ジョセフィンおばあさまじゃなくてお母様
16 ジョセフィンおばあさまじゃなくてお母様
【新暦586年11月11日】
まだ服が完成していないから、クローゼットの中にある比較的ちゃんとした服を着て、僕とジルベールはおばあさまの離宮にやってきた。
いつものように鈴を振る。
すると、走ってくる音が聞こえて
「蒼ちゃん、ジルベールちゃん。待ってたわ」
ジョセフィン陛下がやってきた。
「もう、陛下走らないでください。危ないでしょ」
「何を言ってるのよ。ずっと待ってたんだから。」
「あれ?陛下どうかされました?」
「ラシーヌ様から聞いたわよ。何でラシーヌ様はおばあさまなのに、私は陛下呼びなのよ。」
ああ、そっちか。うん、でもいいタイミングだ。
「あの、ではジョセフィンおばあさま、お知らせしないといけない大切なことがあります。お人払いしていただける場所はございませんか?」
急に変わった僕のテンションに敏感に気付かれたジョセフィン様は離宮の応接室に案内してくれた。
「この部屋には、私とリリしかおりませんが、リリも下げますか?」
「いえ。リリさんはそのままで」
そしてジルベールを見ると、ゆっくりと仮面を外した。
「ジルベール、そんなジルベールなの?でも25年も前なのよ。もしかしてジルベールの子なの?」
するとゆっくりジルベールが説明を始めた。
誘拐や、進化、僕との遭遇の経緯など。
「何度も打ち明けようと思いました。でも、拒絶されるのが怖くて。昨日お兄様が気づいてくださって。それでやっと言い出すことができました。」
するとジョセフィン様はジルベールを抱きしめて
「どんなにあなたに会いたかったか。オイリアにあなたを抱きしめさせてやりたかった。ああ、神様、神様」
横に立っていたリリさんも呆然としていたところから立ち直り、声を殺して大粒の涙を流している。
「ジルベール様、よくお戻りくださいました。」
「ただいま、リリ。心配をかけたね。」
「それで、昨日お兄様やお姉様と話をしたんだけど、僕の存在は格好の王家への攻撃材料になる。異質なものに対する恐怖は攻撃を生むからね。だから、僕は王子には復帰しないで、こうやって家族としてみんなとの時間を大切にしたいって思ってる。」
「そんな。せっかく会えたのです。老い先短い私のそばにいてくれないの?」
「いいえ、いますよ。ずっとそばに。25年も会えなかったんです、これ以上他人の横槍に対応することで貴重な時間を失いたくない。それに、全く関係ない蒼が一人で僕らを助けて守ってくれてるんです。まだたった10歳の男の子ですよ。いくら神様に大きな力を授かったとはいえです。僕は僕のやり方で、蒼が導いてくれたクレリック兄さんの新しい国がうまく行くように協力したいんだ。王子としてじゃなく家族として。だから許して欲しいんです」
ジョセフィン様の手を握って強い眼差しで語るその姿に、うっかり僕も泣きそうになる。ジョセフィン様が涙を拭ってジルベールをしっかり見る。
「あなたはやっぱり王子なのですね。誰よりも気高く王子であることの意味を理解している。あたしが間違っていたわ。王子という身分がなくても、政府の役職についていなくても、民のために正しい施政者であろうとするその気持ちが王家の一員である証です。こんなことも私は忘れていたようです。蒼様ジルベールのことどうぞよろしくお願いいたします。」
「はい。」
「じゃあ、私はお母様ね。蒼様もそう呼んでくださいまし。」
その言葉にジルベールと目で会話して
「「はい、ジョセフィンお母様。」」
というと、リリさんがまた号泣し始めた。
「リリ、あなたいい加減に泣き止みなさい」
優しくリリさんの背をな出るジョセフィンさんの笑顔は輝いていた。
「そうそう、ジョセフィン様。先日渡し忘れたものをお持ちしました。」
アイテムボックスからアラクネシルクの布を出す。
「すみません、これがそんなに価値のあるものだと知らなくて。」
「蒼ちゃん、これは?」
「アラクネシルクの布です」
「え???」(絶句)
「必要でしたらこれからもお持ちしますので気楽に使ってください。代金は前回いただいてますから追加は結構です。」
「おばあさま、蒼はクレリック兄様、プリシラ様、セリーヌ、ラシーヌ様みんなに渡してるから気にしないで。欲しかったら、俺たちでまたとりにいってくるからさ」
「取りに行くってどこに行くの?アラクネってSランクの魔物よね?」
「近くのダンジョンに行くんだけど、アラクネはそんな大変じゃないよ。」
ねえって僕らは声をそろえる。
「あなたたち強いのね。でも十分気をつけて。どこに落とし穴がるかわからないからね。」
「はい、わかりました。」
「ちょっと色々ありすぎて言い忘れてたけど、蒼ちゃんあのクリームなんですか?一回使っただけで、気になってたシワが薄くなったわ。リリにも使わせてみたら、リリにも効果がすごくて。あれもっと買わせてもらえないかしら。私たちが急に若返ってきたから問い合わせが激しくて。」
「そうなんですね。嬉しいです。これから会社を立ち上げてあのクリームを中心に美容製品を売っていこうって考えてたんです。それで、新製品です。あのクリームを少し薄めて塗りやすくしたものです。体にたっぷり使ってください。気になるカサカサしたところもすぐにプリプリですよ。」
「ええ?リリ。体にも使えるものができたらしいわよ。」
「それで、ご相談なんですが、材料と製法は私たちで提供するので、化粧品会社のオーナーになることにご興味はありませんか?一応、ラシーヌ様、プリシラ様、セリーヌ様にもお声をかけさせていただいて、それぞれの世代にあった、それぞれの好みの製品を販売して競われるのはいかがでしょうか?女性は年齢や人種、肌の色などでも悩みの種類は違います。また、匂いや質感、パッケージのデザインなどにも好みが分かれます。値段によっても購買層は変わるでしょう。色々研究していただいて、お客様のニーズに応える。やりがいがあると思うんですが」
「やるわ。」
「え?」
「やるに決まってるでしょう。やるなら一番になるわ。」
「わかりました。それでは数人優秀なスタッフを選んでおいてください。研究、製造、販売、接客、宣伝、経営に人員が必要です。私の方でも研究機関の設立に動きますので、店舗と事務所の準備をお願いいたします。多分販売する商品の数はすぐに10倍は超えるでしょう。よろしくお願いします。
これ、僕に用事がある時に押してください。できるだけ急いで駆けつけますので。」そう言って、クレリックに渡したものと同じものを渡した。
「リリ、忙しくなってきたわね。早速女官たちを集めて対策会議よ。」
「はい」
お暇の挨拶を交わして、僕たちは転移でうちに帰ってきた。
ほんとに今日は何回も転移したなあ。魔力の消費が激しいのはこの体の重さで感じる。
「ジルベール、今日はもう無理かも。」
「帰って早く休もう。エレンたちには俺が伝えにいってくるから。」
「よろしく。」
あとのことはもう知らないけど、ジルベールがちゃんとしてくれたみたい。
また明日もすることが増えちゃった。
でも生きてるって感じ、嬉しいな。




