませんわ。」
その返答を聞いたジルベールが怒気を顕に言い返した。
「たかが、無役の侯爵家の令嬢の一人が国家元首に命令するのか?仮に使用人に言ったとしてもだ。誰の屋敷に招かれていると思ってる。その家の使用人に怒鳴るということは、屋敷の主人を侮辱することと同じだ。お前はどのような貴族教育を受けているのだ。この席次を指示したのは俺だ。お前は、国家元首であるわが主人に対して、貴族の常識を教えるほど偉いのか?」
ウインドカッターを飛ばして、長い髪の毛を切り落とす。
「人の体に触れて奉仕するものが、そのような長い髪の毛を靡かせて歩くと言うのか?貴様はこの仕事を舐めてるのか?」
美しい豊かな金髪がバッサリ肩から下が切り落とされる。
きゃーー、と部屋のあちこちから悲鳴が上がる。切り落とされた金髪の束を握りしめ、僕とジルベールを睨みつけながら怒鳴った。
「国民もいない、形だけの街の当主が、歴史ある我がロザリウム侯爵家に楯突いてタダで済むと思っているの?」
それを聞いた僕たちは顔をみ合わせると、ニヤッと笑って答える。
「ほー、ロザリウム侯爵家とはそれほどまでに力のある名家なのか?ならどちらが強いかわからせてやろう。最近僕体動かしてなかったから、ちょうどいいかもね。」
楽しそうに僕がいうと、ジルベールも
「そうだな。一緒にロザリウム侯爵家に乗り込んで、全部ぶち壊してやろう。あ、高く売れそうなものは先に確保しとこうな。」
「成金趣味の下品なものしか置いてないんじゃないか?」
「母、確かに。じゃあ金属は全部溶かして作り直しを指示しよう。」
楽しそうな僕達の会話を聞いて、射殺さんばかりに睨んでいる、ケイトリンとは対照的に、ラシーヌおばあさまは真っ青な顔をして倒れそうだ。なのに、床に手をついて僕達に許しを乞う。
「蒼様、ジルベール、どうかお許しください。」
それをみた数名のものは同じように床に跪き許しを願った。何が起こっているのか理解できていない者は、すり替えを行って入り込んできた偽物たちだった。
「貴方様が手を下せば、罪を犯した者の断罪ではすみません。全く関係のない民達も巻き込まれてしまいます。罪を犯したものには必ず罰を与えます。何卒寛大なご処置を。」
ラシーヌ様は流石によくわかっていらっしゃる。いつものおばあさまモードをここで発令してはいけないことを。僕も大好きな彼女を悲しませるのは本意ではない。ただあのようなバカな貴族を理解させるためには、中途半端に口を挟めば、僕たちは自らの権威を守るために、徹底的にやり込めなければならなくなる。
「いまだに呆けて、何もわかっておらぬアホたちが理解できるとは思わぬが。」
一刻の主人が跪いて赦しを乞う姿を見ても、また呆けて何をするべきかもわからない阿呆達にいい加減うんざりしながら指摘する。
「お前たち何をしておる。蒼様の御前である、頭が高い、控えなさい」
ラシーヌ様にそう怒鳴られて、周りのものに手を引かれて、やっとイヤイヤ地面に手をつく。
「おい、貴様。お前の家が俺を滅ぼすんだったか?面白いやってもらおうじゃないか。」
最初に僕に喧嘩を売ったケイトリンに話しかける。
「ジルベール、悪いけどこいつの父親を連れてきてもらえないか?」
「わかった」
陰に潜っていくジルベールを見て、ひいっと恐怖の声を出す。
やっと僕らの恐ろしさの片鱗を理解し始めたバカ達は顔をこわばらせ、先ほどまでの強気な態度はすでに消えていた。起き上がったラシーヌ様は不正を行った者達に言い放った。
「ミリア、ゾフィー、セシル、イリヤ、ウリナラ、お前たちが、私が合格を与えたものを押し退け、入り込んできたのはわかっている。メイリーン、お前は私の信頼を裏切ったことをどのように考えておる?」
さっきまで他人事だと言う顔をしていたメイリーンが急に慌てたように弁解を始める。
「私は、ヘラルド様から指示された通りにしただけでございます。合格者が変更されることなどよくあることでございます。もともと疑問のある結果でしたので、妥当なラインに変更されたと聞けばそうだと信じます。」
それを聞いていたラシーヌ様は今まで見たことがないほど怒気をあらわにした。
「黙りなさい。お前ほど長く使えておるものが、盲目的にヘラルドの指示に従ったなど、信じると思うか。其方の意向に合わぬ命令なら必ず私の元に確認に来たであろう。この期に及んで、ヘラルドが不正を働いていることを知っていながら加担したことを隠すとは。ヘラルドは死にました。お前も後を追って死にますか?」
その声を聞いたメイリーン以下不正を働いていたものは顔を青くさせる。自分たちがやったことが死に値することだとは考えず、軽く考えていたのだろう。皆が恐怖に怯えている最中、目の前の床からジルベールが、貴族の男の首根っこを持ったまま帰ってきた。小太りの赤ら顔の男が喚きながら暴れているが、ジルベールの戒めから逃れられないでいた。
「ジルベールありがとう。お前がロザリウム侯爵か?」
あえて尊大な態度で、ジルベールが首根っこを掴んでいる男に問いかける。
「貴様は誰だ。問答無用でこんなところに連れ出して。こんなことをしてタダで済むと思ってるのか?」
忌々しげに、僕を睨みつけるが、鑑定するとあまりの雑魚スペックに哀れみすら感じてしまう。
「黙りなさい、アストン。蒼様になんと言うことを。」
「ラ、ラシーヌ様」
ラシーヌ様が厳しい顔で立って自分を見ていることに気づくと、不貞腐れながらも、表向きは控えた態度を取る。
「おい、お前の娘が、お前は僕を滅ぼせるほどの力を持っていると言うのだが、本当か?」
跪いてるやつの前に立って、やつの後頭部を見下ろしながら問いかける。すると、顔を上げて僕の顔をまじまじと見る。
「蒼様?黒髪の子供、金髪の子供、ツインエンジェル。」
僕らの特徴を口に出してぶつぶつとつぶやく。すると突然何か合点がいったのか
「た、大変申し訳ございませんでした。娘にはよく言って聞かせますので、何卒お許しください。」
と、急に謝罪モードに突入。本当に感情変化早すぎだろう。
「許す、許さないは僕が決めることだよ。それより、君にはそれほどの力がると?試したいなら、相手になってあげるよ。君の持つ武力全てでぶつかってくればいい。でも。僕が勝ったら君たちは皆殺しの上、君の領地は草も生えないほどの荒地になるだろうけどね。」
「申し訳ございません。どうかどうか我々に挽回の機会をお与えください。」
「今回の合格者の差し替えは誰の差金だ?」
「・・・・・・・・。」
「そうか。よくわかった。言うつもりがないと。」
「いえ、言えないのです。契約魔法を使いましたから。」
「ああ、そう言うこと」
僕は、アストンの前に立つと、額に人差し指を向け、そこから契約魔法を引っ張り出す。最初抵抗していたが、僕の魔力に叶うはずもなく、あっさりと壊れてしまい、解除されてしまう。
「契約魔法は解除させてもらったよ。誰が黒幕かと言うことについても理解した。契約魔法を壊したわけだから向こうの術者の体に異変が出ているだろう。ゆえに、すぐに君に接触してくるだろう。いや、殺し屋を差し向けるか。まあでも、すでに情報は取れてるので別に問題はない。まあ、せいぜい殺されないように頑張れ。」
「そんな、どうかお助けください。」
「いや、お前は僕に協力しなかった。僕が助ける義理がどこにある?その上、頭の中は空っぽの高慢な娘を量産している。害悪と言わず、なんという?その上、侯爵家当主なんだ、護衛ぐらい雇えるだろう。」
とりつく島を与えず、けんもほろろに断る僕にラシーヌ様が提案する。
「蒼様のお怒りは至極ごもっとも。しかし一度だけ、この者に仕事を任せてみましょう。それができればよし、できなければ蒼様のよろしいようになさってください。」
肩をすくめて、考えるふりをする。
「ラシーヌおばあさまの顔を立てて、そうしようか。では、ラシーヌ様が本来合格を出した娘たちをすぐに集めてベリスのラシーヌ様の離宮に連れてくること。できるか?それと、偽物候補者たちを返すので後のことはお前の方でやっておけ」
「命に代えましてもやり遂げます。」
「では、その言葉一度は信じよう。それから、共和国のお友達が接触してきたら、僕が直接お礼しに伺うと伝えておいてくれ。」
「は、はい。承知しました」
これ以上の会話は必要ないと判断した僕は、一瞬で、偽物候補とアストンをおばあさまの離宮に転移させる。
「ここまでくれば、どうにかできるな?あとは頼んだぞ」
そう言い残すと、イリディングルに蜻蛉返りする。
「偽物たちは、いなくなった。これからの研修は、みんなたちで頑張ってください。本来の候補者が揃ったら合流させるからね。ご飯がすっかり冷めちゃったね。今魔法で温めるから、一緒に食べよう。」
『ヒート』の魔法をかけ、湯気が立つように夕飯を温め直すと、みんなで食事を始める。顔がこわばっているけど、まあ仕方ないよね。おばあさまには目でごめんねの合図をして、先ほどまでのことはなかったように、楽しく食事をした。




