挿話:腕の長い公爵
挿話:手の長い公爵1
(クレイダー公爵目線)
新暦586年10月1日
朝目覚めたらお爺様から言われていた日になっていた。近隣のめぼしい街、王宮、貴族家、大商人のもとに、息のかかったもの達を配備した。今日が予言されていた、御使様の出現日。そう遠くない日に何かが起こり、そこに必ず御使様が現れるはず。私はどうしても、お爺様の遺言を御使様に伝えなければならない。
我が家のお庭番を束ねている頭領で名をおりんという。祖父同士仲が良かったので、幼い頃より、共に武術の稽古に勤しんだ修行仲間だ。私は剣の才を認められて、それを伸ばしていったが、公爵家を継ぐために学問や帝王学、領地経営、人身掌握術など学ぶべきものが多く、10歳以降は共に過ごす時間が減ってしまった。彼女はあらゆる武術の才能に恵まれたが最も高い才能を示したのが、忍術つまり諜報だ。故に我が家の諜報活動の全てを任せている。各王家の諜報部のはるか上をいく能力を持つ我がお庭番衆には、今までも何度も助けられてきた。
朝の支度を済ませ、執務室に入ると、最初に目を通すべき書類が厳選されて机の上に置かれている。緊急を要するものは赤い封筒にまとめられており、書類に目を通し終えてから、早速赤い封筒内の書類から決済していく。
すると、扉をノックする音が聞こえる。
「アンソニー様、ファルシアです。」
「入れ。」
「おはようございます。先程、報告がありましたのが、死の谷で大きな光の柱がたったとのことです。その後特に変わったこともなく、魔物のスタンピードなどの情報なども入っておりません。」
「それはいつ頃起こったことだ?」
「報告を受けましたのは5分ほど前です。起こったのは30分ほど前ではないかと思われます。連絡はギルドの光通信を使ったものです。」
「そうか、わかった。オデッサに追加で二人調査員をおくれ。三人体制で切れ目なく任務を遂行せよと伝えてくれ。」
「御意」
まだ決まったわけではないが、今代の御使様は転移で死の谷のダンジョンに降りられたか。ということは、ダンジョンの素材を売りにオデッサかオローラの冒険者ギルドか、商業ギルドに現れるはず。
「あと、オデッサとオローラの冒険者ギルドか商業ギルドで変わった素材や商品を売りに出すものが現れたらそのものの動向を探ってくれと伝えてくれ。」
「承知しました。」
ファルシアはそういうと、おりんに指示を伝えにいった。
それから、1月ほどは特に何も起こらず平和だった。
新暦586年11月4日
その日の昼過ぎ、執務室にファルシアが入ってきて、報告した。
「アンソニー様、王太子の元にダンデル卿が呼ばれました。特に関係の深い側近ではないのに、短い面談の後、馬に乗って出て行きましたので、一応跡をつけさせております。」
「ご苦労。引き続き報告を頼む」
「御意」
それから2時間ほど経った頃だった。ファルシアが息急き切って部屋に入ってきた。
「アンソニー様、死の谷に派遣していたものからの報告です。昼前ごろに、突然大きな地響きが起こったので、死の谷に向かうと、完全に地形が変わっていて緑あふれる大地になっていたそうです。そして巨大な木が生えていて、崖が消えて、川ができて、あまりの変化に戸惑っていたら急に全てが見えなくなったそうです。正確に言うと、遠くから見ると元の死の谷だけど、近づくと中に入れないようになっているようです。」
ああ、やっと御使さまが動き始めた。
「余計な手出しは不要と伝えろ。ただ遠くから見守ってているようにと」
「はい」
新暦586年11月5日
「アンソニー様、セリーヌ様とお子2名がランドサットのアンダルシア大公のもとに逃げ込んだそうでございます。その逃避行をお助けしたのが、黒髪と金髪の二人の男の子だったようで『ツインエンジェル』と呼ばれているとのことです。また、侍女のベロニカの姿が見えないと報告が上がっています。」
今回の御使様はお一人のはず。どう言うことだろうか。
「引き続き監視を強化するように。」
新暦586年11月6日
「大変です。ミラノ王国、アレジ王国ともに、王様、王太子様、初め複数の王族が一斉に消えたそうです。またクレリック様プリシラ様も消えられたそうですが、御使様と共に行くので心配せずとも良いとおっしゃって消えられたそうです」
今回の御使様は、セリーヌ様を救われ、大公たちを迎えにきたと言うことは、彼らの側にあると言うこと。と言うことは、王や王太子はなんらかの不興をかったのか?
「この件は、この後誰が戻り、誰が消えたかで事態が大きく変わる情報収集を徹底せよ。」
「はっ。ただちに」
その日の夕方になって、
「クレリック様、プリシラ様、ジョセフィン様、ラシーヌ様ご帰還され、それ以外の方は戻られなかったようです。その後なんの発表もございません」
ファルシアの報告を聞いて、これは大ごとになると直感が叫んでいる。
自分の勘が正しければ、3国がクレリック大公の元に統合される流れができつつあると言うこと。既得権益を犯される強欲な貴族が黙っているはずはなく、国が乱れるは必定。御使様の意図を間違いのないように理解せねば。
「帰ってこられた王族方の監視を強化しろ。必ず御使様は接触なさる。」
「御意」
御使様何をなさるおつもりですか?
新暦586年11月7日
「アレジ王国、ミノラ王国の王大后お二人の連名で詔が発せられました。」
ああ、やはりあの愚かな王族達は片付けることになさったのですね。それにしても無血でこれほどのことをやり遂げるとは。御使様は相当なキレものなのでしょうね。
「ファルシア、すぐに王大后様方とアンダルシア大公に手紙を書くので、できるだけ早くお届けしてくれ。我々は御使様につく。故に、皆様方の味方であると。その忠誠の証に、愚か者の首を差し出しますと。」
本当は我々がしなければならなかったことを、御使様に押し付けてしまったのだ。これから起こる些事はできるだけ、我らで取り除かねば。貴族を名乗るなら当然のこと。




