26 エステティシャン研修生御一行様到着
【新暦586年11月27日】
城に帰ると、ベロニカとジュリアさんはMESH TOWERの自宅に帰った後で、エレンやアンドレたちは自分たちの家に帰った後だった。急に静かになった城に寂しさを感じたけど、ガイヤが出てきてくれた。
「蒼様おかえりなさいませ。ラシーヌ様のところから、管理官だけでなく、エステティシャン候補生と5名の違法奴隷たちがラシーヌ様のお部屋でグレンとすでに会議を始めております。ベロニカ様たちは準備のために一足早くタワーにお帰りになりました。」
「わかったありがとう。僕らも会議に参加するから、紅茶をお願いできる?姿は表さなくていいからね。」
「はい。承知しました」
ジルベールと目配せするとラシーヌ様の部屋へと急ぐ。あの部屋会議用の机なんてあったかな?
「失礼しますね。皆様遠いところをよくお越しくださいました。蒼です。」
「ジルベールです。」
部屋に入っていきながらみんなにご挨拶をする。すると中央に座っていた一人の女性が立ち上がり丁寧に礼をしたのち、自己紹介を始めてくれた。
「初めまして。今回のエステティシャン研修生たちを束ねます、メイリーン・ディ・アムスコールでございます。よろしくお願いいたします。」
案の定小さなテーブルで話し合いをしていたので大きなダイニングテーブルを出して、そちらに座り直してもらう。ガイヤの準備してくれたお茶とお菓子ができたようなので、みんなの前に魔法で設置する。
「お口に合うかわかりませんが、よろしければぜひお召し上がりください。」
~ガイヤありがとう〜
〜恐縮です〜
みんなに気づかれないように念話で感謝を伝える。
「狭いところに申し訳ありませんでした。グレン話し合いはどこまで進んだの?」
「はい。講習のカリキュラムとテキストをお渡しして、座学と実技の研修のさわりをお伝えしたところです。」
「一人で対応させてごめんね。お疲れ様でした。アムスコール伯爵夫人それでは皆さんが研修中に泊まる宿舎と研修を受けるサロンにご案内いたしますがよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いいたします。」
『転移』
なんでも転移しまくってるけど、近距離の移動用の馬車と車は早めに作っておくべきだよね。なんでも魔法は良くない。
「ここは、MESH TOWERの中にあるホテルのロビーです。まだ正式オープン前ですので閑散としていますが、ここでチェックインつまり、宿泊の手続きや会計などをこのカウンターで行います。あそこのソファーテーブルのゾーンは待ち合わせ場所です。皆様にはこのホテルの部屋を使っていただきます。最初は、研修中のスタッフに部屋の用意はさせますが、毎日の清掃、片付け、リネンや服の洗濯はご自分でやっていただきます。ここにしかない便利な魔道具がありますので、楽だとは思いますが、くれぐれもご自分の立場を傘に来て偉そうな態度を取らないように。エステティシャンは技術を備えた専門職ですが、相手を思いやる心がなければ絶対に大成しません。最初に一番大切なことなので言っておきます。」
ふふふ。いい子もいるけど、問題児も結構いるね。困ったなあ
「ジルベールだ。蒼は優しくて君たちから見たらガキンチョに見えるだろう。だが、彼がこの国のトップだ。君たちの国の王族達と顔パスで会えるくらいの人間だが、貴族ではない。貴族の権威などここでは紙屑ほどの価値もない。ここでは、己の実力だけが判断の材料になる。ゆめゆめバカなことは考えないように。185家の貴族家を廃したのは蒼だ。それが許される立場の人間であると言えば察しの悪いお前達でもわかるだろうか。アムスコール伯爵夫人しっかり手綱を握っておくように。」
ジルベールにしては珍しく強い調子で、語ってる。やばい奴らの匂いを嗅ぎつけたみたいだね。それにしてもおかしいな。ラシーヌおばあさまのセレクションで、そうしてこんなのが入ったんだ?名指しされたアムスコール伯爵夫人は顔面蒼白になっている。彼女自体は嫌な感じはしないんだけどな。でも、明らかに幼すぎる子やどこぞの家の間者と丸わかりのもの、強い香水をつけてアクセサリー過多な女が数人。財務や運営といった、裏方スタッフとしてきているのに、夜の商売の香りがするっていうのもありえないんだが。
研修をするサロンに連れて行く。その後、宿泊する部屋を紹介して、部屋で荷物の整理をさせる。部屋の備品の使い方、食堂の場所、階の移動の仕方、
立入禁止区域などの説明を行う。明日から授業を始めると通達し、昼食の弁当を配り、部屋で食べるように指示する。夕飯は夕方の6時にサロンの中の広間に集まるようにと連絡した。一行がいなくなると、グレンに伝える。
「かなり問題児が紛れ込んでいる。多分ラシーヌ様にバレないように入れ替わっているんだと思う。なんで、これからラシーヌ様を迎えに行ってくるから、グレンはゆっくりしていて。あと、授業中もグレンの指示を聞かない研修生は即刻追い出してかまわないから。グレンは強いから負けることはないと思うけど、一応安全のためにベロニカと常に一緒にいてね。」
「わかった。心配してくれてありがと。まあ、頑張るよ。」
それじゃまた後でと声をかけ、僕らはラシーヌ様の元に飛んだ。
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「ラシーヌお婆様。」
「蒼ちゃんどうしたの?うちのはもうついてるかしら?」
「お婆様、違法奴隷の5人はどうしました?」
「え?あの子達と一緒に行くように指示を出したけど。うちの侍従長に」
「きていないし、明らかにお婆様が選んだはずのないメンバーが数名紛れ込んでいます。侍従長に合わせてもらえますか?」
お婆様が侍従長を呼び出す。50代の体の大きいイケおじだ。
「王大后様、お呼びと伺い参上しました。」
「ヘラルド、私はお前に17名のエステティシャンの研修生一行とともに5名の違法奴隷を転移門を使いイリディングルへ同行させるように命じました。それは覚えていますか?」
「はい。覚えております。そしてそのようにいたしました。」
「嘘はいけませんね、ヘラルド」
僕が横から口を挟む。
「何者だ小僧。ラシーヌ様の権威を笠に来て偉そうに。」
そういうとナイフを三本投げてきた。かなりの腕前だ。予備動作なしでこの飛距離と精度。暗部の出身か。
『分解』
ナイフを分解し、アイテムボックスに収納する。
『クロスバインド』
光魔法の十字架に縛り付ける魔法だ。
「ヘラルド、私の孫達になんたる無礼。」
「ラシーヌ様、目をお覚ましください。そいつらはただの得体の知れない子供であって、王家の血など一滴も流れておりません。」
「暗部の出だけあって、なかなかのナイフの腕前。そのことに関しては褒めてあげる。しかし暗部の出身であるならもう少しきちんと情報収集するべき。お前の頭の中を先ほど覗いてみたが、お前を一言で表すと【中途半端】だ。」
ギン、鋭い目つきで僕を睨む。この言葉はあいつの一生でいつもついて回った言葉だからだ。
「おばあさま、先に言っておきます。命乞いは無用にございます。私も助けてやりたい気持ちもありますが、御使である私に刃を向けたのです。生きて許されることはありません。」
ラシーヌ様はなんとか言葉を飲み込んでくれた。心の中の声が聞こえるから、聞き届けてやりたいのだが、ここまでアロンに染まっていれば僕の手には負えない。
「ヘラルド、良い使用人というのは、主人の言葉の意味を正確に受け止め、主人の意思を実現するために努力するものだ。お前は自分の考えを実現するためにラシーヌお婆様の言葉を利用した。主人の意思を無視して自分の考えを実現するために利用した。それなのに、自分は忠実なラシーヌ様の配下だと思ってるんだから、救いようがない。」
ジルベールが語った後に肩をすくめる。
『悪夢の棺桶』
光に十字架に括り付けられていたヘラルドが大きな黒い棺桶の中に吸い込まれていった。
「お婆様、まだ間に合いそうなのでいきます。ヘラルドの大罪を見せてやりましょう。」
僕らは、ベリスの郊外にある、『殺戮と暴虐の神 ギガス』と『虐待と復讐の神 エレンギオス』を祀る『黒の月神殿』まで、魔動バイクでぶっ飛ばしてきた。そのまま、地下の神殿内部に押し入る。そこでは多くの神官によって祈祷が行われており、真ん中に縛られ磔にされていた5人の生贄達が今まさに炎の中に投げ込まれるところだった。
『ウォータージェット』
大量の水を炎の中に流し込む。慌てふためき、逃げ出すもの、武器を持って向かってくるもの。
混乱の最中、ジルベールは5人を自らの亜空間の中に取り込み保護する。
「誰一人逃さない」
僕はぎりっと奥歯を噛み締めると、自分たち以外のすべての人間を吸い込む。
『ブラックホール』
上空に現れた黒い大きな穴は、ただ静かにすべての人間をその穴に収めていく。その様をなんの感情もない表情で淡々と眺めていた僕は最後の一人を吸い込んだ後、ジルベールとラシーヌお婆様を連れて外に出た。
『メテオ』
上空に小惑星を発生させると、神殿に向かって落とした。周りは結界で包み、外部への被害を最小限に抑える。邪神といえど、長らく信仰の対象とされている神二柱。神像は壊せないとわかっていたので、人間が出入りできないように、その上の建物を破壊し尽くし、神像の上に積み上げる。
崩れ果てた邪神の神殿を一瞥すると、僕はラシーヌ様の部屋に転移する。
「なぜ、ヘラルドは許せないと言ったか分かりましたか?邪神の贄にするためにあの5人を売ったのです。散々辛酸を舐めさせられたもの達にです。」
「・・・・・。本当にごめんなさい。私に人を見る目がないばっかりに」
「いいえ。お婆様に落ち度がないのはわかってるんです。僕の常識はこの世の非常識ということもわかっています。最初は悩みました。こちらの常識に合わせるべきかもって。でも、もしそうなら、僕がこの世界に呼ばれることはなかったはず。だから、この世の貴族の常識から外れると言われようと、神の名の下に僕の常識に従って行動します。悲しい思いをさせてごめんなさい。」
5名は今ジルベールの中で眠っている。これ以上彼らに辛い思いはさせられない。
「彼らを連れて帰ります。夕飯の場所で、私を謀ったものは、イリディングルを追放します。転移門も馬車でさえも使わせません。彼らが生き残れるかは彼ら次第。神のみぞ知るです。」
そう言って、僕はジルベールとともに転移しようとした。
その時ラシーヌ様が僕の手を握って引き留めた。
「私が直接確認すれば防げたことです。これ以上蒼ちゃんに迷惑かけたくない。責任は自分で取るわ。あなた達を謀ったのはもちろんだけど、私を騙したのよ。そんなこと許せるはずがない。私にケリをつけさせてもらえるかしら?」
しばらく見つめあって、お婆様の本心がわかったから、ジルベールと二人頷き返して、一緒にイリディングルへ戻ってきた。MESH TOWERの僕の家に着くと、ジルベールの中から、5人の彼らを外に出す。客間に寝かせてあげて念話でシカにお願いする。
〜シカ、この子達は僕らが帰るまで起きないように魔法をかけてあるから、様子を見てもらっていいかな?〜
〜はい、リンと共に見守っておきます。〜
〜ありがとう〜




