13 プリンス・ジルベール・ド・アレジ
13 プリンス・ジルベール・ド・アレジ
【新暦586年11月10日】
「じゃあまずは俺からいいか?」
そう言ってみんなを見回すジルベール。僕が小さく頷くと
「まずは、俺の正式な名前は、プリンス・ジルベール・ド・アレジ。アレジ王国の第3王子でクレリック兄様の腹違いの弟だ。俺は、13歳の時に誘拐されて、ダンジョンの中のスライムの中で25年間過ごした。その間に人間から、スライム型知的生物に進化していて、最近ダンジョンで蒼に見つけてもらって今ここにいる。」
そういうと、さっきまで泣いていたクレリックが
「お前がいなくなったあと、オイリア様が半狂乱になられ毎日お前を探しにいく許可を国王陛下や母に願い出ていた。元々母の侍女をしていたオイリア様と母はとても仲が良くて、姉妹のようだったから、母も力の限りお前を探させていたんだ。しかし、オイリア様が城を抜け出す事件が発生して、2日後に見つけた時には、別人のように変わられていた。それで塔に移されて療養していたが、2ヶ月後にお亡くなりになったよ。」
さっきまで気丈に振舞っていたジルベールだが、声を殺して涙を流している。僕は彼の手を握りながら
「ジルベールが泣いても誰も咎めないよ。誘拐した人間が悪いんだ。お母様もジルベールも誰も悪くない。」
そういうと、僕の肩に顔を埋めて泣いていた。
「ジルベールは、本当は早く皆さんに身分を明かしたかったと思うんです。でも彼は人間じゃなくて進化した存在になってしまった。そのことが、受け入れられないんじゃないかっていう心配があって先延ばしにしていました。
僕も、一人でこの世界に降り立って初めてできた友達だったから、ジルベールが僕と一緒にいるって言ってくれた時は嬉しかった。だから、彼の言葉に甘えてしまっていました。もっと早くこの場を作るべきでした。申し訳ないです。」
「いや、蒼は悪くない。それにこうやってクレリック兄さんやプリシラ姉さんに会えた事はとても嬉しいけど、俺の存在は王家の立場を悪くするだけだ。だからこれからも蒼と一緒にいたいと思ってる。」
ジルベールが涙を拭った笑顔でそう言った。
「ジルベールが、王族に復帰することに何の問題もない。お母様もきっと喜ばれるさ。」
「そうよジルベール。私の弟に誰が文句なんて言わせるものですか。」
クレリックとプリシラは一生懸命その思いを伝えてくれる。
「大公陛下、大公妃陛下、恐縮ですがジルベールの言うとおりにさせてあげてください。ジルベールは誘拐されて25年たち、誘拐された当時の姿をしている。王家を攻撃したいもの達からすれば格好のネタです。それよりも失った25年を取り戻すように、皆様と穏やかな時間を過ごせること以上に大切なことはありません。お許しいただけますか?」
クレリックとプリシラは顔を見合わせてポツリといった。
「そうね。ジルベールが攻撃の矢面に立たされ続けるなんて、私たちも耐えられない。ちゃんと私たちに会いにきてくれるのなら構いませんよ。」
そうプリシラがいうと、クレリックは頷く。
「では次に、ベロニカですが、彼女は健康を取り戻し元気にやっております。ただ、セリーヌ様の事件に関わっていて、捕縛されていないのが彼女だけです。いくら騙されたとはいえ、現実にセリーヌ様達を城の外に出したのは彼女なのです。ですから、セリーヌ様のそばに返すことはできません。彼女には私のもとで働いてもらおうと思いますが、皆様のお考えは?」
「蒼様、ジルベール様、私気を失っていて、助けていただいたことも覚えていないのですが、本当にありがとうございました。こうして直接お礼が言えたこと本当に嬉しいです。ですが、やはりベロニカに戻ってきて欲しくて。」
そう言うと、口をきつく閉ざしてしまう。
きっと今ついている侍女達に気を遣っているのだろう。
「蒼様、私も主人も蒼様の考えに同意いたします。身内だけ優遇するとそこから綻びが出ます。蒼様の元にいると言うなら、私たちの手が届かない言い訳にもなりますから。」
プリシラ様が少し厳しい顔をしながら返事を返してくれる。
「はい、承知しました。ただ、セリーヌ様やお子達はベロニカに会いたいことでしょうから、時々私たちの街に遊びにいらっしゃるのはいかがでしょうか?私が転移でお迎えに上がりますので、危険はありませんし、すぐです。今、イリディングルという街を作っておりまして、いずれは、ランドサットとも、行き来できるようにしたいと考えております。」
「まあ、素敵。私たちもお邪魔してよろしいかしら?」
「もちろんです。喜んでご招待いたします。」
「セリーヌ、それでいいかしら?」
「はい、皆様のご厚情感謝します」
セリーヌが頭を下げて話を閉める。
「さて、蒼様やっと本題ですな。」
大公陛下が声をかけてくださった。みんなの視線が動く。
「はい、そうですね。こちらにいますのが、野良聖女のグレンと、天翼族のキリルです。」
グレンはぎこちなく立ち上がりお辞儀をする。
「グレンと申します。この子、キリルの保護者の代わりをしております。キリルは人見知りが激しくて。無作法をお詫びいたします」
グレンの脇から背中の方に顔を向けてしがみついてるキリルに苦笑いしながら詫びを入れる。
「別に構わない。公の場ではないゆえ。それで、その子には何か訳があるのか?天翼族の族長から問い合わせの手紙が届いておる。」
そういうと、悔しそうに唇を噛み締めてグレンは黙り込む。しかし数瞬後覚悟を決めた顔で僕たちの方に顔をあげた。




