聖女のエステ
17 聖女のエステ
【新暦586年11月12日】
昨日魔力切れスレスレまでいったからか、今朝は起きてもまだ気だるい感じ。でもトイレに行こうと立ったら、グレンと出会った。
「ああ、おはよう。」
「おはよう蒼。具合悪いの?」
「うん。昨日転移使いすぎて魔力切れ起こしちゃったから、まだ回復してない感じ。」
「そうなんだ。じゃあマッサージでもしようか?あたし、前世でエステの会社やってて。一応トップエステティシャンだったのよ。予約1年待ちってやつ。疲労が溜まった人には効果絶大だったんよ。」
「え?やりたい。是非、お願いします。」
「でも、マッサージベッドとかオイルとか備品が足りない。」
「えっと、具体的にどんなものが必要?オリーブオイルと椿オイルならあるよ。あとローズマリーとかティートゥリーの精油もある。それに特別に調合した全身保湿用クリームもある。」
「なんでそんなもん持ってるのよ。一応マッサージベッド、タオル、バスタオル、後オイルは洗濯しにくいから、不織布のシートがあればいいけど」
「ダンジョンのドロップ品だよ。あと、王大后様たちに使ってもらおうと作ってみたんだよ。めっちゃ好評で増産しなきゃって思ってたとこ。」
「それがあるなら問題ないわ。マッサージベッドはあなたのベッドを代用するかな?」
「うーん、僕らのベッドは大きいからやりにくいでしょ?すぐ作るから待ってて」
アイテムボックスから使えそうなものを引き出して、
『クラフト』
するとシングルサイズの革張りのベッドを作成。表面の皮にファイヤーリザードの皮を使ったのでほのかにあたたかい。その上にジャイアントトード
の皮を張ったので、防水はバッチリ。アリの外骨格を使ってベッドの骨組みを作ったので、軽くて、硬い。これだと移動させるの楽だよね。ユーカリの木で不織布のようなシーツを作った。
「こんなもんでどう?」
「いや、むしろ豪華すぎだから。ファイヤーリザードの皮の上に敷いた防水布はなんなの?」
「ただのカエルの皮だから。」
「絶対ただのカエルじゃない。じゃあ服を脱いでうつ伏せで。パンツは履いたままでいいわ。」
はーい。前世の20歳だとちょっと気になるかもだけど、10歳だからな。
不思議となんも感じない。言われた通りに、ベッドにうつ伏せになって、
「それじゃあ始めます」
の声を聞いたのを最後に記憶がない。それで気がついた時には70%MPが回復して元気になっていた。
「僕どれぐらい寝てた?」
「うーん、マッサージ始めてすぐに寝てたから、1時間ちょっとかな。」
「グレンすごいよ。MPが70%回復してる。おかげで元気になれたありがとう。」
「喜んでもらえてよかったわ。」
「それでちょっと相談に乗ってほしいいんだけど」
そこで、昨日ジョセフィンお母様に化粧品会社の設立の提案をしたことを伝える。それで、もしよかったら、その化粧品を使ってこの世界初のエステサロンを展開しないかと持ちかけてみた。聖女としての仕事もあるから、常勤でなくても、スタッフの教育だけでもと粘り強く交渉した結果、グレンがOKを出してくれた。ラシーヌ様には化粧品会社じゃなくてこっちを提案してみようかな。
これ僕が飛んでいくより、全員をここに集めてやった方が良くないかな?
「じゃあさ、ボディは疲れるだろうから、フェイシャルをラシーヌ様にやってもらえない?絶対ラシーヌ様喜ぶから、エステサロン開業資金出してくれるかも。」
「確かに、王大后様のエステサロンだと貴族の婦女子は絶対通うわ。一気に多店舗展開できるかもね」
「ここだとちょっと見栄えが悪いから、聖域の城にお連れするよ。だからそっちで準備して待ってて。ベロニカ」
「はい、蒼さま。これから聖域の城にみんなを連れて行くから、そこでラシーヌ様のフェイシャルの施術をグレンにやってもらうんで、その準備を一緒にお願いしたいの。」
「わかりました。グレン様のお手伝いをすればよろしいのですね。」
「うん。見晴らしのいい、小部屋を使って。キリルも一人だと不安だろうから一緒に連れて行ってあげて。」
そう言って持って行くものと人を集める。
『転移』
「な、なんですか?ここ?え?世界樹?世界樹ですか?」
「うん、また今度詳しく。」
「じゃあ、俺が代わりに説明しといてやるよ。グレンが仕事してる間キリルは俺が面倒見るから安心してくれ。」
着いてきてくれたジルベールが言ってくれた。
「ありがとう。じゃあラシーヌ様連れてくる。」
転移でラシーヌ様のお部屋に向かう。
「ラシーヌおばあさま」
「あら蒼ちゃん、待ってたの。この間のクリーム最高よ。シワがあっという間に薄くなっていって、肌がもっちりしてきたのよ。」
「喜んでもらえて嬉しいです。それでこれは全身に使えるクリームです。お風呂上がりに使ってください。あとご相談なんですが、このクリームはただ塗るだけでも効果があるんですが、これに特殊な施術を加えると、もっと効果があるんです。それでよかったらおばあさまに体験してもらいたくて。ちょっと僕の家まで来てもらえませんか?」
「ええ?ちょっと待って。ねえ誰か?」
「はい、ラシーヌ様。」
「私少しの間蒼ちゃんのところにいってくるからしばらく取り継がないでちょうだい。ほんの数時間よ」
「はい、承知しました。」
「では行きましょう。」
僕の聖域の城の玄関の前に転移してきたおばあさまは、こぢんまりとした
城を見て
「まあ、素敵。なんて可愛らしいんでしょう」
って、喜んでくださった。
「おばあさま驚くのはまだ早いです。では中をご案内いたします。」
玄関の扉を開けて中にはいる。中央には大階段。
「ここから上に上がるのですが、この階にもお見せしたいものがあります。」
大浴場の扉を開けておばあさまに見せる。
「ここは、大浴場です。従業員も一部使いますが、お客様優先でゆったりと入浴を楽しんでいただけます。」
「まあ、なんて素敵。こんな広い浴場は見たことないわ」
「今日はお時間がタイトですので、今度ゆっくりしにいらしてください。」
「ええ、もちろん。」
大階段にも取りおばあさまの手を取る。
『フライ』
「本日は4階の北側の部屋を使いますので、階段も続くとお体に負担になりますので今日は魔法でご一緒しましょう。」
2階と3階の説明は端折って4階へ。廊下の南北に部屋が並んでいるのだが、北側の真ん中の部屋の前にジルベールが立っていた。
「ラシーヌおばあさまようこそ。」
「あらジルベールちゃんまた会えて嬉しいわ。それで隣のその子はどなた?」
「キリルご挨拶できるかい?俺と蒼のおばあさまだよ。」
ジルベールの足の後ろに隠れていたキリルはおずおずと前に出てきて
「キリルです。初めまして」
と挨拶した。
「キリルちゃんね。私はラシーヌよ。あなたもあたしのことをおばあちゃんと呼んでちょうだい。」
キリルは嬉しそうに、うんと返事をすると恥ずかしいのか、ジルベールの腿に顔を擦り付けている。
「おばあさますみません。最近保護した子ですけど、人見知りがまだ強くて。」
「いいのよ。可愛い子は大好きよ」
僕とジルベールは同時に扉を開く。そこにはマッサージベッドがすでにセットされ、グレンとベロニカが控えていた。そしてマッサージベッドの奥に世界樹が見えている。
「蒼ちゃん、あの木ってもしかして世界樹なの?エルフの居住地にしかないと聞いていたのだけど。」
「はい、先代の世界樹様は10年ほど前から力を落とされていて、その結果こちらに新しい世界樹が植えられました。植物の大精霊フローラの力と、5女神様のおかげを持って死の谷は緑の谷へ変貌しました。」
「まあ、なんて素晴らしい景色。」
「ありがとうございます。準備は整っているようですので、さっそく始めましょう。本日担当してくれるのは野良聖女のグレンです。彼女は色々な分野で秀でた才能を持っていますが、この施術に関しては超一流です。こちらに仰向けで横になってください。それではお願いします。」
「王大后様、グレンと申します。本日はよろしくお願いいたします。
さっそくですが、お顔の洗顔から始めていきます。」
ぬるま湯でオリーブ石鹸を泡立てたものが準備されており、ハケを使って顔に泡をおいていく。優しく表面の汚れをとったあっと、保湿を行い、マッサージオイルを使って、顔の筋肉のマッサージを行う。決して皮膚を引っ張らないように細心の注意を払いながら行う。陛下はいつの間にか眠ってしまわれたようだ。滑らかに流れるようなグレンの手つきは見ていてとても心地よい。一定のリズムに乗って行う施術は彼女の技術の高さを物語っている。
彼女の施術が終わったので、音を立てないように道具の片付けを行い、僕とジルベール以外は部屋の外に出る。隣室で休憩をとってもらう。
しばらくしてラシーヌ様が目を覚まされた。
目を開いてしばらく天井をご覧になっていたが、周りを見回して、そっと起き上がる。
「私かなり眠っていたの?」
「いえ、施術が終わってからは10分ぐらいでした。」
「今、お飲み物の準備をさせますので、3階のテラスに参りましょう。」
3階の北側の扉を出て、教会との間の中庭にテーブルを用意して、白湯の準備をする。
「こちらは、白湯ですのでゆっくりお飲みください。体の老廃物の除去に効果的です。」
「いただきます。屋敷ではあまり白湯は飲まないけど、美味しいわ。不思議ね。本当に気持ちよかったわ。初めての経験だった」
白湯を飲んでほっと息を吐かれたラシーヌ様に手鏡を出す。鏡の周りに優しい光を放つクリスタルを配置してある、特製の鏡だ。
「こちらご覧ください」
そう言って鏡の中の顔を見ていただく。
「これが私?こんなに変わるものなの?」
「はい。それでご相談なのですが、僕たちはこの施術をエステと名づけておりますが、それの経営をラシーヌ様やりませんか?私たちが、必要な物資を用意し、先ほどのグレンが技術の指導を行います。ラシーヌ様には経営をお願いして、この世界の新たな雇用発掘に繋げていただきたいのです。実は、化粧品の会社をジョセフィン様にご提案させていただいたのです。で、ラシーヌ様にも同じご提案をと思ったのですが、それよりこちらの方がお互い協業できていいのではないかと思いまして。」
「でもそれだと蒼ちゃんたちのメリットがないのでは?」
「いえ、そもそも私たちの体は一つしかありませんし、それでは産業は伸びません。この国はこれからたくさんの新しい仕事、産業を育てて、民の働く場所を確保しなければなりません。私たちはこのことだけに関わってはいられないのです。それに化粧品の材料はうちが提供しますし、技術指導料や、特許料などを売り上げの3%ほど払っていただきますので、あがりがないわけではありません。」
「そんなことまで考えてくれてるのね。」
両手の中のカップを見つめながら、何か考えておられる。
「王族って、施政者って何なのか私はわかっていなかったんだってやっとわかったわ。過去には後悔しかないけど、それでもみんなの助けで誤りをただせた。今はそれだけが救いよ。わかりました。やります。やってみせます。仕事に就けなくて身を持ち崩す女がもうこれ以上出ないように、私は私のできることを頑張るわ。これからもよろしくね」
「もちろんです。おばあさま」
「あの、ラシーヌおばあさま、一つ申し上げておかないといけないことがありまして。私は25年前に誘拐されて行方不明だったアレジ王国第3王子のジルベールです。実は誘拐された後に、特殊個体のスライムの中で、スライム型知的生物というものに進化しまして。蒼にダンジョンの中で助けてもらって、今ここにいます。それで、ジョセフィン様のことはお母様と呼んでいます。蒼も僕の相棒ということで母よびになっておりまして。ラシーヌ様をおばあさま呼びするのはどうかなって考えておりました。」
「あなたのお母様が、あなたがいなくなった後、心を病んですぐに亡くなられた時のことを思い出してたの。そうあなたが。よかった、どんな形でも生きていてくれて。ジョセフィン様は気丈にされていたけれどあなたのことだけはかなりこたえたみたいでそれは一時期お窶れになられてたわ。それで、王室に戻るの?」
「いいえ。俺は家族との時間をもう誰にも邪魔されたくないんです。俺のことが公になれば格好の攻撃材料になりますから。それに新しくこの国を建て直すには王子である必要はないんです。民が笑って暮らせる国づくりに参加できれば俺はそれで。」
「そうよね。あなたと蒼ちゃんが一緒にいることが一番物事がうまく進むのかもね。というわけで、おばあちゃん呼びでこれからもお願いね。」
少し教会の中もご覧いただき、創世教で語られない不都合な真実についてお話ししました。
「そういうことだったの。私たちはなんて罰当たりなことを。」
そう言って、破壊神様に手を合わされていました。
名残惜しそうにされていましたが、転移で自分のお屋敷に戻られました。
これで、化粧品会社とエステ会社が誕生することに。一人でも多くの人が生きていく仕事にできるよう、僕も頑張らないと。
「ジルベール、やっと一歩踏み出せたね」
「そうだな、これからこの世界の人が働いて生きていける国づくりを頑張らないとな。」
「それから、お金もね。金・銀・銅が不足すれば経済規模に合わせて柔軟にお金を流通させられなくなるから紙幣の導入も視野に入れないとね。」
「そうだな。紙幣もだし、冒険者ギルドと商業ギルドでやってるデビッドカードシステムをもっと進めないとな。焦らないでやってこう」
グレンにお世話になったから、明日は何かお礼がしたい。エレンにも会いに行って魔道モーター作ってもらわないと。エレベーター、エスカレーター、それから船。お母様やお婆様にかっこいい魔動船をプレゼントしたい。そしたら彼女たちを侮るものもいなくなるだろうしね。女王の船か。夢が膨らむなあ。でもそしたら絶対クレリック様が王の船を作ってくれって言ってくるだろうな。素材集めとかないと。




