15 サザンクロスへの護衛依頼3
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15 サザンクロスへの護衛依頼3
石の壁で完全に囲ったので、昨日は誰も夜の番につくことなく眠った。
朝目覚めた時には、まだ太陽は上がっていなくて、夜が明け始めた薄青い世界が広がっていた。家の外に出てみると、昨日の焚き火の後は完全に火が消えてしまっていた。新たに、簡易釜に火をつけるとやかんを出して湯を沸かし始める。しばらく焚き火の炎に見入ってると、リンゼさんが起きてきた。
「蒼ちゃんおはよう。あなたが、安全で快適な旅をお約束しますって言ってたのは完全に本当だったわね。これに慣れたらもう他のパーティに護衛を頼めなくなるわ。」
はははって二人笑い、沸いたお湯で作ったお茶を差し出す。
「薬草茶。ちょっと独特な風味だけど、体にいいから飲んでみて。」
「ありがとう。あら、確かに飲み慣れない味だけど、結構いけるわ。あとからじんわり甘く感じる。」
「よかった。」
「ショックだったわよね。私も小さい頃に盗賊に攫われたお姉さん達に会ったことがあったわ。全てを諦めた顔をしていて、元の村に戻ることを頑なに拒否していた。小さかった私にできることは何もなくて、それもとても悲しかった。」
「あんな辛い目に遭ったあの人たちが、これからまた同じように悲しい目に遭わされるなんて許せないんです。どうしてあげるのが正解なのか、僕にはわからなくて。だから彼女達に今日聞こうと思います。どうしたいのか。もし、故郷でなく新しい土地でやりなおしたいと言ったら、僕の街に連れて行こうと思っています。」
「そうね。知っている人のいないところで、やり直すのも一つの手よね」
「あっみんなぼちぼち起きてきたみたい。朝はサンドイッチにします。」
そうやって起きてきたみんなに挨拶をして、サンドイッチの包みを手渡していく。保護した女性の部屋をノックしたら、みんなすでに起きていて、所在なさげにベッドの上に座っていた。
「朝ごはんのサンドイッチです。よかったら召し上がってください。水はここにおきますね。皆さんに聞きたいことがあるので、隣の部屋の人も読んできますね。」
そう言って隣の部屋をノックして、元の部屋にみんなで戻る。ベッドの下段に腰掛けてもらってみんなに尋ねた。
「僕は冒険者の蒼といいます。皆さんが捕まっていた盗賊は全員捕まえるか殺しました。だから怖がる必要はもうありません。これから、僕たちは、サザンクロスという街に向かいます。元アレジ王国の港町です。そこのギルドに皆さんを託すことになります。そうなると、皆さんの身元紹介が行われて元の場所に戻されることになりますが、もし、そこではなく他に行きたい場所や、知り合いのいない場所に行きたいという人がいるなら、僕の地元の街に連れて行こうと思います。皆さんはどうしたいですか?」
僕の問いかけに答える人は誰もいなかった。沈黙が辺りを支配する。
しばらく続いた沈黙を一人の女性が破った。
「あなたの地元はどこですか?」
「イリディングルという、今新しく作られている街です。これから、住民を募集する街なので、仕事もたくさんありますし、元からいる人はほとんどいません。」
「私はそこに行きたいです。知り合いに見つかる可能性のある街には行きたくない。」
すると、他の6人も全員同じようにしたいといい出した。
「わかりました。それじゃあ、皆さんはサザンクロスには連れて行かずに、イリディングルに送ります。では、行きます。」
集団でイリディングルの僕の家に転移した。
そこから、隣に住んでいるベロニカの家を訪ねる。
「ベロニカおはよう」
「蒼様、どうなさいました?護衛依頼中ですよね」
ベロニカに簡単に事情を話す。
「それで、このホテルの従業員が欲しかったから、本人の希望を聞いて、配属先を決めてくれる?それで、ベッドメイクや、ルームサービス、調理補助など一通りの仕事を体験させてやってほしいの。住むところは、当分の間は窓なしのシングルルームを使わせてあげて。」
「わかりました。」
「それでさあ、ベロニカの仕事大変だと思うの。セリーヌに頼んでおくから、何人かお城の侍女を派遣してもらえないか聞いてみようと思ってるけど
どう思う?」
「セリーヌ様のご迷惑になりませんか?」
「無理そうなら他の方法を考えるから、一人で難しかったら、おばあさまにお願いして服作りのアシスタントとして使ってみてよ。」
「それはいい案ですね。おばあさまもアシスタントが欲しいと言ってましたから。」
すると、一人の女性が声を上げた。
「あの、私、ずっとお針子やってました。服作りの仕事ができるならやりたいです。」
今まで虚だった顔に、初めて生気が宿った。
ベロニカは優しく微笑むと
「そうなんだ。じゃあぜひお願いします。」
と返事をしてくれた。
「それじゃあ、僕は一度みんなの元に戻りますが、また様子を見にきますから、頑張ってください。ベロニカよろしくね」
「かしこまりました。蒼様もお気をつけて」
転移でみんなの待つキャンプ地に戻ってきた。
あんまりやりたくないけど、ジルベール以外のみんなに誘拐された彼女達のことを忘れてもらわなければならない。盗賊達も含めて。
『忘却』
彼女達のことだけが頭から抜けてしまったが、それ以外の記憶はそのまま。
「みんな朝ごはん終わった?そろそろ出発しようか?」
石壁を壊して、火の始末をする。彼女達が乗っていた台は、他の荷台に乗っていた荷物を少しづつ移動して元からそこにあったように偽装する。
そうして出発した僕らは、それからしばらくしてサザンクロスの街に到着した。
「護衛の皆さん、今回は本当にありがとうございました。快適な旅でした。
また帰りもよろしくお願いします。」
リンゼさんの感謝の言葉にこちらこそと返して、束の間の休暇になった。24日また集合する約束をしてそれぞれの宿に引き上げた。
僕はジルベールに宿に行く前に行きたい場所があると言って、ビーチに連れ出した。
ここは、昔、ジョセフィンお母様とリリさんとジルベールが過ごしたビーチのはず。季節外れのビーチは誰もいなくて寂しいけど、それでも、この世界に来て初めての海に僕も少し感動しちゃった。
「覚えててくれたんだ」
「ジョセフィン母さんや、リリさんにとっても忘れられない思い出の場所みたいだったから、ジルベールと一緒に見てみたくて。」
ジルベールが僕の方に腕を回して、そっと抱き寄せる。冬のビーチは寒いのに、暖かい空気が僕らを包んでくれる。
「ありがとう。」
「実はさ、この街に入ってから精霊達が僕を呼ぶんだ。こっちだよって。最初はこのビーチのことだと思ってたんだけど、どうも違うみたい。あの崖の上の屋敷に僕らを呼んでるみたいなんだ。一緒に行ってくれる?」
「はは、もちろん。あの屋敷からの景色はすごいだろうな。」
精霊に導かれるまま、崖に刻まれた細い道を二人で上がっていく。5分ほど進むと、大きな屋敷の前に出た。周りの柵には管理しているであろう不動産屋の看板が何枚も貼られている。
「売りに出されている屋敷らしいな。」
柵に沿って歩いていくと、施錠された大きな門の前に出た。
「やっぱり。精霊達はこの中だって言ってる。でも勝手に入るわけにいかないし。この不動産屋に行って詳しく話を聞いてみよう。」
「そうだな。じゃあ、街に戻ろうか。」
僕らは街に戻ると、ギルドが予約しておいてくれた宿【天使の誘い】へと向かう。場所は聞いていた通りの場所ですぐにわかる。人通りの多い道から一本奥に入った通りに面した静かな宿だ。入り口の扉を開けると美味しそうな昼飯の匂いがした。2階以上は宿だけど、一階は酒場を兼ねた食堂のようだ。食堂の女将と目が合う。
「いらっしゃい。そこの席に座っておくれ。」
僕らは特に何も言わず言われた通りに席に着く。女将が、水とメニューを持って現れる。
「今日の昼はこのセットになってるよ。それでいいかい?」
「はい、2つお願いします。あと、ギルドから2泊の予定で予約をしてると思います。【アイテール】の二人です。」
「ああ、泊まりのお客さんだったんだね。二人の部屋は2階の角部屋だよ。階段登ってすぐ目の前の扉だ。先に食事でいいかい?昼ごはんは宿泊に含まれていないので、別料金になるよ。あたしはエリ、何かあったら声掛けとくれ。」
元気な女将さんがテキパキと必要なことをいい終えると、さっとキッチンへオーダーを通しにいく。
「すごく活気のある店だね。こんなに広いのに満席だ。」
「そうだな。大通りから一本入った店なのに、きっと飯がうまい宿なんだよ。あと、女将が不動産屋の場所を知ってるといいんだが。」
その時は行ってきた冒険者の一団が、席が空いてないことで女将さんに文句を言い出した。揉めている男と別の男が近くの女性客だけのテーブルにちょっかいをかけ始める。
「本当に、どこに行ってもクソは湧いて出てきやがんなあ。」
「蒼にしては汚い言葉だな。」
僕らは立ち上がると、ちょっかいをかけられていた女性達に、店の奥の僕らのテーブルに映るようにいって、女将さんに僕らの食事は部屋へ運んでもらうようにお願いする。その上で、
「おっさん、ガタガタうるせえんだよ。」
「ガキの分際で、Bランク冒険者のワイアット様に喧嘩売ってきやがった。こりゃ傑作だ。」
ガハハハ
その馬鹿笑いの声がうざくてイライラしてる上に、僕に向かって剣を抜いた。
『ダークバインド』
全員の首に闇の拘束具を巻き付ける。最初見せていた余裕もどこへやら、声も出せず茹蛸のように顔を真っ赤にしていく。
全員を扉から外に文字通り叩き出す。
『ナイトメアラビリンス』
その上で、悪夢の覚めない眠りの中に放り込む。僕がいいというまでは出られないよ。悪夢のラビリンスから。
「女将さん、こいつらギルドに引き渡してくるから、帰ったら食べるんで、部屋に食事はこんどいてください。」
「わかったよ。でもあんた達二人で大丈夫かい?」
「うん。余裕。僕たち可愛いだけじゃなくて強いんで。」
「はははあ。こりゃ傑作だ。可愛いだけじゃなくて強いのかい。そりゃ最強だねえ。じゃあ早く帰っといで。」
「はーい」
僕らは、ばか冒険者どもを蔦で縛って地面を転がしながら冒険者ギルドへと運ぶ。ちびっ子二人が、でっかい屈強な冒険者を三人も蔦で縛って引っ張ってるのに、本人達はうなされながら眠ってるっていうシュールな絵面に誰も僕らに声をかけてこない。
さっき手続きを終えたばかりの冒険者ギルドサザンクロス支部の受付に着いた僕たちは、受付のお姉さんに事情を話して、彼らを引き渡す。
すると、金髪のグラマーなお姉さんが出てきて、こいつらを起こしてくれと言ってきた。
「ああ、お前が蒼で、そっちがジルベールか。ゴリから話は聞いてる。護衛してきたリンゼたちもありえないぐらい快適な旅だったと、エキストラを払ってくれた。本当にありがとう。その上、うち所属の冒険者が迷惑をかけたみたいで申し訳ない。私が後を引き継ぐからこいつらを叩き起こしてもらえないか?」
「わかりました。お姉さんのお名前は?」
「ああ、私はここのギルドマスターをしている、プロム・アーガンシアだ。よろしく。」
「はい、こちらこそよろしく。僕たち本名は名乗れないので、名前だけで失礼します。」
それから、魔法を解除する。奴らは目を覚まして僕の顔を見ると怒って飛びかかりそうになってたが、プロムさんにぶっ飛ばされてた。
「街の人に迷惑をかけるなって何度言えばわかるんだ?」
「・・・。」
無言で青ざめる三人をプロムさんのお付きの男達が地下にひきづって行った。プロムさんみたいな人がいるならこの街は安泰だ。後で領主のことお調べておこう。
そして、受付のお姉さんに不動産屋の場所を尋ねる。
「ああ、シルバーサックス不動産ですね。このギルドを出て、左に行きます。二つ目の角を左に曲がって、3つ目の角にありますよ。」
「ありがとうございます。行ってみます」
ジルベールと二人案内通りに歩いていくと、言われた通りの場所にその不動産屋はあった。
扉を開けて中に入る。扉につけられた鐘がカランカランと軽快な音を立てる。すると奥から身なりのいいおばあさんが出てきた。
「いらっしゃいませ。あら、僕たちどのような要件かしら?」
「突然すみません。海辺の崖の上に建っている屋敷が気になって、購入を考えていますので内見させていただきたくて。」
「あのごめんなさい。親御さんはどちらにいらっしゃるのかしら?」
「ああ、僕たちは冒険者です。冒険者ギルドカードの中に白金貨30枚以上入っています。僕の支払い能力を疑っているのでしたら冒険者ギルドに問い合わせを。」
「あら、ごめんなさい。気を悪くさせてしまって。そういうことでしたら、今鍵を持ってくるわ。孫娘に案内をさせるから、ちょっと待ってもらえるかしら?」
そういうと店の奥に入って行った。しばらく待っていると、僕らよりも少し年上に見える少女が出てきた。
「案内するわ。ついてきて。」




