18 オデッサに帰ります
18 オデッサに帰ります
帰りも行きと同じギルド前に朝の5時集合。この日の朝はあいにく小雨が降っていた。二人分のレインコートを出して外出する準備をする。アヌアが食事の用意をしてくれていた。携帯食をアイテムボックスに収納して、後のことをアヌア達にお願いする。
「オデッサまでの護衛依頼が終わったら、一度イリディングルに戻ってからこっちにくるよ。それでガイヤに作ってもらった図面を元に屋敷を作ろうと思う。なんでそれまでよろしく。何かあったら遠慮なく連絡して。念話が通じるはずだから。」
「はい。どうぞお気をつけていってらしてください。」
簡単に別れの挨拶を済ませると、二人でギルドに向かう。
「雨の日の外出は久しぶりだな。道がぬかるんでるだろうから、馬車の運行に気をつけないといけないなあ。」
「そうだね。ただ荷台は重量軽減の付与魔法をかけるから、それほど車輪が地面に食い込むことはないと思うよ。それより、機敏に動けないことを好機と捉えて襲撃してくる連中が厄介だけど、一応盗賊達は全部退治したから今日ぐらいは大丈夫であってもらいたいね。」
まだ暗い街の通りの向こうにあかりが見えてきた。冒険者ギルドの扉から漏れる明かりだ。僕らはギルドに入ると、受付嬢とギルマスが待ってくれていた。
「【アイテール】の二人ともおはよう。先日は盗賊の討伐ありがとう。渡していなかった、盗賊討伐と奴隷として売却した料金の合計だ。明細は袋の中に入っている。確認してくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
ありがたく、金貨の入った袋を受け取る。
「それで、聞きたかったのは、奴らのアジトについてなんだが。そこに、囚われていた者達はいなかったか?ということと、アジトの中の財宝についてはどうしたか聞きたくてね。」
尋ねてくる気持ちもわかるが、本来は盗賊を討伐したら彼らの持ち物は全て討伐者のものになる。ゆえに自分のものをいちいち他人に詳細を明かす必要はない。
「プロムさん、僕たちがそのことに関して答える必要がないことを知っていてわざわざ聞いているんですか?僕らを法律を知らない馬鹿な子供だとでも?」
そういうと、顔色をなくして弁解を始める。
「いや、そういうわけではないんだ。君たちが話したくないというなら、それで構わないんだ。ただ、盗賊に盗まれたものの中で返却を要求している貴族がいて、優先交渉権を求めてギルドに押しかけてきていてな。」
そんなことだろうと思った。買取ではなく返却という段階で、特権階級が平民の冒険者から取り上げることができると思い込んでいる証拠だ。プロムさんは穏便に済ませようと、ギルドで安めに買い上げて、その貴族に恩をうろうとでも考えたんだろう。
「プロムさんが穏便にことをまとめようとしてくれたことは想像できますが、何処の馬の骨とも知れない田舎貴族如きに踏みつけられる言われはないんで、今回のことは全て拒否させてもらいます。情報開示・盗品の返還・売却全てです。それでそいつらが僕らに手を出すというなら、出せばいい。家ごとなくしてやる。それでちなみに、返還要求している品は何なの?」
「いや、その、腕輪らしいんだが。」
「腕輪?そんなのいっぱいあったから、どんな腕輪か言われても探し出せないと思うなあ。」
「プロムさん、あんた俺たちのことどこまで知ってる?俺たちはすでに、185の貴族家をぶっ潰したんだ。これから一つや二つ増えることなんてどうってことない。俺たちに手を出せば、どこに逃げても絶対に捕まえる。嘘だと思うなら試してみればいい。今のところ命は取らずに、お家断絶ぐらいで許してやってるが、直接手を出すなら全員ぶち殺す。そいつらに伝えておけ。」
僕ら二人から放たれる威圧の大きさに、流石の武闘派ギルド長も耐えられないみたいだ。脂汗を滲ませて辛そうにしている。
「わかりました。出過ぎた真似をいたしました。お許しください。」
そこで、威圧を切って空気を変える。
「さあ、みんな揃ったかな。これからリンゼさん達の護衛についてオデッセに戻ります。『天使の誘い』にわざわざ謝りに行ってくれたんだって?忙しいのにありがとう。僕はあなたのことは嫌いじゃないよ。実家から何か言われることがあるんだろうけど、無視したほうがいい。僕らはむしろ貴族をなくしたい。口実をそちらが作れば喜んで潰しに行くよ。家を潰したくないなら、悪事に手を染めず、善政を敷くことだ。いい領主に手を出すほど僕は愚かじゃない。」
「はい、肝に銘じます。書類の手続きはもう終わっていますので、出発していただいて結構です。」
「ええ。それではまた」
僕達がギルドを出ると、リンゼさん達カーシュ商会にみんなと、【旅する羅針盤】のみんなが揃っていた。
「僕らが最後だったんだね。お待たせしました。書類手続きは終わってるってギルマスから聞いたけど、問題なければオデッサに向けて出発しようか?」
「おはよう。蒼ちゃん、ジルベールちゃん。帰りもよろしくね。」
リンゼさんが何事もなかったかのような自然な笑顔で僕らを迎えてくれる。
「よろしくお願いします。じゃあバイクに乗る人は乗って。残りの人は馬車に分乗でよろしく。」
行きで慣れているので、みんなの対応も早くあっという間に出発準備が整う。雨で地面が緩い分前回よりも強めに重量軽減魔法をかけておく。
そうして、出発して3時間ほどすると、雨が止んできた。地面の緩さは変わらずだけど、レインコートを脱げるだけでもありがたい。行きよりも荷物が軽いので馬達の進むスピードがかなり早く、この調子だと野営しなくてもいいかも知れない。暗い道を走らないといけないけど、あかりの魔道具を使えば大丈夫かな。
「リンゼさん、ちょっとの間夜道を行かないといけませんが、この調子だと
野営をしなくても、夜の7時くらいにはオデッサに着きますよ。どうしますか?」
街によっては日が暮れると、門が閉じられて中に入れなくなるのだが、オデッサは、少なくとも一つは夜中12時まで開けられている。それで、どうするかリンゼさんに尋ねてみた。
「そうなの?そんなに早くついたことがないからわからないけど、もしそうならすごく助かるわ。ゴードンあなた達の考えは?」
「普通だったら、日が落ちた後の移動は危険だから絶対しないが、蒼ができると言ってるんだ。問題ないんだろう。そうだろう?」
「問題ないよ。あかりの魔法を出すし、ちゃんと索敵で敵の存在を把握しながら進むからね。」
「そう、じゃあ先を急ぎましょう。今夜は家のベッドで眠れそうよ。」
みんなの顔が明るくなった。特に疲れた様子を見せるものもいないし、馬達には回復魔法かけてあげて、水と果物と草をちゃんと食べさせてある。
途中寄ってきた雑魚達は、マリナの風魔法で切り刻まれていた。デビの付与魔術のおかげで威力が増したウインドカッターの切れ味の鋭いこと。デビが魔獣の遺体を収納して僕たちの出番はなし。僕も、彼らとの旅は楽しいからこんな急いだ旅程は組みたくなかったけど、あれだけ言ってもわからないやつはいるわけで。一定の距離を空けて僕らを追いかけてきている連中がいる。向こうは、僕たち二人になったところを襲いたいようだから、僕にとってもちょうどいい。リンゼさん達がいなくなれば守りながら戦わなくて良くなるから、やりやすくなる。
ジルベールに言葉少なく念話を送る
〜ついてきている連中はみんなをギルドに届けてから二人で片付けるのでいい?〜
〜俺が片付けてこようか?〜
〜あの腕輪が気になるの。僕の鑑定でも何かわからなかった。だから何が起こるかわからないから二人で行こう〜
〜わかった〜
特に問題もなく、オデッサの門が見えてきたのは夕方の6時40分ごろだった。ギルドで手続きをしてもらって僕たちはお役御免になった。
「リンゼさん、今度お連れしたい場所があるんです。あなたの商売にも大きなプラスになる話です。よかったら近いうちにお時間いただけますか?」
「ええ。もちろんよ。都合の良い時間がわかったら、私たちの商会の事務所まで来てもらえる?待ってるわね。」
「はい、よろしくお願いします。あと【旅する羅針盤】のみんなもありがとう。楽しかったよ。また機会があればぜひ一緒に行こうね。」
「俺たちも楽しかった。ありがとう。また会おうな。」
みんなに別れの手を振って、僕らはオデッサの門を出てきた。街道から、森の中に入る。連中が素早く僕らを取り囲む。
「なんか僕たちが二人になるのを待っている様だったんで護衛依頼を早く切り上げてきてあげましたよ。ご用件を伺いましょう。」
すると、黒ずくめの男達の中から一人が前に進み出てきて、僕らに向かって喋り出した。
「お前達が盗賊から巻き上げたものの中にある腕輪をこっちによこせ。」
「嫌だけど。」
「なら力づくで取り戻すまで」
せっかちなこと。でも、訓練はかなり受けているようだ。素早く三人で1組になり、連携して攻撃を仕掛けてくる。近接戦闘の訓練をかなり受けているようだ。でもね、
「九十九様、行きますよ」
「おお、珍しい。お前が剣を使うか」
九十九様の神剣を抜くと、目に止まらぬ速さで、三人組2ユニットを一気に切り捨てる。後ろで魔法の詠唱を行なっていた男達にジルベールはスライムゼリーを飛ばし、鼻と口を覆ってしまう。呼吸ができなくなった男達を行動不能に陥れ、それを僕が何なく切り捨てていく。最初に僕らに命令してきた男だけを生け取りに、全員を殺す。
「お前達は人を殺せないガキだと聞いていたのに、仲間を全員殺すなんて」
人の命を狙ってきながら自分たちが殺されたら、泣き出すってあまちゃんにも程がある。反吐がでる。
『メモリードレイン』
僕の闇魔法の中でも一番きつい部類に入る魔法だ。
彼の頭の中にある記憶、記録全てを吸収してしまう。彼の頭の中を読んで、背景と誰かがわかったので、彼の中に時限爆弾型魔法を埋め込む
『傀儡』
彼に今回の任務を任せた者の前に出たら、その相手を殺す魔法。
「さあ、自分の主人のところにおかえり」
サザンクロスの門の前に転移させた。あとは周りのものが勝手に動くだろう。
それにしても、人間ってどうしてこんなに愚かしいのだろう。神を恐れぬ所業とはこのことを言うんだろう。それに知恵を貸しているアロンも許せない。帰ったら、神様方にご相談だ。あと、王族達にも連絡しておかないと。
「ジルベール、奴ら動き出したみたいだ。今日はとにかく帰ろう。」
「そうだな。安心しろ、俺がいる。」
「うん。明日神様に報告に行こう。」
「ああ。今日は聖域の城に帰ろう。ゆっくり岩風呂に入りたい」
「賛成。僕もそうしたいなあって思ってた。」
転移で城に戻ると、ミーテルが全て整えてくれていた。
「蒼さま、ジルベール様おかえりなさいませ。お風呂も食事も用意ができています。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
「ありがとう、ミーテル。ゆっくりさせてもらうね」
その日は安心できる我が家でぐっすり眠らせてもらった。
挿話:記憶喪失の男と身元不明の男の死体
目覚めると、サザンクロスの街の入り口前だった。街道の傍でマントにくるまって寝ていたようだ。起き上がると、体が少し重いが不思議なのはここ3日ほどの記憶がない。懐を探ると、特に何も取られていないようだ。
私は、帝国の秘密組織黒鴉の一員で、今は第6王子の元で任務についている。元々は東大陸の最南端の港町であるサザンクロスで、南大陸からやってくる貿易船の乗組員や、聖教国やザグア武国からの船の乗組員から情報を引き出したり、アレジ王国の内情をサザンクロスの領主周辺から集めることが任務だ。
今まで特に大きな変化のなかったアレジ王国に激震が走ったのは11月7日。今から半月ほど前だ。アレジ王国、ミノラ王国がアンダルシア大公を国王にして、連邦国家に移行すると宣言したのだ。国王も、王太子も揃っていた。その全てが一夜のうちに消えていた。我々が調べたところ、殺害されてはおらず、奴隷に落とされてそれぞれの任務地に飛ばされていた。我々は急ぎ彼らに接触を図り身柄を保護しようとした。カイデル・クサイン・テラノの3王子は鉱山に飛ばされて犯罪奴隷に落とされていた。鉱山の中で彼らとの接触に成功した我らの手のものが手引きをして、外に連れ出そうとした時に、自分たちの手の中の奴隷商人に奴隷紋の解除をさせるが、全く消すことができず、鉱山から一歩でも外に出すと身体中が引き裂かれるような痛みがあるらしく、そこから出ることができなかった。
ガストンとは接触でき、うまく連れ出すことができたが、少し目を離したすきに殺されていた。
全く外傷がなく死因は特定できなかった。マルードとは接触できたが本人が逃げることを拒んだ。カシースは全く面影のないアバタ女に成り下がっていたが、高慢なところは全く変わっていなかった。カシースと接触した我々は彼女から、蒼という10歳の黒髪の少年とジルベールという少し年上の金髪の少年が今回のことの黒幕だということを聞き出した。二人のことは全く知らないようだったが、魔法の才能は凄まじく、誰も叶わなかったらしい。平民の分際でと繰り返しているところを見ると、この女には期待するだけ無駄ということだ。彼らは、捕まらなかった王族達の心を掴んで、自分たちは11月6日に突然、知らない場所に連れて行かれ、裁判の真似事のようなことをされ断罪されたと。それだけのことを伝えると、自分の実家に戻って行った。
その二日後に親兄弟が兵隊を連れてランドサットに向かったそうだが、何者かによって一人残さず殺害されたらしい。カシース自身も殺され、館は全て焼かれたらしい。一族のものは誰一人残さず消されたというのに、我々でさえ、誰がやったか全く特定できないということが恐ろしい。
第6王子から突然の命令を受けたことまでは覚えているがそこから先が全く思い出せない。それにいつも一緒に動いている仲間の姿も見えない。どうなっているのか。仕方なく、第6王子の屋敷へと向かう。屋敷に入った私を見た屋敷のものは驚いて、第6王子のところへと私を連れていく。
「オルター、一体どういうことだ。作戦はどうなったのだ?」
「作戦?第6王子、作戦と時はなんのことですか?」
「何を言ってるんだお前は、私は命じたはずだ。仲間を連れて、蒼とジルベールという冒険者を捕まえ、盗賊達から奪ったブレスレットを取り返してこいと。」
「あなたが命じた・・・・」
それから、私は自分が何をしたのか覚えていない。しかし気がついた時には、第6王子は血を流して床に倒れていて、その部屋の中は死体でいっぱいだった。その上周りは燃え盛っている。自分のことが全くわからず天井が崩れてきた時が記憶の最後だ。
私は死んだはずなのに、なぜか黒髪の少年の前で喋っている。
「今度は良き主人に支えられるといいな。僕の命を狙ったことが運の尽きだと諦めることだ。来世の幸せを祈るよ」
その言葉を最後に私の自我は霧散した。




