25 ランドサットの屋敷に手を入れます。
25 ランドサットの屋敷に手を入れます。
【新暦586年11月27日】
朝目覚めると、ジルベールはまだ眠っていた。ジョセフィンお母様とラシーヌおばあ様はBBQの後、離宮に戻られたけど、他のメンツはまだ屋敷で眠ってるはず。カーテンを開けるとまだ薄暗い空が広がっていた。
ちょっと素材を使いすぎて、アイテムボックスの中のストックが心配になってきたので、ダンジョンに転移してアイテム採集とドロップアイテムの回収に勤しむ。1時間半弱の時間で7、12、16、19、32の5階層を回る。最近はどんどんスピードが上がってきている。宝箱の内容はバランスを取るために前のようなものは出ないようにしている分、通常のドロップアイテムや、資源は豊富に採れるようになっている。
今日はラシーヌおばあ様のところから、エステ隊の統括が打ち合わせに来るだろうし、セリーヌ達とランドサットに行って屋敷の改装と王城との連絡通路の手入れを行う必要がある。転移門の設置を終えたら、使用人の募集をかけよう。ランドサット、ベリス、オローラの3つの屋敷は、普通の使用人を置いて管理させよう。どうしても外との連絡に使われる屋敷だから、家精霊を使うよりもいいだろう。
白鳥城に戻ってシャワー浴びて身支度を整える。ダイニングに行くと、エレンとアンドレさんが朝ごはんの支度をしてくれていた。
「あはよう、エレン、アンドレさん」
「おはよう、蒼」
「おはようございます、オーナー」
「エレン、魔動船の模型と設計図を渡しておくね。お願いしたいのは船のエンジン。富裕装置は僕の方で魔法陣を組むから、推進力と船内で使うエネルギー供給のためのエンジンの開発をお願いします。」
そう言って、王族達に見せた模型と、自分のために設計した、ノアールとブランの2隻の魔道船の模型も見せた。グリッターブラックとグリッターベージュの2色をベースにした魔動船で、速度攻撃力を重視したノアールと、乗員乗客の数を増やして、快適な装備を満載にしたブランの2隻を自分のためにつく予定だ。
「すごい、もうこんなに細かいとこまで設計ができてるのね。これだったら、ベースはもうできてるから、この船に必要な出力を計算してそれに合わせて調整するだけだから問題ないわ。それより、ラシーヌ様に頼まれたバイクの方が問題だわ。エンジンは大丈夫よ。でも車体のデザインはできないから蒼がやってくれる?」
「ああ、それもさ、最初作ろうと思って没にしちゃったやつがあるから。それを使ってよ。」
エンジンが作れなくて断念した模型と図面を引っ張り出す。
「ああ、助かったわ。それじゃあ任せておいて。多分いろんなところで要望が出てくると思うから、数台作っておくわ。あと、車もね」
「よろしく。車の図面はないから、よろしくね。」
「得意ではないけどやってみるわ。一応車屋の娘だったしね。」
「ああ、そうだったっけ。ああ、街の車整備工場だったっけ?」
「そうそう、それから、この世界だと欲しい調味料が買えないから、調味料専用の会社作ろうかとアンドレと話してたんだけど、どう思う?」
「すごいいいと思う。いろんな調味料、スパイス・ハーブミックス、合わせ調味料なんかを扱うお店はこの街の名物になるよ。アンドレさんのレストランの一角でも売ってもいいしね。レストランの味をお家でもって、聞いたことのあるキャッチフレーズだなあ」
「ふふ、そうね」
エレンと話し込んでいると、セリーヌとアリサとセディがやってきた。
「三人ともおはよう。」
「あら、蒼おはよう。」
「朝ごはんできてるから、好きなところに座って。」
ワンプレートに可愛く盛られた朝ごはんとホットミルクの入ったカップを三人の前に置く。
「「わあ。可愛い」」
くまさんの顔を描いたパンケーキに、アリサとセディが歓声をあげる。
二人のプレートを覗き込んでセリーヌが
「まあ可愛い。」
と声をあげる。口パクでありがとうって僕に向かって言う。
「ゆっくり食べてね。セリーヌ今日はランドサットの屋敷に行って、屋敷の手入れと、お城との連絡通路の改善、転移門の設置とちょっと忙しいよ。それから屋敷の従業員は全員解雇してあるの?」
「じゃあ朝食を済ませたら早速向かいましょ。従業員は解雇しているけど、まだランドサットにいるでしょうから、声をかければ集まると思うわ。それよりも、ランドサットには仕事を求めて人が溢れているから、よその屋敷の使用人も集まると思うわよ。」
「そうなんだ。じゃあ、今日募集をかけてもらって、明日面接をしようかな?それでいい人材が見つかったら、僕の他の屋敷の授業員も雇おうと思う。文官と武官も見つかったら嬉しいけど。」
「あらそうなの?それじゃあ、その辺りは私が集めるから、面接して、気にいった人だけ採用して。」
「そうだね。」
ジルベールが大きく伸びをしながらダイニングに入ってくる。
「おはようジルベール。」
「おはよう、蒼。セリーヌも二人もいたんだな。おはよう。」
「おはよう、ジルベールおじさま。」
「正しくは大叔父だけど、呼び捨てでいいぞ。誰もそんなふうに俺を見て思わないだろうからな。」
「じゃあ、おじさまでお願いします。^ ^」
オウっと右手を上げながら出された朝食を食べ始める。
「それはそうと、セリーヌの母方の家族は今どうしてるんだ?」
ちょっと気になっていたことをセリーヌに聞いてみた。
「お母様には、お兄様が一人、弟が一人、妹が二人いました。妹は、母違いの側室達の子供だったので、お母様との関係は薄かったようです。前ヴェゼルウェ侯爵夫人はまだ存命で、前侯爵は亡くなりました。今では、母の兄であるアスター伯父がヴェゼルウェ侯爵家を継いでいます。ウィル叔父様はダイセル伯爵家を継いでいます。ジュリアナ叔母様はロードスター子爵夫人に、ミリアム叔母様はベリンガム男爵夫人になりましたが、ロードスター家とベリンガム家が先の問題でお取りつぶしになりましたので、アスター伯父様が引き取って援助しているようです。」
「そうだったんだ。わかった。でもいつまでもヴェゼルウェ家が面倒見るわけにもいかないだろう。彼らにも現実に向き合ってもらわないと。それで彼らは仕事はできそうか?」
「どうでしょうか?ずっとお嬢様、奥様扱いで来た二人ですから、働いて糧を得ると言うことができるかわかりません。でも、それにも慣れてもらわないと。伯父様の奥方との折り合いがあまり良くないようなのです。それで、先日も伯父様から安く譲ってもらえる屋敷はないか問い合わせを受けていたところです。」
「あまりにも多くの貴族家を断罪したことで、こう言う問題が起きることはわかっていたんだけど、毎日忙しくてそこまで気を回せなかったんだよね。
それで、そう言う夫人達の中で見込みのありそうな人たちの再就職に必要な技能を学ぶ学校を僕が作るから、そこの運営をセリーヌに任せたいんだけど、どうだろう。たとえば、服飾に詳しい女性には、服飾師や、服飾アドバイザー、コーディネーター、デザイナーなどに転身してもらう。貴族マナーに詳しい夫人には、令嬢教育の学校の講師を務めてもらう。女性でも武力に秀でるものには女性騎士の教育、光魔法の素養の高い婦人や令嬢には聖女教育を、政治に明るいものには行政官にと色々考えているんだ。学校の場所は国に用意してもらって、中の教育課程の設定と講師陣の準備、給与の支払い、勤怠の管理などをセリーヌが選んだ信頼できるものに依頼したい。いくつかの講座は僕たちが担当してもいい。おばあさまとお母様にも講師をお願いするつもりだ。」
「そうですね。このまま放置して良い問題ではありませんね。でも、男性の方はどうするのですか?」
「男性貴族はほとんど学園を出ていると聞いたのだが。ある程度のことはできると踏んでいるんだが。あいつらも再教育が必要か?」
「人によりますね。貴族の権威を傘にきて努力しなかったものも多いですが、それなりに勉強しているでしょう。ただ新しい仕事に就くものには再教育は必要だと思います。」
「そうだね。うーん。その辺りはもう少し熟考が必要だと思うから、とにかく、婦人と令嬢の扱いを決めよう。それに気づいていると思うけど、これから貴族は減らしていく。王家直下の官僚や武官として働いていってもらうつもりだ。そうしないと、統治コストが高くなり、民の生活が上を向かない。
民間にも優秀な人材を輩出する必要があるので、貴族ではないが豪商が世の中を支配するようになるかもしれないね。貧富の差はある程度は仕方ないが、食べられない人間が出るような政策は2度とさせない。ですから、富の再配分という考え方を統治者側にも統治される側にも理解してもらえるように整備していく。王家の人間には負担が増してしまうが許して欲しい。仕事が増えた分、信頼できる優秀なスタッフを抱えて仕事を振り分けることが絶対に必要になる。なので、早急にセリーヌも人材の発掘を進めてほしい。一度、ヴェゼルウェ侯爵も交えて話がしたいので、屋敷で会える手筈をとってほしい。セリーヌが信じられると思ったのなら、ジュリアナとミリアムを女官長候補にしてもいいかもしれないね。優秀ならって枕詞がつくけどね」
食後のコーヒーを飲みながら、話を締めくくる。
「そうですね。それでは、これよりご一緒して、今日の仕事を全部済ませてしまいましょう。」
昼を過ぎると、ラシーヌ様のところのエステ関係の統括官がくるので、その前に済ませてしまおう。
まず全員でランドサットの王城へと転移する。アリサとセディはプリシラ様に預かってもらうようにお願いして、セリーヌと二人で、セリーヌの部屋に向かう。そこから秘密の通路を通って僕がもらう屋敷へと歩いていく。随分前に作った秘密の通路は埃っぽく、足元も色々なものが落ちていて、安全面でも衛生面でもよろしくないので、クリーンを自動でかけて歩いていく。薄汚れていた壁は真っ白に蘇り、足もとの汚物はすっかり無くなり美しく生まれ変わる。5分ほど歩いて一枚の扉の前に到着する。そこを開けると薄暗く埃っぽい屋敷の中に出る。置いてあるものはそこそこいいものだが、如何せん掃除が行き届いてない。前の貴族もあまり使っていなかったと見える。
「前の持ち主もここをメインの屋敷として使ってはいなかったのか?」
「ええ、そうなの。あまり使用人も置かなかったみたいで、数部屋だけ手を入れてあとは置いてあったみたいなの。」
「そっか。」
秘密の扉を出てから、階段を下に降りてから、いくつかの部屋の扉を開けていく。ある程度の屋敷の状態がわかったので、屋敷丸ごとお掃除する。
『トータルクリーン』
薄汚れた壁やガラスはキラキラに蘇り、埃っぽい絨毯もスッキリ。見た目だけでなく匂いまで綺麗になる。
「相変わらず、すごい魔法ね。どうして、ドアの持ち手までピカピカになってるの?」
「普通のクリーンじゃならないの?」
「ならないわよ。それにこんな広い屋敷を一気に綺麗にできる魔法使いなんていません。」
ここにいるんだけど。
「じゃあ、メインの寝室はここだよね。じゃあ転移門を設置しちゃおう。」
部屋のクローゼットの中に転移門を設置すると、僕とジルベールとセリーヌの魔力紋を登録する。
「何かあったら、ここまで逃げてきて、僕の部屋の転移門から逃げるんだよ。わかった?じゃあ、みんなの魔力紋を登録しないといけないから、お城に転移してみんなを連れてこようか。」
セリーヌにそう言ったあと、ジルベールの耳元で囁く。
「ジルベールは、サザンクロスの屋敷と転移門を繋いで、アヌアを呼んで。この屋敷のインテリアを整えて欲しいとお願いしてくれる?」
「わかった。」
ランドサットの屋敷のことはジルベールにお願いして、僕はセリーヌを連れて転移して、プリシラ様のところにやってきた。
「プリシラ様、屋敷の中に転移門の設置が終わりました。魔力紋の登録をしないといけないので、みんなで転移しますがいいですか?」
「じゃあ、誰かクレリックを呼んできて頂戴。」
お付きの者が呼びにいくと、それほど待つこともなく、クレリックが現れる。
「おお、蒼久しぶりだな。今日はジルベールはいないのか?」
「ああ、今、あっちの屋敷の手入れを頼んできました。それでは、みなさん5分ほど歩きます。秘密の通路の歩き方を覚えてください。」
そういうと、もう一度秘密通路の扉を開けて、綺麗に掃除した通路を通って屋敷に向かった。途中何ヶ所かトラップの抜け方を教えて屋敷がわの扉の前に立つ。そこの魔動キーを取り付けて、全員の魔力紋を登録する。
「この扉は、皆様の魔力紋によって開きます。ここに手のひらをかざしてください。他の者の魔力紋では開きませんので開けるときは必ず自分の手のひらを使ってください。」
クレリック、プリシラ、セリーヌ、アリサ、セディ、僕とジルベール。
扉を開けて中に入ると、アヌアがすでに部屋のインテリアをすっかり変えてくれていた。さすがは大精霊仕事が早い。
「え?さっき、蒼が掃除はしたけど、こんなふうなインテリアにはしてなかったわよ。」
セリーヌが驚いて声をあげるから。
「ジルベールに頼んでやってもらったんだよ。正確にはうちの家精霊がサザンクロスの屋敷からきてくれて、インテリアを整えてくれたんですよ。」
「えー。会いたい」珍しくアリサが駄々をこねる。
「アリサ、家精霊は契約した主人にしか姿を見せないんだよ。だからごめんね。でもいつかアリサの家精霊が見つかるはずだよ。その時はたくさん可愛がってあげてね。」
「見つかるかな?」
「うん。きっとね。家精霊が眠っている屋敷を見つけないとね。」
「うん。頑張る」
「それじゃあ、転移門にもみなさんの魔力紋を登録します。僕とジルベールの部屋に行きましょう。」
「お前たちは本当に仲が良いな。いつも一緒で部屋まで一緒とは」
「寝るのも一緒だよな、蒼」
「うん。そうだね。最初はベッドが一つしかなくて一緒に寝たけど、そのままそれが当たり前になっちゃったね。」
「警護するのもそれが一番楽だし確実だから、ついそれが当たり前になったんだよな」
「まあ、今は良いが大人になった時にはそれでは困るぞ。お前たちにはきっとたくさんの嫁ができるだろうからの。」
フォッフォと楽しそうに笑うクレリック様の顔を見ながら、微かな引っ掛かりを覚える。それがどういう感情なのかはわからなかったけど、歓迎すべき感情ではなかった。
「そうかもしれませんね。まだ10歳だから結婚なんて考えられませんしね。あ、そうそうこの屋敷は人間の使用人に管理させるので、この転移門は見えないように『インビジブル』の魔法をかけておきます。なのでこの扉を開いたら、ここを一度触ってください。すると自動的に魔法が解除されて門が見えるようになります。」
「お前にやった屋敷なのに、わしらのためにすまんな。」
「いえいえ、城にはセキュリティのための結界が幾重にもかけられてますから、空間魔法とは相性が悪いのは仕方ないです。それにこんな立派なお屋敷をありがとうございます。これで、ランドサットでも動きやすくなって僕達も助かります。」
「二人とも、この後も時間があるのか?」
「いえ、今日はラシーヌ様のところから、仕事の打ち合わせ担当の官僚が来るので、会議をしないといけません。それから、セリーヌにお願いしたい仕事の話をしてありますので、よかったら、クレリック様、プリシラ様も手を貸してあげてください。多くの貴族家を一気に断絶させたのです、残された夫人や令嬢たちの身の振り方の選択肢を増やすことは必要なので、できるだけ早く手をつけましょう。」
「王家がするべき仕事を代行させてしまい申し訳ない。これからもよろしく頼む。」
「はい、ジルベールをお預かりしてるんです。これぐらいのことは僕がするべきです。では、慌ただしくて申し訳ありません。また参ります。セリーヌ使用人の求人お願いします。明日面接しにきます。」
「わかったわ。また明日」
僕とジルベールは白鳥城に転移門で移動した。




