14 キリルが逃げたわけ
14 キリルが逃げたわけ
【新暦586年11月10日】
「私は、世界のあちこちを旅しながら、自分のできる手伝いをして日々の糧を得ている野良聖女です。元は教会の聖女でしたが、内部の腐敗が酷すぎて、我慢できなかった私は逃げ出しました。色々と彷徨っているうちに、天翼族の村につきました。そこで出会ったのが、キリルとその母のミンジェです。」
グレンはいつもよりはっきりと力強く語っている。感情に振り回されないように平静を保とうとしているようだ。
「私は、キリルとミンジェに助けられて、しばらく一緒に暮らしていました。ある時怪我をした男を一人拾って、治療を施してやりました。しばらく一緒に暮らしてる間に、熱心に看病してくれるミンジェのことを好きになったようで、ミンジェに告白したようです。しかし、彼女はキリルとの静かな生活を望んで拒否しました。するとキリルが原因で自分の告白を受けないと考えたその男は、キリルを狙い始めたのです。その後その男が族長の息子であることがわかり、村の長老連中も、ミンジェとくっつけようとしました。
一度はミンジェも一緒に逃げようと考えたようですが、他に頼る当てもなく、自分が逃げることで村の人たちが酷い目に遭わされるのも忍びないと考えた彼女は、私にキリルを連れて逃げてほしいと頼んできたのです。」
なんか込み入った理由があるとは思ってたけど、そういうこと。
「そうか事情はわかった。それで私は族長に何と返事をするべきかな?」
クレリックは思案顔で僕に聞いてきた。
「そうですね。僕が彼らを保護すると決めたのです。だからちゃんと保護します。では、私が返事を書きますのでそれを返信として送っていただくことは可能ですか?」
「それは構わないが、私は蒼様を何と先方に紹介すればいいかな?」
「では、こうお伝えください。長らく不毛の大地であった死の谷を神より賜り、緑の谷に変えた神の御使だと。」
「わかったそうしよう。」
「皆様にご迷惑をおかけしないように、きっちりと片付けてきます。どうぞご安心ください」
では、そろそろ行きますか。
「皆様、これから命を狙われることも増えてまいりますので、私の方から献上品と買っていただきたいものがございます。二人の王大后様にはすでにお渡ししております。」
そして、クレリック用に、巨大なダイヤモンドと複数の小粒のものを献上品として提示。その後、結界蝋燭、ガラスペン、インク、紙、仙桃、防御の指輪、魔法の食器、肌用若返りのクリーム、オリーブ石鹸。クレリック専用に、マントと剣。
「王大后様達にお出ししたものとほぼ同じですが、大公陛下専用に、マントと剣をお持ちしました。
マントも剣も私が作りました。
マントはギガントスネークの皮・ジャイアントトードの皮を合わせ、物理攻撃・魔法攻撃の80%をカット。と防水保温効果がついています。ゴールデンフォックスの尾の毛を使って縁取りしてありますので魔力のチャージが可能になり、魔力切れを防ぎます。キングビートルの羽を飾りにつけたことで、風魔法にバフがつき、敏捷性も向上しております。
剣はベヒモスの牙とミスリルを合わせて合金を作り、それをオリハルコンで包みます。その上にブラックダイヤモンドの粉を吹きつけ、硬さ・粘り・切れ味ともに最高ランクの剣ができています。柄につけたコボルトの魔石は全属性対応の魔石なので、どんな魔力でも貯めることができ、魔法発動時にバフがつきます。」
少し早口で説明しすぎたのだろうか?みんな呆然としてる。
「あの?何か問題がございますでしょうか?」
「いや、あの、これほどのランクのものを私は見たことがなくて。いったいいくら支払えば良いかわからなくて途方に暮れておったのだよ。」
「ああ、そうですか?実は代金は白金貨2枚と決めているのです。どちらかというと、これが、皆様に必要だからお渡ししたので、金額のせいで使えないということでは困ってしまうので。あと追加でアラクネシルクもおつけします。」
「・・・・・・・」
「ジルベールと僕らにとってはアラクネシルクはそう貴重なものではなくて。ただ、服屋で貴重なものだと聞いたので、お使いいただければとお持ちしました。」
「この量のアラクネシルクだけで、白金貨が何枚飛ぶかというのに。こんなに安くて構わないのか?」
「はい。ぜひ。プリシラ様とセリーヌ様の分もありますがいかがですか?」
「もちろんありがたくいただく。では白金貨6枚だな。おいドボル頼む」
「はい。こちらに、すでにご用意は整っております。」
僕は大量の物資を皆様の前に出した後、セリーヌ様とプリシラ様に声をかける。
「石鹸をよく泡立てて、優しく泡で包むように洗ったと、ぬるま湯で流してからこのクリームを塗ってください。次の日の朝の皮膚が全然違います。ちょっと昨日間に合わなかった、体用のクリームです。こちらも入浴の後体を拭いてからお使いください。肌が湿っている時が効果的です。」
「まあ、そんないいものがありますの。ぜひ、今夜から使わせていただきますわ。」
それから、テーブルをお借りして天翼族の族長に宛てた手紙を認める。
大公陛下に手渡ししてあとはお願いする。
「それでな、蒼様。大公陛下と呼ばれるのは堅苦しいで、名前で呼んでもらえんか?」
「はい、それでは私のことも蒼と呼び捨てでお願いします。クレリック様」
「ではわたくもプリシラとお呼びください。」
「はい、プリシラ様」
「蒼様私のことはこれからもセリーヌと呼んでくださいね。」
「はい、セリーヌ様。」
「いえ、セリーヌです。」
うぐぐ
「わかりましたセリーヌ」
「よろしくね、蒼」
「それでは、またまいります。御用があるときはこちらの魔道具のボタンを押してください。」
「わかった。ありがとう。」
「では。お兄様、お姉様、セリーヌまた来るね。」
「ああ、ここはお前のうちだ。いつでも来るように。」
「おじさま、待ってます。」
「なんかこの絵柄で、セリーヌにおじさんて言われると変だけどまあ仕方ないね。」
はははとみんなそれぞれ別れの挨拶をして転移でうちに戻った。
なんか忘れてる気がするんだよね。何だったかな。
次の日になって、ヒュンを置き去りにしたことを思い出して、謝りに行ってきたのはまた別の話




